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おにいさんとぼく

 ぼくはおんせんにかぞくでりょこうにきていた。

 おんせんからかえるまえにママがどうしてもあしゆにいきたいっていうからいまからあしゆっていうのにいくんだ。

あしゆってふつうのおふろとちがってズボンをまくってあしだけはいるおふろなんだって。たのしみだなー。



「これがあしゆかー」

やねはあるけど、とびらはないなんてへんなかんじ。

 まんなかのくぼみにはたくさんのおゆがはいっててそこにあしをいれるんだって、くるまのなかでママがおしえてくれた。


「はいっていい?」

 「いいわよ」

 だんだんとあしがぽかぽかしてきた。ふつうのおふろもいいけどあしゆもいいな。


「ゆうー、パパちょっとはるちゃんとトイレ行ってくるからママと二人で入ってて」

「うん、わかった」

はるはぼくのいもうとだ。まだまだちっちゃいからひとりでといれにいけないんだ。

ぼくはもちろんひとりでいけるよ。だっておにいちゃんだもん。


「はい、もしもし」

「ゆうくん、ごめんね。ママちょっと電話かかってきちゃったから・・・」

「うん、わかった。ぼくここでまってるね」

「ごめんね。ママ、お電話終わったらすぐ戻ってくるから」

「ぼくのことはきにしないで。ひとりでまてるよ。だっておにいちゃんだもん」

 ママはいつもいそがしいんだ。いえにいてもよくでんわがかかってくる。ぼくはもうなれっこだからきにしなくていいのにママはしんぱいしょうだな。



 パパもはるもママもなかなかかえってこない。

いつもはすぐにかえってくるのに、おそいな。

ぼくはママたちがどこにいるのかきになった。でも、タオルがなくてあしをふけないからしかたなくあしゆにつかったままママたちをさがした。

 そのときぼくのめにはいったのは、パパでもはるでもママでもなくってきれいなしろいかみのおにいさんだった。

 あまりにもきれいだったのでぼくはそのおにいさんをちかくでみてみたくてぼくはおにいさんのもとへいってはなしかけた。

「ねぇ」

「どうしたんだい?」

「おにいさんのかみはなんでそんなにきれいなの?」

「この髪のことかい?綺麗だなんて嬉しいな」

「うん、きれいだよ」

「ありがとう」

 そのときにぼくはきづいたんだ。おにいさんのめはみぎとひだりでいろがちがうって


「ねぇ、おにいさんのめはなんでみぎとひだりでいろがちがうの?ふしぎだね」

「不思議でしょ」

「うん。ふしぎだけどきれい。おにいさんもそのねこちゃんも」

 そういってぼくはおにいさんのひざのうえにいたねこちゃんをゆびさした。

ずっときになってたんだ。おにいさんとおなじいろのねこちゃん。


「君は僕のこともこの猫のことも綺麗だっていうのかい?」

「うん、きれいだよ。なんでおにいさんもねこちゃんもそんなにきれいなの?ぼく、おにいさんやねこちゃんみたいにきれいなひとやねこちゃんみたことないよ」

「そっか、綺麗・・・か。」

「もしかしておにいさんってまほうつかいさんなの?」

「え?」

「ぼくしってるよ。このまえテレビでみたんだ。まほうつかいさんはとってもきれいなんだって。それにねこちゃんといっしょにいるんだよね。だから、おにいさんまほうつかいさんでしょ。それにまほうつかいさんは、だれかをしあわせにするんだって」

「魔法使いが誰かを幸せにするの?」

「うん、そうだよ。だれかをしあわせにするためにまほうをつかうんだって、アランがいってた」

「アラン?」

「そう、まほうつかいさんのなまえだよ」

「そっか。魔法使いは誰かを幸せにするのか。でも、なんで君は僕のことが魔法使いだって思うの?」

「だって、おにいさんもねこちゃんもおなじいろしているし、きれいだし・・・。それにね。ぼく、おにいさんとおはなしするまでさびしかったんだ。パパもはるもママもぜんぜんかえってこなくて、ぼくひとりぼっちだったの。でもおにいさんにあえたらそんなのわすれちゃったんだ。だからきっとおにいさんがまほう、つかったのかなって」

「そっか」

「うん」


「あのね、誰にもいっちゃいけないよ。君にだけ教えよう。実は僕は魔法使いなんだ。だけど、僕に使える魔法は一つだけ。寂しい気持ちを和らげる魔法だけなんだ。がっかりした?」

「そうなの?でもがっかりなんてしないよ。だって、ぼくはそれでさびしくなくなったんだから」

「そっか。ありがとう」

「うん。ねぇおにいさん、ぼくもまほうつかいになれるかな?」

「君が望むのなら。でも、お兄さんみたいに一つの魔法しか使えないかもしれないよ。それでもいいの?」

「うん。だってぼくは・・・」

「そっか。君はいい魔法使いになれるよ」

「ほんとに?」

「ああ、本当だよ」


「ゆうくん?ゆうくーん?」

 そのときママのこえがきこえたんだ。

「ママのこえだ!」

「お母さん、来たのかな?じゃあここでバイバイだね」

「うん、おにいさんありがとう。ぼくきっといいまほうつかいになってみせるよ」

「がんばってね」

「うん、おにいさんばいばい」

「ばいばい」


「ゆうくん、いったいどこに行ってたの」

「ひみつだよ」

「そうなの。それより、ごめんねゆうくん。もうちょっとゆっくりしたかったんだけど、もう帰らなくちゃいけないの」

「しょうがないよ」

「本当にごめんね」

「ううん」

 そしてぼくのかぞくりょこうはおわった。




「すみません、佐伯先生。急患が入ってしまいまして」

「いえ、いいんですよ。患者はどこに?」

「こちらです」

 そしてあれから30年がたった今僕は医者をしている。

 魔法使いになるんじゃなかったのかって、いやいや魔法使いにもなったよ。

 とはいえ、僕が使える魔法はただ一つだけだ。



「まゆちゃん、具合はどうかな?」

「うん、よくなったよ。せんせーのおかげだね」

「そんなことないよ、まゆちゃんががんばったからだよ」

「そう?まゆ、がんばった?」

「うん」

「そっか。えへへ」


僕が使える魔法は患者を、病気になった子供たちが笑えるようになることをサポートする魔法。

 サポートの魔法なんてそんなのしょぼいっていわれちゃうかもだけど僕がどうしても手に入れたかった魔法なんだ。


僕はあのころ、はるを笑顔にしたかった。

病気にかかっていたはるを・・・

妹は小児喘息を患っていた。毎日毎日、発作が起こって辛そうで。なんとか笑わせてあげたかったけれどその頃の僕には妹を笑顔にするすべがなかった。

だから、あの時ぼくは魔法使いになりたかった。

妹を笑顔にするために


 今ではすっかり完治し、いつも笑顔の妹。

 もう僕が彼女の笑顔のサポートをする必要はない。



「せんせー」

「はいはい、今行くから待っててねー」


そして今日も僕は魔法を使う。 子供たちを笑顔にするために。


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