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01 [B-side]プロローグ1

20171209 誤字修正

 黒い葉と赤い葉脈を持つ巨大な木。その木の名前はシュヴァルツヴァルトと言う。

 樹齢が(なが)いシュヴァルツヴァルトの樹はその高さが20メートルにも及ぶ。その黒い葉は陽の光を通さず、シュヴァルツヴァルトの生い茂る地は昼間でも月夜の晩ほども足元が照らされることはない。


 ドドイツ帝国の領内、南西の端にあたる『夜の森』。そこは大陸有数のシュヴァルツヴァルトの群生地である。『夜の森』とは、闇夜を想像させるその暗さ故に名付けられた。

 そして、『夜の森』は夜目が効く亜人種、食人植物、肉食昆虫、獣が跋扈(ばっこ)する、人族にとっては生きては帰れないと言われている忌まわしき地でもあった。



――しかし、どの世界にも(いまし)めを軽んじる(やかや)というものは存在する。


 ここ、『夜の森』も例外ではない。


 今、まさに5人の男が松明を片手に草木を掻き分け、生きては帰れぬ森を進んでいた。

 男達は周りを警戒しながら、物音を出来る限り立てないように慎重に行動している。


 「リーダー。大丈夫だよね……俺怖いよ」

 「大丈夫だ、タイチ。ささっと行って、葉っぱさ見つけて、もいでくるだけだ」

 「んだ。今年は日照不足で、このまんまだと税を納めらんねえ」


 腰が引けているタイチに、5人のリーダーであるジョーシマと力自慢のナガーセが声をかける。

 彼らとて『夜の森』の散策は安全なものとは認識していない。タイチにかける言葉は自分自身への言い聞かせも込められていた。


 気温は34度くらいだろうか。森の中は湿度が高く、高温多湿な環境は5人に不快感を溜め込ませた。


 森を進むその足取りは重く、僅かな物音がするたびに体を固まらせていた。



――緊張のあまりの幾度かの空嚥下(からえんげ)の後、変化が起きる。


 それは凶報ではなく吉報だった。


 「あっぢ。あっぢで地面が青くひがってる!」


 ナタを片手に先頭を歩んでいたマツォーカが声を挙げた。


 「まじけ?」

 「まじけ、まじけ?」


 4人はマツォーカの元に集まり、彼の指差す先を凝視する。


 そこには仄かに青白く光る植物が地面から生えていた。淡く光るそれは、彼らの求める希望の光でもあった。


 「よっしゃー」


 存在感のなかったタツヤが、いの一番に植物に走り寄る。


――その姿が突然消える。


 夜の闇に飲まれるかのようだった。





 「「……え?」」

 「……タツヤ?」


 4人は互いに背を向け、辺りを見回す。


 得物を持つ手に力が入る。


 何かを警戒してるようだ。




 しばらく周囲を確認した後、四人は顔を合わせる。


 ジョーシマは無言で頷いた。


 それが合図だったのだろう。4人はタツヤが消えた辺りに向け、慎重に歩を進める。




 ギギギギ……


 リーンリーンリーン……


 虫の音だけが木霊する。


 


 4人はゆっくりと足を運ぶ。


 彼らの心臓はバクンバクンと音を立てていた。



 生え放題の草を踏みつけ進む。


 汗が頬を伝う。



 できれば杞憂であって欲しい。それが4人の共通した思いであった。


 幾許(いくばく)かの時間、それは彼らの中では果てしなく永く感じられただろう。



――そして、4人はタツヤが消えた場所に辿り着く。


 そこで彼らが見たものは、人1人が入れるほどの穴だった。



 穴の底には松明が落ちており、それ故に辺りの情報は事細かに4人の目に飛び込んできた。


 穴の深さは3メートルほど。底には木を加工して造られた鋭利な槍が何本も天を向けられていた。歪に歪んだ遺体。それには4本の槍が突き刺さっており、1本は彼の頭を右から左に貫いている。



 4人は凄惨な状況を目の当たりにし、絶句する。


 ズドッ!


 不意に鈍い音がなる。


 膝から崩れ落ちるマツォーカ。



 「マツォーカ!」


 ジョーシマは倒れるマツォーカを抱きかかえる。しかし彼の瞳はガラス玉のようにただジョーシマを映し出すだけであった。


 ジョーシマの腕の中から、マツォーカの左手がだらりと垂れ下がる。


 「罠だ!」ジョーシマはそう叫ぼうとした。仲間に伝えようと振り返る。


――彼の目に映ったものは仲間の姿ではなく、己に向けてナタを振るう醜悪な顔をした緑色の小人だった。


 

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