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15 彼女は彼を見つける

風邪を引いたので、会社を休んで病院に行ってから小説書いてました(あれ?)

屋外訓練場A区画。エイブレヒト城内にある周りを一際高い壁で覆われた機密性が高い屋外の演習区画である。


 現在、屋外訓練場A区画では、フリーダと親衛隊のみがその場にいることを許されていた。


 「蟻は蘇生しない……ヨアヒム。次は蜘蛛を」

 「はっ!」


 フリーダの指示に従い蜘蛛を踏み潰すヨアヒム。ぷちっとした音を伴い一寸ほどの大きさの蛛形類は親衛隊長の靴底を汚すと、その生涯を終えた。


 フリーダは蜘蛛の死を確認すると、青銅の鏡で陽光を反射させる。


 死骸に鏡を介した光が当たると、眩い光が放たれる。


 光の奔流が収まると、そこには一匹の狼がいた。彼は動こうとせずに、後ろ足をピンと伸ばし、尻を持ち上げる。尻から糸を出そうとでもしているのだろうか。


 

 魂狂(たまぐるい)――

  時が一日を刻む内に、死した地に陽光を返す。

   輪廻の輪は狂い、浄化されるべき魂は顕現する。



 命を落とした蜘蛛は、道具の力により生き返った。来世の……この場合は狼の姿を借りて。



 「処理を」

 「はっ!」


 ヨアヒムの斬撃によって、蜘蛛は再度命を散らす。



 フリーダは屋外訓練場A区画を占有し、魂狂(たまぐるい)の性能を検証していた。彼女が検証していたことは3つ。


 一つは対象がどこまで許されるのか?

 埃にはダニや微生物の死骸が含まれる。これらが蘇生するのであれば、無数の生物に埋め尽くされていてもおかしくない。つまり、制限がある。フリーダの実験結果からは、おおよそ一寸。つまり3cmほどの大きさがあれば蘇生可能であるということがわかった。先のハマチとイカも恐らくこういった昆虫が一日以内に死んでいたのに反応したのだろう。


 もう一つは透過光の確認。

 フリーダは数枚のすりガラスや色ガラスを介して実験を行っていた。消光率が高くなれば効力を失うとフリーダは推測していたが、これは的を大きく外す。結論としては、見た目透明なガラスであっても光が透過すると、効力を失うことが判明する。他の鏡を介しての再反射も蘇生しなかった。よって屋内での使用は極めて難しいと言える。


 最後の一つは場所。

 移動した死骸に光を当てても蘇生しない。死亡した場所の土をそのまま掘り起こして移動させた先でも魂狂(たまぐるい)は効力を発揮することはなかった。このことから、死亡したその場に目に見えない何かが残留しており、それこそが光を当てる対象と思われる。



 「早急にガラスの蓋を作らせなさい。……危なっかしいことこの上ない」

 「はっ!……姫様、ジークフリート様が来られます」

 「わかりました。くれぐれも気取られぬよう」

 「かしこまりました」


 ジークフリートはフリーダのお目付け役。国王の命を受けている。魂狂(たまぐるい)の存在が知られれば、王の元へと情報は伝わり、多少の褒美と引き換えに取り上げられることは見るまでもなく明らかだった。よって、彼に知られることは許されない。



 フリーダとその親衛隊は何食わぬ顔で、ジークフリートを迎える。


 「うおっ! これは一体……」


 ジークフリートは驚きを隠せない。

 なぜなら、屋外訓練場A区画には死骸の山が築かれていたからだ。


 死骸の種類は多岐にわたる。昆虫、小動物から猪や狼、それに亜人や人族。魂狂(たまぐるい)は死ぬ前の体に関しては一切関与しない。繰り返し使用するということは、つまり延々と死骸が増えていくことになる。


 「ひ……姫? これは?」


 ひきつった顔でフリーダを凝視するジークフリート。


 「てへっ」


 フリーダは頭を傾け舌を出すと、全速力で走り去っていた。


 「ま……待たんか! この(うつ)けがぁぁぁぁ!」


 ジークフリートは彼女を追う。

 ……この惨状を生み出したのが道具の実験のためとは露ほども疑わず。




* * *


 フリーダは久々に刺激のある一日を終え、床に就く。今日の枕は柔らかめになっている。なぜなら頭にできている大きなタンコブを刺激しないためだ。


 「私は王女なんだけど。もう少し手加減できないものかしらね。あの朴念仁は」


 フリーダは患部を優しく撫でながら、悪態をつく。


 続いて、彼女がサイドテーブルの光を消すと、あたりは暗闇に包まれた。


 そして、彼女は(たまぐるい)を覗き込む。


 鏡はガラスの裏に張り付けられたクロムが光を反射し、前後を入れ替えた情報を目に送る。よって、光がなければ何も映らない。


 しかし、そこには一匹の寄生鬼(ゴブリン)と一人の少女が映っていた。


 少女は足枷をされており、ぼろ布を(まと)っていた。虚ろな瞳は何物をも捉えておらず、口元だけが笑っている。ゴブリンは着ているものこそは似通っているが、その表情は対照的に悲し気な感情を表しており、瞳は少女だけを映していた。


 フリーダは息を呑む。


 まるでその場にいるような鮮明な映像を見たことも初だったが、寄生鬼(ゴブリン)と少女の醸し出すただならぬ雰囲気に飲まれていた。



 「これが深淵の先なのか……」


 フリーダは呟きとともに、昼の休憩時に鏡に映った文の続きを思い起こす。



 魂狂(たまぐるい)――

  時が一日を刻む内に、死した地に陽光を返す。

   輪廻の輪は狂い、浄化されるべき魂は顕現する。

  無光で鏡を覗くとき、深淵の先を映し出す。

   交わされた口づけは互いをも混じり交錯する。



 鏡面に浮かぶ文字は確かにそう綴られていた。




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