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06 フリーダ

 銀の髪は燐光(りんこう)の河、

 蒼玉(せいぎょく)の瞳、

 微笑む笑顔は十六夜(いざよい)の月、

 舞い散る桜花(おうか)の如き剣舞、

 紡ぐ言葉は小夜啼鳥(さよなきどり)の歌。


 偽る輝き蛋白石、

 血を見る瞳は悪鬼羅刹、

 微笑む笑顔は死出の門出、

 貫く銀虎(ぎんこ)

 高ぶり叫ぶ獣の咆哮。


 これら全てがフリーダ姫の評価である。前半の5つもここまで揃えばこれはこれで異常。しかし、後半の5つの前に霞んで見える。蜘蛛の入れ墨がある盗賊団でもこれほどの酷評はされまい。

 前半がフリーダ姫と深い交流が無い者の評価、後半がフリーダ姫と深い交流がある者の評価である。つまり、彼女のヘキは業が深く、それになりに付き合いがあると隠しきることは不可能だった。



* * *


 エイブレヒト城。ドドイツ帝国の東端、2大大国との境界に近いその城は、特に対ズクセン帝国のために建てられたミスニ川岸辺の拠点城である。大河の(ほとり)に位置するその地は度重なる洪水によって肥沃な大地となり、豊穣がもたらされていた。その富を奪い取ろうと近隣の村落、地続きの国外からやってくる盗賊による被害が多くなるのは必然であろう。そのため、エイブレヒトは4メートルほどの高さの石の壁で城下街を囲み、外敵の侵入を抑える構造を取っていた。



 エイルブレヒト城の城下町大通りは、私兵を引き連れ闊歩(かっぽ)する美姫に盛り上がっていた。


 純白の馬。馬上のドレスアーマーの美少女。風にたなびく彼女の銀髪は陽の光を反射し、虹色に輝いていた。乱れる髪の間からは深い蒼い瞳と、凛とした表情。まるで壮大な物語の幕開けに立ち会っているような状況に人々は酔っていた。


 「「フリーダ様ー!!」」

 「きゃー。素敵ー」

 「抱いてー!」


 昨今の盗賊の被害を重く受け取ったフリーダ姫が私兵を引き連れ、それの殲滅に向かうのである。


 盗賊退治は国のためとは言え、エイルブレヒトに駐在する兵の多数は他国への牽制のためにおいそれとは動かすわけにはいかない。また軍の運営費用は国から出される枠に収める必要性があった。しかし、フリーダ姫は現状を如何せんとし、私財を投じこれに対する。というシナリオらしい。


 ……何処の誰が描いたのだろうか。


 無論、建前である。彼女は合法的に(なぶ)れる相手を求めていたのである。趣味である。(へき)である。趣味に私財を投じるのは当たり前である。

 更に言うと、この度の盗賊退治に引き連れられた私兵は、盗賊の命を奪うことを許されていない。それを刈り取るのは全てフリーダの特権であった。



 フリーダが手を上げ微笑むと、歓喜の声が広がる。住民が勝手に盛り上がる中、ゆっくりとフリーダを先頭に白馬の騎士達は大通りを外へと向けて進んでいた。

 フリーダがこれから起こす惨事に胸をときめかせているとき、彼女の部下達は、悪人がこの世から消えないことを祈っていた。悪人が消えたら、主の矛先が何処に向かうのか明白だったからである。



* * *


――半刻ほど後、

 白馬の一団は順調に道なりに進んでいたが、街道から大きく外れる。


 騎馬が向かう先には簡易テントがいくつも建てられていた。

 駐在する武装した兵たちは整列し、礼を以て、フリーダを迎える。


 彼女は馬から降り、手綱を近くの兵に渡すと、一番大きなテントへと向かった。


 「状況は?」

 「姫様のおっしゃるとおり、出兵の際、街から合図を送っていたものがいました。捕え、信号を吐かせております。騎馬6騎と伝わった情報はそのままにしております」

 「前夜に移動を試みたものを捕えております。盗賊の数は20。拠点の場所も見張りの位置も特定しております」

 「ご命令のとおり、数日かけて知られぬよう兵20、走騎竜26騎をこの屯留地に移動済みです」


 フリーダの問いに隊長格の兵が次々と答えていく。


 盗賊狩りは彼女のライフスタイルであり、彼女もその私兵達も慣れたものであった。


 盗賊が考えつく情報の伝達方法などたかが知れており、それらは全て対策済みである。獲物より早く伝えるのには視覚情報か聴覚情報しかない。または獲物より早く街を出るかだ。

 被害にあった箇所と地形を見ればおおよその拠点の位置は検討がつく。盗賊とて食料は必要であるし、街の情報も必須だ。加えて品物を(さば)かなければならない。物資の運搬元や運搬先が森の奥深くではやっていけない。

 また、彼女は移動が制限され小回りが効かない馬を使う気は毛頭なかった。人を狩り尽くすことを目的とした乗り物、それが彼女の愛用する移動手段である。



 「リーケの機嫌は?」

 「……最高に()いです」


 兵の返答に、フリーダ姫は満足気な顔で1つのテントに足を運ぶ。


 そこには、全長3メートルほどの竜がいた。

 全身は鱗で覆われ鋼のように硬く、振り回される長い尻尾は当たれば骨の1本では済まされないだろうものであった。

 体を支える二本の足は丸太のように太く、その先についた鋭い黄色の爪は泥岩の地面に深く突き刺さっていた。

 避けた口から覗く牙は鋭く、口の中に何重にも広がっている。鮫のように失ったら奥の歯が前に出て来るのかも知れない。

 縦に長い瞳孔は無機質で、冷酷な性質を伺わせる。


 「リーケ。久々の狩りよ♥ 一緒にストレスを発散させましょう」


 少女の言葉を理解したのかは分からないが、獣はそれに応えるように身の毛もよだつ咆哮を挙げた。




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