17 [B]再会
黒焦げた2匹の友人の遺骸はそのまま。
見ず知らずの亜人が4匹、姿を現した。
「……え?」
「どれか2匹があなたの友人だと思います」
漆黒の鎧を着た女性の言葉を聞き、寄生鬼の少年は再び4匹に視線を走らせる。
少年は友人が生前の寄生鬼の姿で蘇ると思っていた。
彼は急いで頭を切り替える。
誰が友人なのかを特定すること。
それは彼にとって早急に成さねば成らないことであった。
巨人族の男性は自らの身体が変わったことに気づいていないのか、空をぼーっと眺めている。もしかしたら友人の一人かも知れない。ベルンハルトはそう認識した。
麗しい森人の女性と長い耳の兎族の女性……あまりにも外見が異なりすぎて、判断のしようがないと先に送ることにする。
角虫族の男性。見た目は巨大なカブトムシだ。何を思ったのか、彼は穴を掘り出した。その姿を見て、ベルンハルトは彼も友人っぽいと考えた。
ベルンハルトが友人の一人、オスカーは巨人族か角虫族かどちらかだろうと推測したところで、森人と兎族が我に返る。
2匹は同時に自分の乳を揉みだした。
どちらかがクレメンス。ベルンハルトは瞬時に断定する。
その直後、巨人族の男性がベルンハルトに寄生鬼語で声をかけてきた。
「べべべ、ベルンハルト、腹へった。」
これによりオスカーが決定した。
角虫族は何者だろうか。オスカー以外にあのような奇行に走る人物に心当たりがなかったベルンハルトは疑問を覚える。
「Hör auf!」
突如発される女性の悲痛な叫びに驚き顔を向けると、森人の女性が兎族の女性に襲いかかり、顕になった豊満な胸にしゃぶりついていた。
「や、やわらけぇ。」
森人の女性は中年オヤジのようなスケベ顔で感想を述べる。
美しい顔が、どうしたらあそこまでスケベ面になるのだろうか。心の中で呆れながらもベルンハルトは無事友人が蘇生できたことに安堵し、緊迫していた表情を崩す。
と、ベルンハルトの首はぐるりと強引に回転されられた。
目の前には、漆黒の鎧の悪魔。
「ベルンハルト……妻の前ですよ」
頭皮の剥がれた無表情の悪魔の目がベルンハルトを恐怖に絡め取る。
――女性は男性が女性に向ける視線に敏感である。意中の女性がいるときに、他の女性にいかなる理由があろうとも視線を向けてはいけない。
ベルンハルトは母から聞かされた女性の取扱13か条の第4条を思い出した。
しかし、後悔先に立たず。
生まれて味わったことがない緊張感に、ベルンハルトの頬を汗が伝う。
「Hör auf! Hör auf! Berühr es nicht, Notgeil」
兎族の女性は人族の言葉で『やめて触らないで』と叫ぶ。ベルンハルトの事情などお構いなしだ。
「は、腹減った……腹……」
オスカーは自らの腹をなで続ける。空腹をごまかしいているのだろうか。
「んちゅー❤ ん? ああ……下の口は素直じゃねぇか」
「G……Gut……Gut!……Was ist aus mir geworden?」
2匹の亜人の絡みは佳境を迎えようとしている。
角虫族は黙々と穴を掘り続ける。彼は穴掘りに向いてないと思われる前足を使い、器用に掘り続ける。
魂狂によりもたらされた生はどこまでも場を混乱させていた。
* * *
『夜の森』の一角、やや開けた土地でベルンハルト達は鍋を囲んでいた。材料の食べられない部分、巨大な甲虫の殻が少し離れたところに転がっている。
「しかし、こいつ何だったんだろうな?」
「う、うまい」
白い身がついた前足をしゃぶりながら、クレメンスとオスカーは感想を述べる。
クレメンスは寄生鬼だった頃に比べ、言葉が流暢になっていた。
「小動物か虫かも知れませんね。反射光の照射範囲すべての生物が生き返りますので」
「ああ……なるほどです」
デュクシの答えに頷くベルンハルト。
クレメンスとオスカーは新たな仲間に対し、上目遣いで日和った態度を取っていた。
ベルンハルトと同じく、彼らの本能が生物の頂点の一角であることを己に伝えているのだろう。
――あの後、何とか場を収めたベルンハルトは、経緯を2匹に説明しようとした。
しかし、飢えたオスカーの腹の音が鳴り響き、説明よりも食事が優先されることになる。ことが終わった賢者モードのクレメンスは素直に従った。息も絶え絶えで涙する兎族の女性をロープで縛った後で。
何を食べようかと考えたとき、目の前に蛋白質がいることに気づいた一行は鍋にすることにした。
「で、どうするんだ? ベルンハルト」
森人の姿をした友人の一人、クレメンスはベルンハルトに問いかける。彼……いや、彼女は簡単な葉で作られた衣類を身に着けている。姿は見目麗しい女性のものになったが、女性好きの性格は死んでも変わらなかった。
「あー。か、体、入らない? まま、まあいいや」
巨人族になったオスカーは、寄生鬼の中ではやや大柄といった体格だったが、現在は全長4メートルほどの巨体になっている。角虫族のほとんどがオスカーの腹に消えたことからもわかるように食事量は体に比例して増えている。だが、こちらも性格に変化は見られない。
「うーん。俺だけ巣に帰って、3匹で秘密基地を作るって伝えてくるのはどうだろう? オスカーは巣に入れないし、クレメンスは……大変なことになるよね」
「まあ、なぁ……」
気のせいだろうか、クレメンスは少し寂しそうな顔をしているようにも見えた。
「では、ご両親にご挨拶に行きますか?」
「巣がパニックになるから!」
必死で狂気を止めようとするベルンハルト。彼の奮闘にオスカーとクレメンスは関心していた。彼らにとって、デュラハンを相手に意見することは、虎の口に頭を差し出すことに等しかったからだ。
「Buuuhuuuuu....」
父親って誰になるのかと考えるクレメンスの側で、縛られたままの兎族の女性は涙しながら一人娘の将来に思いを馳せていた。
父さんは女になって女に犯されたけど、お前は幸せになってくれ
……彼女、いや彼は生前は筋肉むきむきのパン屋の親父だった。




