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08 戦利品

 「eins(アインス)zwei(ツヴァーイ)drei(ドラーイ)vier(フィーア)fünf(フェンフュ)sechs(ゼクス)……」


 並べられたそれを、赤い鎧を身につけた女騎士(フリーダ)はゆっくり指差し数える。


 「1つ足りないわね」

 「木の上です。姫のランスチャージで跳ね飛ばされました」

 「忘れていました。ありがとう。ヨアヒム」


 ヨアヒムと呼ばれた白い鎧を着た騎士は、フリーダに発言すると一歩下がる。


 「盗品は……換金前?……通商破壊が目的かしら。ダルマスの手とは思えないけど」


 様々な金属製品が風呂敷いっぱいに広げられていた。くすんだ色の金製のものが多く、次いで銀製である。ネックレスやイヤリングなどの装飾品が大半を占める。そして、刀剣類。貴金属を狙った盗賊というよりは、狙った獲物が身につけていただけなのかもしれない。


 ドドイツ帝国の法では、盗品は明確な所有者が判明している場合において返却が義務付けられていた。貴族と盗賊の繋がりが強くなるのを避けるためである。知らずに盗品を購入した善意の第三者に対しては、調査を行う権利が国にあり、きな臭い貴族はこの権利により廃嫡されてきた。とは言え、この規則だけでは盗賊の討伐者が(むく)われない。拾得物を換金した場合の金銭の2割、または盗品から数点受け取る権利が与えられ、保管期間を越えて所有者が現れない場合はその全ての所有権が認められていた。なお、金銭については別で、全て討伐者に権利がある。


 「鏡?」


 身につけるものが大半であったなか、浮いた存在であるそれをフリーダは見つける。金でも銀でもなく青銅で造られた簡素な直径10cmほどの枠に鏡がはめ込まれていた。


 鏡を手に取り、鏡面を覗く。


 退屈そうな銀髪碧眼の美少女がそこにはいた。

 つまり鏡は普通に目の前を反射しただけである。


 気を取られるほどのものではない。

 フリーダはそう認識し鏡を元の場所に戻した。



 「……盗品の記録は後にします。……2品」


 最後の一言は、兵が懐に入れるのに対し目を(つぶ)る数であった。清も濁もあり、世は成り立つ。人の性とはそういうものであることをフリーダは良く知っていた。


 「後は……あれね。……鎧を」


 言うや否や脇腹にある鎧の留め具を外しだす。フリーダは下着姿を見られることを気にしていなかった。騎士達も、全く気にして……若干、鼻の下を伸ばしてガン見していたが、慣れた所作であった。街を出た時に身につけていた純白の軽鎧に(よそお)いを変えると、彼女は小屋へと向かう。



* * *


 「……天使様」


 涙の痕がこびりついた少女は銀髪の姫騎士を見て、そう呟いた。


 雨風さえ凌げればよい。隙間だらけで窓さえない小屋はそのような意図を感じさせる。据えた臭いと汚れた床。(ほこり)の溜まった部屋の隅には3人の子供が震える身を寄せ合っていた。


 フリーダは状況を確認する。少女2人と少年1人。歳は7-8というところだろう。性的な乱暴された形跡はなかった。少年の(ほほ)は腫れ上がっていたので多少の暴力は振るわれたのかもしれない。


 「もう大丈夫よ。怖いおじさん達はお姉さんが退治しました」

 「「うわぁぁぁん」」


 膝を落とし、手を広げて安堵を伝えるフリーダに、少女達は泣きながら飛び込んだ。フリーダは2人を抱きしめ、背中を(さす)る。


 「怖かったんだね。もう大丈夫よ。大丈夫。大丈夫」


 大丈夫と何度も繰り返す。彼女たちが心の底から求めていた言葉だろうから。


 少年は悔しそうに、歯を食いしばっていた。目端には涙が浮かんでいる。



 フリーダが何度も声をかけ背中を擦ると、少女たちは少しずつ落ち着いていった。


 もう大丈夫かな。そう思い視線を外に向けるフリーダ。不意に少年と視線が合った。

 少年は顔を歪め、一際大きく鼻を(すす)る。拳を強く握りしめて肩は強張(こわば)っている。


 「あなたが、2人を守ってくれていたんだよね。ありがとう」


 フリーダの笑顔の礼を受けたとき、少年は先程の少女たちと同じようにフリーダの胸に飛び込んだ。溢れ出る涙をそのままに。


 「お、俺、怖くて。でも俺、男だし……」

 「ありがとう。君の勇気が彼女たちを守ったんだよ」

 「「うわぁぁぁん」」


 泣き止んだはずの少女達まで再び泣き出した。フリーダは苦笑しつつも、3人を優しく抱きしめた。3人が泣き止むまで。



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