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18 [B-side]魂狂の第2の能力

 魂狂(たまぐるい)の取り扱い方法

  ~作:イズマエル~


 第1の能力

 以下の条件を守った上で、太陽の光を魂狂(たまぐるい)で反射し、当てると蘇生することができる。

 ・生命が失われてから24時間以内であること

 ・所有者が鏡を持つこと。


 第2の能力

 以下の条件を守った上で、口づけを交わすと、魂がごく短時間入れ替わる。

 ・互いに光が断たれた環境であること。

 ・互いに魂狂(たまぐるい)の所有者であること。


 


 ベルンハルトは、友人を生き返らせたときに鏡に写った文字を反芻(はんすう)していた。


 「所有者……」

 「ベルンハルトのことです」


 そして衝いて出た疑問に、黒鎧(デュクシ)が応えた。


 「そう難しい話ではありません。鏡の第一の能力を使ったものが『所有者』になるというだけです。現『所有者』の心の臓が停止した後に、使用した人が次の『所有者』になります」

 「デュクシさんは『所有者』じゃないの?」

 「……心臓が動いてませんので、私では魂狂(たまぐるい)の『所有者』になれません」


 ベルンハルトは鏡を見つめる。


 「ベルンハルトが死んだら、俺が鏡を使えば生き返らせれるのか……ですか?」

 「ええ。その場合はあなたにもう一度死んでいただいて、ベルンハルトに再び『所有者』になってもらいます」


 クレメンスは苦い顔をする。

 言わなければ良かった。彼女の顔はその心情を如実に表していた。


 「互い……魂狂(たまぐるい)は複数あるの?」


 ベルンハルトの問いにデュクシは笑顔で返す。

 その顔が怖かったのか、彼はわずかに体を震わせた。


 「気をつけなければいけないことは、『しんじゅの器』はどれも第1の能力は第2の能力の副産物に過ぎないということです。これだけは覚えておいてください」

 「あんなに凄いのに!?」


 素直に驚くベルンハルト。

 その傍らに控えるクレメンスは眉を潜めた。



 「何で私なんですか?」


 真剣な顔をして多弁な有識者を見つめるベルンハルト。


 「……必要だからです。強者でも智者でもなくあなたである必要があるのです」


 ベルンハルトは再度鏡を見つめる。



 焚き火の炎に照らされた彼は、風に行く先を任せる舞い落ちる葉のようにゆらゆらと揺れていた。




 * * *


 「殺そう。足手まといだし」

 「喰おう」

 「……ベルンハルトを(たぶら)かすかもしれません」

 「俺が面倒見るから。肉も取ってくるから。ベルンハルトに女が近づいたら事細かに伝えるから。俺みんなのために頑張るからお願い」


 何の話かというと、元パン屋の親父、現兎族(ラビタン)の女性の処遇についての話し合いの内容であった。


 己の所有物にしたいクレメンスと、対峙する反対派の3人。


 「な、なな、内蔵いっぱい?」

 「いっぱいだ。兎族(こいつ)3人分は取ってくるから」


 「これから大所帯になることを考えると悪くないですね」

 「はい。ベルンハルトが女と会話しても、手を繋いでも報告します」

 「え?」

 「……何か、問題でもあるのでしょうか。だ・ん・な様」

 「いえいえいえ。何もございませんです!」


 クレメンスの必死の説得により、3対1の関係が逆転した。



 ベルンハルトは苦笑する。

 

 面倒なものを背負い込んだ。そんな感情はもう彼の中にはなかった。ただ、死んだ友人が姿は変わってもそのままで生き返ってくれたことが嬉しかった。

 そして、自分がそのような考えに至ったことに苦い笑いを浮かべたのだった。

 


 魂狂(たまぐるい)に感謝をするかのように手を伸ばす。


 しかし、それは先程までと様相が変わっていた。

 鏡面から淡い光が漏れ出している。



 何事だろう。

 

 ベルンハルトは変化を確かめるべく鏡を覗き込む。


 そこには自分自身ではなく、見たこともない少女が映しだされていた。



 銀の髪の間からこちらをじっと見つめる翠の瞳。


 ベルンハルトは息をするのも忘れ、強制的に魅入らされた。


 長い睫毛、大きな瞳、艶やかな唇、やや赤みの差した頬。

 少女はじっと寄生鬼(ゴブリン)の少年を見つめる。

 ――少年は合わさった視線を動かすことができなかった。



 そして、唐突に2人の邂逅は終わりを告げる。


 鏡面が、目まぐるしく変わり始めたからだ。


 壁、ひさし、長椅子、空、地面、草葉……鏡面に映し出される像が高速で切り替わる。



 「ぐぇぇ……」

 じっと鏡を見つめていたベルンハルトは、三半規管と視覚の齟齬により、強烈な酔いに襲われた。



 突然の吐くような声に皆は驚き、彼を囲む。


 「ど、どした? べ、ベルンハルト」

 「大丈夫か?」

 「か、鏡が……」


 二匹は銅鏡を渡され、それを確かめる。


 「鏡がどうかしたのか?」


 期待したものと異なる反応にベルンハルトは疑念を持った。

 森人(クレメンス)巨人族(オスカー)も不思議そうに鏡を調べている。


 「え?」


 ベルンハルトの目には、彼らが手に持つ鏡からは淡い光が漏れて見える。

 それは昼間にみた鏡とは明らかな違いだ。



 「……光が断たれた状態になると魂狂(たまぐるい)は他の所有者が持っている魂狂(たまぐるい)に照らされた像を映します。その像は所有者であるベルンハルトにしか見られません。それが魂狂(たまぐるい)の第2の力です」


 ベルンハルトは呆気に取られた顔で、優しげな顔で答えるデュクシを見上げた。



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