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元令嬢、執事に膝枕する

「ラミス様、本当に少しは加減して下さいよ……」


「ごめんなさい……想像以上に頭にきて……」


ゴリオールを撃退というか、心を粉砕した後、街へと向かいながらラミスはテミスに注意を受けることとなっていた。

ついでにテミスが素直になれない理由は、過剰なラミスの接触以外にラミスの暴走もその1つ出会ったりする……


「いやもう本当に今日は疲れました……」


そう告げるテミスの顔には隠しきれない疲労が浮かんでいた。

確かにテミスはマートライト家の私兵の中で上位に値する実力は持っていて、普段ならば1日の徹夜程度ならあまり疲労を引きずることはない。

だがそれは普段の話であり、そして引きずらないとはいえ、決して疲労しないわけではない。


「えっ、そうです?」


……間違っても隣の化け物のような全く疲労を感じない人間ではない。

先程まで屋敷を必死に駆けずり回って探し物をして、そして仮にも戦場になりかねない場所にいたテミスは疲労困ぱいと言うほどではなくとも、ある程度の疲労を感じていた。


「……いえ、気のせいでした」


「ん?」


ーーー だが、それでも自分の意識している人がピンピンとしている中、自分だけ疲れていると言えるわけはなかった。


ラミスが自分など比べ物にならない程の実力を持っていることをテミスはもちろん知っている。

その実力を鍛錬の時に身にしみて知らされている。

何度も挑み、最終的にはハンデまで背負ってもらっての模擬戦も行ったが、それでも未だ一度もラミスの身体に武器を当てられたことはないのだ。

しかもそれでも未だラミスはテミスに全力を出したことはない。

これで実力差が分からない者などいるわけがない。

それでも分からない者はただの馬鹿か、相当の意地っ張りだけだ。

そしてテミスはそんな馬鹿でも意地っ張りでもない。


「精神的疲れのせいで想像以上に疲れた気になっていただけです」


「うっ!」


ーーー だが、そうと分かっていても意地を張ることは別の話だ。


テミスは反射的に本当は疲れてなどいないと主張する。


「あっ、」


だが、すぐその後にその言葉はまるでラミスを責めるかのように響いていたことをしょんぼりしたラミスの姿を見て悟ることとなる。

そして次の瞬間、テミスの顔から血の気が引いた。


ー しまった……


やけに肩を落としたラミスの姿にテミスの心に焦燥が広がって行く。

別に先程の言葉は誤魔化そうとして少しきつい調子な言い方になってしまっただけで決してラミスを責めるつもりはなかったのだ。

確かにラミスは時々呆れてしまうような失敗をして、それにはちゃんと注意をしなければならない。

だが、それでも何度か注意をすれば頭は悪くないラミスは直ぐに理解するのでただくどくどと失態を責めるようなことをする必要はないのだ。

そしてもうラミスに注意は必要ないだろうと判断した矢先の出来事に、テミスの胸に罪悪感が溢れる。


「そ、そのぉ……」


だからテミスはラミスに先程の行き過ぎた言葉を謝ろうと恐る恐る口を開く。


「本当にごめんなさいね……テミス」


だが、しょんぼりしきったラミスの状態に思わず謝罪の言葉を喉の奥に押し込んでしまう。


ー これだけ落ち込んでいる時に、実は注意するつもりなんてありませんでしたなんて言ったら……


テミスの頭に、自分へと怒りの目を向けるラミスの顔が浮かび、テミスは謝らないといけないと思いつつも、その謝罪の言葉を口にできなくなってしまう。


「それで要件は何ですかテミス?」


「えっ、あ!」


だが、その時にそうラミスに声をかけられテミスは焦ることになる。


「ほ、本当に気をつけてくださいね!」


ー あぁ、僕の馬鹿馬鹿ぁ!


「は、はい………」


そして思ってもない言葉をまた口にしてしまい、さらに罪悪感でテミスは顔を青くする。

ラミスに至っては注意に涙目になっている。


ー あぁ、僕はもう黙っていよう。


そしてそのラミスの顔を見て、テミスは静かにあることを決意することとなった……




◇◆◇




それからラミスとテミスは無言で街までの道のりを歩いて行く。

そしてその間、常にテミスは罪悪感を感じていた。


ー 本当に僕は素直になれないなぁ……


自分の面倒さを反省しながら、横目でこちらを伺ってくるラミスの様子に溜息をつく。

もしかして今も自分が言ったことを気にしているかと、テミスの胸に再度後悔の念が溢れ出す。

だから、今回こそはちゃんと謝ろうとラミスの方へと向き直り、


「テミス、今日は休みましょう」


「えっ?」


ーーー その前に、ラミスにそう告げられた。


「あ、あのラミス様?」


それから数分後、テミスは頭に感じる柔らかい感触に顔を真っ赤にしながら横たわっていた。

頭に感じる枕の感触は酷く心地よく、眠気を誘ってくる。

けれど、その枕の誘惑に負ける訳にはいかなかった。


「私が見張りをするので、テミスは休んでいて良いのですよ」


ーーー 何故なら、その枕はラミスの膝枕なのだから。


そしてそんな枕でテミスが眠れるわけがなかった。


「い、いえ、私は大丈夫なので宿屋の方へ向かいたいのですが……」


「駄目です!テミスは疲れ切っているでしょう!今もこんなに落ち着いていないし!」


ー いや、落ち着けるわけがないでしょう!


確かに疲れているのは事実だが、落ち着けていないのは膝枕のせいだとテミスは内心で叫ぶ。

けれどもそんなテミスの内心はラミスに伝わらない。


「良いから休みなさい!」


「っ!」


強引にラミスの手に目隠しされ、さらにテミスは赤面する。


「テミス、寝ましたね。


ーーー 今からするのは独り言です」


「えっ、」


だが、次の瞬間テミスはラミスの言葉に羞恥心が吹き飛ぶのを悟る。


「テミス、貴方は私にスラム街で出会った時のような態度で接してしまうことを気に病んでいますよね」


「っ!」


ラミスのその言葉、それはまさにテミスの思い悩んでいることそのものだった。

テミスが素直になれない一番大きな理由、それはスラム街での過ごした日々だった。

スラム街、そこでは素直に思ったことを口に出して生きて行ける場所ではない。

相手を、そして自分の心を騙すために敢えて思ってもいないことを口にする、その話し方はテミスに染み付いており、そのせいでラミスに素直に話すことが出来なくなっていた。


「本当にテミス、貴方は気にしなくていいことばかり気を遣いますわね……私は貴方の話し方嫌いじゃないですよ」


「っ!」


そのことをテミスはずっと気に病んでいたが、その時ラミス気にすることはないと笑った。

そしてその瞬間、テミスの胸に安堵が広がり突然眠気が溢れ出す。

テミスは頭の柔らかい感覚と、その眠気の組み合わせに抗えるわけがなく、あっさりと意識を失う。


「貴方は私にとって大切な人なんですから……」


ただ、テミスは最後にそう夢のような言葉を自分に投げかけながら笑うラミスの笑顔が見えた気がした……




◇◆◇




「ふふふ!本当に可愛い……」


それから数十分後、ぐっすりと眠るテミスの頬を、髪を弄ぶ1人の美女の姿がそこにはあった。


「本当にこの子っていもう………弟みたいで可愛いですわ……」


………そしてその本人が聞いたら新たな悩みになりかねないラミスの言葉が、テミスの耳に入ることはなかった。


それは幸いと言えるのかは分からない……

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