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とある家族の物語

「エルナ、大きくなったら俺と結婚してほしい」

「もちろんよ、アドルフ」


 俺とエルナは幼馴染だった。

 親同士の仲が良く身分も釣り合っていた。

 当人同士が結婚を望むのであればと俺が10歳になる年に婚約をした。


 俺が20歳になった年に俺たちは結婚した。


「アドルフ、あなたと一緒になれるなんて私は幸せよ」

「俺もだ」

「私たちは幸せ者ね」

「ああ」


 俺たちは貴族には珍しく愛し合っていた者同士の結婚だった。

 家族も友人も皆俺らの結婚を祝福してくれた。



 しばらくして男の子が生まれた。

 俺とエルナの子供が。


 俺らはその子をそれは大事に育てた。


 その翌年は女の子が生まれた。



「この子たちは本当に俺によく似ているな」

 男の子のほうは目のあたりが、女の子のほうは笑った顔が俺によく似ていた。


「あなたの子ですもの、当然です」

「そうなんだが、俺は君に似た子も欲しいなと思って」

「まぁ、私じゃ足りないと?」

 エルナはぷくっと頬を膨らませる。


「そんなことはないさ。でも、君に似た子なら可愛らしい子に育つと思ってね」

「この子たちも十分可愛いですよ」

「ああ、俺たちの子だからな」



 5年後、女の子が生まれた。

 上の二人とは違い、エルナによく似た子だった。

 上の二人を愛していないわけではないが、やはり自分に似ている子供よりも愛する妻に似ている子どもが生まれたことがうれしかった。


「この子はこれからお前たちの妹になるんだぞ」

「まぁ、なんて可愛らしいの!」

「妹が増えるのか、お世話が大変になるな」

「心配はいりませんわお兄様、私がこの子をお世話しますわ」

「何を言うか! 父様がお世話するんだ。お前たちにその役目は譲らんぞ!」

「アドルフ、何を言っているんですか。あなたは忙しいでしょ」

「仕事なら家でもできる!」

「無理に決まっているでしょ。その子の世話なら私に任せてください」

「まだ君には休んでいてほしいんだが」

 出産を終えたばかりのエルナだけに任せてはいられない。

「この子で3人目ですよ? それに使用人がいますからそんな心配はいりません。働いてください!」

「わかったよ」



 エルナの言う通り俺は今、家でやれる仕事がない。

 家でもできるような仕事は、エルナが身重になってから全て行ってしまっていたため、ある仕事と言えば外でしなくてはいけない見回りや他領との交渉などだった。


「エルナに働けと言われてしまったし仕方ない、働くか」

 それから俺は後れを取り戻すように働いた。

 一刻も早く家族との時間を過ごすために




「ただいまー」

 1か月間、他領地で行われた会合を終え俺は自宅に帰ってきた。


「おかえりなさい、お父様」

 子どもたちが俺を出迎えてくれる。

 その中にエルナの姿はない。


「エルナは?」

「母様はベッドの中」

「え? もう寝たのか? 早いな」

「ううん、そうじゃないの」

「?」

「母様はここ最近全然ベッドから出てこないの」

「え?」

 俺は心配になってエルナの元へ向かった。


「エルナ? エルナ?」

「ああ、アドルフ。おかえりなさい。お出迎えできなくて悪かったわね」

 ただでさえ色の白いエルナの顔は真っ白になっていた。


「エルナ、大丈夫か?」

「ええ、お医者様は何ともないって言っていたから」

「何ともないような顔色じゃないぞ。明日、他の医者に診てもらおう」

「大げさね」


 その晩から、いくつもの伝手を使って何とか名医と呼ばれる医者の連絡先を得た。

 明日にでも行く。と言われたとき俺は心底安心した。


「こんばんは」

「こんばんは、先生。よくぞお越しくださいました」

「で、患者は?」

「私の妻のエルナです。今は寝室におりますので」

「ああ、そのままでいいよ。動くのもつらい場合があるからさ」

「では、ご案内いたします」



「っ、これは!」

「どうしたのですか?」

「ノリアンダ症です」

「それはどんな病気なんですか?」

「顔が蒼白になり、どんどん体には原因不明の疲労が蓄積されていく。そして、患者の睡眠時間がどんどん長くなっていき最期には寝たように亡くなる病気です」

「それは治るんですよね?」

「私には治すことはできません」

「じゃあ、妻は……」

「この病気を治せるのはノリアンダという人物ただ一人です」

「その人物は今どこに?」

「わかりません」

「その人物に会えれば妻は治るのでしょうか?」

「おそらくは。ノリアンダは治療を拒まないと聞いたことがありますから」


 私はノリアンダという人物をあらゆる伝手を使って探すことにした。

 どんなに聞いても誰に聞いてもそんな人物のことは知らないという。


 それでも、俺は諦めるわけにはいかなかった。

 妻の睡眠時間は日に日に長くなっていく。

 早くノリアンダを見つけなければ。


「ちょっと、他国まで行ってくるから」

 そう使用人と子供に伝え出かけた。


 なかなか知っている人には会うことはできなかった。

 この国でも同じかと思い諦めかけていた時、彼は現れた。


「あのー、すみません。私を探しているのって君ですか?」

「は?」

「私、ノリアンダというものなのですが」

 ノリアンダと名乗る人物は10歳くらいの子どもだった。


「ふざけているのか! お前がノリアンダなわけないだろう」

「ふざけてはいませんよ。私がノリアンダですよ。まあ、信じてくれなくても構いませんが……」

 そんなわけはないだろう。

 妻の病が治せる唯一の人物が子供だなんて、そんなことあるわけない。


「信じてくれないなら帰ります」

 だが、もしこの子供が本当にノリアンダなのだとしたら……


「で、信じるんですか? 信じないんですか?」

「信じるよ。君には妻を治してほしいんだ」

「わかりましたが条件があります」

「条件?」

「完治してからで結構なので」

 その条件を話そうとしないノリアンダ。

 だが、エルナが治るのであればそんなことはどうだっていい。


「わかった。君が妻を治せたら条件とやらを飲もう」

「ありがとうございます」




「今帰った。」

「……」

「誰も居ないのか?」

 いつもなら真っ先に出迎えてくれる子供たちが今日は一人も来ない。

 エルナのもとにでもいるのだろうか?


 今は子どもたちのことよりもエルナのほうが優先だ。



「彼女がエルナさんですか」

「ああ、そうだ。今すぐ治してくれ」

「……無理です」

「なんだって? ここまで来て無理だというのか!」

「仕方ないじゃないですか。だって彼女、もう死んでるんですから」

「なんだって?」

「だから、もう死んでるんですって」

 そんなの嘘だ。いつものように寝ているだけだろう。


「遅かったんですね。さすがの私でも死んだ人は治せません」

「じゃあ、俺の今までの努力は無駄だったのか……」

「無駄ではないですよ」

「無駄だろう! 俺はエルナを助けるために……」

「あなたも、かかってるんですよ」

「は?」

「ノリアンダ症」

「なんだって?」

「あなたがノリアンダ症にかかっているから声をかけたんですよ。自覚症状、ありますよね?」

 確かに最近は妙に体がだるかった。

 でも、それは疲れているせいだろう。


「何を言っているんだ?」

「何を、って事実ですよ。私も驚いたんですよ、まさか夫婦でかかる人がいるなんて」

「……」

「ここに入るまでに会った使用人の方々はかかっていないようでしたが、この家にいるのって彼らだけですか?」


「子どもたちがいる」

 いつもは出迎えに来るのに今日は来なかった子供たちが。


「ラック、あの子たちは?」

「みなさまなら寝室です。みなさん、仲良く寝ていらっしゃいます」

 みんな寝ているだって? まだ夕方だぞ?


「見に行ってみましょうか」



 子どもたちの部屋に入ると3人ともすやすやと眠っていた。

「この子たちも、ですね。3人ともです。まさか一家全員患っているとは」



 俺だけならば、いざ知らずこの子たちもエルナと同じ病気にかかっていたなんて全く気付かなかった。


「お前なら治せるんだよな?」

「治せますよ。ただここまで進行していると後遺症は残りますけど」

「後遺症?」

「はい、あなたたち全員に残ります。どうしますか?」

「どうするって何を」

「患者様の中には治さなくてもいいという人もいるんですよ」

「俺は……」

 愛するエルナが残してくれた3人の子供たち。

 彼らを見殺しにすることなんてできなかった。


「治してくれ」

「全員ですか? 跡取りと自分だけではなく?」

「もちろん全員だ」

「わかりました。本当にいいんですね?」

「ああ」

 いいに決まっている。愛する家族には一刻も早く元気になってほしい。



「これで治療は終了です」

 ノリアンダは数分間俺らに手をかざしただけ。

 それだけで治療が終わったという。


「本当に治ったんだな」

「もちろんです」

 万が一治っていなくても俺は彼女の言葉を信じるほかはない。


「で、条件のことなんですけど」

「ああ、報酬か。いくらだ?」

「お金はいただきませんよ」

「は? じゃあ、何が欲しいんだ」

「あなたが持っている私に関する記憶です」

「記憶だと?」

 意味の分からないことを言う。


「昔はそんなものもらっていなかったんですけど、以前襲われまして」

「襲われた?」

「はい、後遺症が残ることは事前に伝えてあったというのにひどいですよね。だから、治療した皆さんには私に関する記憶を消させてもらっています」

 なのに、なぜ初めに来た医者は彼女のことを知っていたんだ?


「初めのほうの人だと覚えていたりするから私のことを知っている人を見つけ次第消させてもらっているんですよ」

だから、あなたに教えた人の私に関する記憶も消さないといけませんね。


「というわけで、忘れてください」



「あなたがノリアンダという名前を教えた人物ですね?」

「君は?」

「知らなくていいですよ、そんなこと」

 この男から再びノリアンダという名前が出てくることはないだろう。




「そなたがノリアンダか?」

「ええ、そうですが私のことを誰からお聞きになられたのですか?」

「この国の情報収集力を侮るでない。それで、そなたに来てもらった理由だが」

「ノリアンダ症ですよね?」

「そうだ。王子が患っている病気がノリアンダ症であると聞いた。そなたなら治せるのであろう?」

「もちろんですよ」

「なんとしても治してくれ」

「後遺症が残る可能性がありますが」

「そなたしか治せるものがいないんだろう? 後遺症ぐらい諦める」

「わかりました」




 ノリアンダ症。

 それは作成者のノリアンダにしか治すことのできない病気。

 感染すれば80%以上の確率で発症し、発症から1~2か月ほどで死に至る病。

 病が進行してしまえば治ったとしても後遺症が残ってしまう。


 後遺症が残った人物は皆、狂い始める。

 今までの人物からは全く予想もつかないほどに。


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