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俺と魔王

「おぬしに頼みがある」

「なんですか?」

「この国には魔物がいて、国民たちをさらっていくのだ」

「なんだって?」

「そこでおぬしには魔物の長である魔王の討伐を頼みたいのじゃ。この国のものではない主にしか頼めんのじゃ」

「王様……。わかりました、その話引き受けます」

「感謝する。お主にはこの聖剣ラックを与えよう」

「聖剣ですか?」

「ああ、これを使えば1撃で悪を滅することができる。魔王は殺せる」

「そんなものを俺に?」

「ああ、お主は勇者じゃからな。お主にはこの国の人間をつけよう」



 俺は佐々木耕太。

 人助けが趣味?の大学生。

 このたび、この世界に勇者として召喚された。

 正直異世界なんて信じられないけど、誰かが困っているっていうんだ。見捨てられないよな。



 王様によってつけられた人は2人。

「俺はジョン、こっちはジョセフ。俺たちは娘を魔王に攫われたんだ。どうか娘を取り戻すのを協力してほしい」

「そうですか……。ぜひとも協力させてください」


 そして、俺たち3人は魔王領がある場所へ向かった。




 よくあるゲームとは違い、全く邪魔ものが出てこなかった。

 道も整備されていて、とても歩きやすい。

 城を出てから1時間もしないうちに無傷で魔王のいるという城にたどり着くことができた。

 どうなっているんだ?



 城にたどり着くとそこには門番が立っていた。

 もしかして、この門番が強敵なのか?


「こんにちは。どちら様の紹介ですか?」

「は?」

「ああ、紹介なしの方でしたか。少し入るのに時間はかかりますけど、大丈夫ですよ」

「紹介?」

 紹介ってなんだ?

 まるで会員制のクラブの入会手続きかなにかをしに来ているみたいじゃないか。


 意味が分からなくて呆けている俺たち。

 そこへ一人の男が来た。

「クラウスさんその人達、勇者のご一行さん」

「ああ、彼らがそうだったのか」


「すみません。今からご案内いたしますね」

「案内ってどこへ?」

 まさか魔物の巣窟にでも連れて行かれるんだろうか。


「どこって、もちろん魔王様の元ですけど? 魔王様に会いに来たんですよね?」

「ああ」

 そうだが、まさか魔王の元へ案内されるなんて思わないだろう。


 見た目は人間のようだが、魔物かもしれない。

 もし人間だとしてもさすがに魔王のもとにいる人の言葉を鵜呑みにすることはできない。俺は、門番達には聞こえないようにジョンとジョセフに尋ねた。

「今までってどうだったんですか?」

「どうって?」

「今までもここに来た人はいるでしょう?」

「ここに来た人間はみな帰ってきていないのでわからないんですよ」



「何をこそこそ話しているんですか? 行きますよ?」

 外から侵入するのは難しいかもしれない。

 もし、これが罠だったとしても門番についていくしかないのだろう。


「お願いします」




 門番に連れられ、魔王の城に入った俺たち。

 いつ襲われても対処できるようにしていた。



「着きましたよ」

 この扉を門番が開けたら一斉に魔物たちが襲ってくるのかもしれない。

 俺たちは臨戦態勢を取った。


「魔王様―、勇者ご一行をお連れしましたよー」

「すみません、開けていただけますか?」

「了解しました、魔王様」

 魔王というぐらいだから魔法で開けるのかと思えば意外と人力のようだ。

 というか、今魔王お願いしてなかったか?

 いや、まさか魔王が誰かにお願いなんてしないだろう。


「よくお越しくださいました勇者ご一行。疲れていませんか? のど乾いていませんか? 今用意しますね」

 そういって王座を立ち上がろうとする魔王。


「魔王様、そんなこと私たちでやりますから」

「いや、でも悪いし」

「そんなことありません。というか私の仕事なので取らないでください」

「そうなの?」

「そうです」

「じゃあ、お願いしちゃおうかな?」

「はい」

「少し待っててくださいね。ルビーの淹れるお茶は美味しいんですよ」

 とても幸せそうにいう魔王。

 なんでこんなにのほほんとしているんだ?

 というか本当にこいつ国民を攫ったという魔王なのか?

 俺がこの魔王が本物か疑っているときジョセフは震えていた。



「ルビーだと?」

「はい。彼女はルビーですよ?」

「ルビーは俺の娘だ! 今すぐ開放しろ!」

「解放と言われましても……」


「できましたよー」

「ルビー!」

 ジョセフはルビーと呼ばれていた少女の腕をがしっとつかんだ。


「何ですか? というか痛いんで離してください!」

「お前ルビーなんだろ? 俺だ、父さんだ」

「父さんですって?」

 ルビーはジョセフの手を振り払った。


「今更何の用があるっていうの」

「何の用ってもちろんルビーを取り戻しに来たんだよ」

「取り戻しにきたですって? よく言うわ、捨てたくせに!」

「捨ててないさ、捨てるわけないだろう」

「嘘よ。私がいなくなった日の次の日に、ばばさまと私を捨てるつもりだったんでしょう」

「なぜそれを……」

「聞いたからよ」

「誰に?」

「誰にですって? あんなに大きな声で話していたら嫌でも聞こえるわ。私たちを捨てるって、やっと捨てられるって嬉しそうな声で話していたじゃない!」

「……」

 なんか、話の流れからしてジョセフが悪いっぽい?


「ジョセフ、娘さんって魔王に攫われたんじゃ」

「魔王様が私を攫ったですって? バカなこと言わないで! 魔王様は路頭に迷っていた私たちを保護してくれたのよ」

「なんだって? じゃあ、カスミは、俺の娘は……」

 ジョンが魔王に聞く。


 俺はこの城に来るまでの間、ジョンからジョンの娘についての話を聞かされていた。

 1週間ほど前に急にいなくなった愛娘が魔王に連れ去られたのだと悔しそうに話す姿は本当に娘を愛しているように見えた。


「カスミ? 残念だけどその子は知らないな」

「そんなわけないだろう! 1週間前にお前に攫われていくところを見たやつがいるんだ!」

「1週間前? ああ、もしかして」


「ルビー、あの子連れてきて」

「あの子、目覚めたんですか?」

「うん、さっき連絡が来たから。起きたばっかりでつらいかもしれないけど……」

「了解です」


「あのー」

「ああ、今連れてくるから。多分あの子がカスミだと思うよ」

「連れてくるって?」

「川でおぼれていた女の子を保護してたんだ」

「保護だと? 攫ったんだろう! 見たやつがいるんだ!」

「攫ったと思われても仕方ないかもしれない。彼女が目覚めたら連絡しようと思ってたんだ」

「どうだかな」


「連れてきましたよ」

「お父さん!」

「カスミ! 無事だったのか」

 娘を抱きしめて泣いているジョンを見て、彼は本当に娘を愛しているのだと思う。


「うん。襲われたところを魔王様に助けてもらったの」

「襲われた? おい、魔王お前は川におぼれていたといったな」

「僕が彼女を見つけたのは川におぼれていた時だよ」

「カスミ、何があったんだ?」

「女狩りに遭ったの」

「女狩り?」

「そう、若い女だけを攫うらしいわ。私も遭うまでそんなのがいるって知らなかったけど、昔から行われていたらしいわ」

「そんなものが……」

「それで必死に逃げていたら、川に落ちたの。落ちてからもあいつらはずっと追ってきて……」

逃げているうちにおぼれてしまったらしい。


「魔王様がいなかったら、私あいつらに連れ去られていたわ」

「そういえば近くに若い男が数人いましたね。人命救助を優先したのであまり気にしてはいませんでしたが」

「そいつらが女狩りです」

「それはさっさと駆除しないといけませんね」

「「は?」」

「さっすが魔王様」

「クラウス、何人か男たちを呼んできてください。駆除にいきます」

 魔王は門番を呼びつけて頼んだ。

「了解です」


「ちょっと待て」

「なんですか、勇者さん」

「なぜ、魔王が人間を助ける?」

「そんなもの決まっているでしょう。この城には女狩りの被害に遭った女性やその家族がいます。家族同然の彼らが気付つけられたのだから報復に行くのは当然でしょう」

「俺も行く」

 そうジョンが言う。

「娘に手を出したやつを放っておくわけにはいかない」


「魔王様、こいつ多分女狩りのこと知ってますよ」

 そういって、ルビーに散々殴られたであろうジョセフを指さす。

「なぜそう思うのですか?」

「タイミング的に怪しいでしょ。10年も前にいなくなった娘探すなんておかしいじゃないですか」


「ってことで首謀者が誰か吐けよ」

 そういってルビーは実の父親であるジョセフを脅した。

 彼女にとっては実の父親なんてものはもう大事でも何でもないんだろう。



「は、はい。女狩りの首謀者は王です」

「は?」

「王が首謀者なんだ」

「それは本当なんだろうな。嘘をついたら……」

「嘘じゃない! 本当なんだ」

 俺に魔王討伐を頼んだ王が女狩りをしていただと?

 俺は女狩りに利用されていたというのか……。

 しかし、そのことを俺は鵜呑みにはできない。

 脅されてとっさにいっているだけかもしれない。


「魔王様、人員はそろいましたよ」

 迷っている間に魔王陣営たちがそろってきてしまった。


「俺はどうすれば……」

 俺はとっさに王からもらった聖剣ラックを抱きしめた。


「勇者様、それラックじゃないですか?」

 魔王陣営の1人が聖剣を指さして言った。


「これを知ってるのか?」

「ラックでしょ? 知ってますよ」

 まさか魔王の味方が知ってるとは。


「それ作ったの、俺の親父だからさ」

「は?」

「それ、俺の親父が作ったの。いい剣だろ?」

「君のお父さんは今どこに?」

 まさか親子で敵同士とかなのか?


「親父なら今談話室で将棋やってるよ?」

 いいのか、こんなにゆるくて。

 というか、魔王を倒すための聖剣を作った人間が魔王の仲間になっているってどうなってんだ?

 頭が痛くなってくる。


「ああ、もしかして勇者様は魔王様につくか、王につくか迷ってる感じ?」

 迷っていることがばれてしまった。

 俺はこれからどうなるんだ。もしかしたら殺されるのかもしれない。



「仕方ないよな。俺も最初そうだったもん」

「え?」

「いや、いきなり魔王様が好意的に接して来たらそれは驚くっしょ。俺は助けてもらったし長い間一緒に暮らしてるから信じられるけど……」

 うーんとしばらく悩んだ後に男は言った。


「そうだ。ラックで魔王様襲ってみ?」

「何を言っているんだ、君は」

 魔王の味方なんだよな? こいつ。

 突然の裏切りかと思ったが誰も彼をいさめない。


「ああ、そりゃいいな」

「それが一番手っ取り早いしな」

 それどころか賛同する。

 こいつら頭大丈夫か? 味方である魔王を殺せという。

 魔王の目の前で。


「いいよな、魔王様」

「打たれるのは痛いから手加減はしてくださいね?」

 魔王まで俺がラックを使うことに賛同しだした。

 痛いなら止めろよ!



「お前ら、魔王が死ぬんだぞ?」

「魔王様に限ってそれはないだろ」

「うん、ありえねーな」

「なぜ否定できるんだ!」

「俺らは魔王様を信じているからな。だから、絶対に魔王様は死なない」


 そこまでいうなら。

「もし死んでもお前らが止めなかったせいだからな?」

「いいぜ」




「はあ!」

 俺は魔王に一撃打ち込んだ。


 …………なんともない。

 もう一度

「はあ!」

 …………なんともないだと?


「どうなっているんだ?」

「勇者様は聞かなかったか? 聖剣ラックは1撃で悪を滅することができるって」

「聞いたさ。魔王を倒せるともな」

「その剣は、悪しか切れないようになってんだ」

「は?」

「無駄切り防止なんだと」

 そんな理由だったのか。


「だからさ、魔王様は悪じゃないから切れないの。わかってくれた?」

 王が悪を1撃で滅することができるといった剣。

 その剣では魔王は切れなかったのだ。

 信じるしかないだろう。


「信じるよ、魔王」

「本当ですか? じゃあ、信じてもらえたところで悪の根源国王をつぶしに行ってきますので、勇者様はごゆっくりくつろいでください」

「俺も行く」

「え?」


 俺は人助けが好きだ。

 誰かが困っているっていうんだ。見捨てられない。

 それに利用されていたなんて許せない。


「俺も行かせてくれ」

「では、お願いしますね」

「ラックで切ってやれ」

「切れんの?」

「悪なら何でも切れるらしいぜ。断罪にぴったりだろ」

「そうだな」


 俺は城に向かう。

 王からもらった剣で王を、悪を切るために。


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