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元令嬢、名門貴族の弱みを暴く

「っ!待ってくれ!」


自分の用意した兵ではラミスにかなわない、そう悟ったゴリオールがとった行動それは命乞いだった。


「わしはこの国の為を思って……」


自分の元へと近づいてきたラミスに向かって頭を擦り付けて頼み込む。

そして哀れみを得ようとわざと鼻声にして、身体を縮こめる。


ー くそこの女、少し武術が出来るからと調子に乗りよって……この場を乗り越えれば絶対にいつか復讐を……


しかし、その態度に反して内心は一切反省していなかった。

ただ胸にあるのはラミスへの理不尽な逆恨み。

頭を下げながらも、心の中はいつか目の前の美女を自分のものとする、そんな未来への妄想だけで、ゴリオールには一切ラミスへの罪悪感は存在しなかった。


「そうでしたの……」


「っ!」


ー この間抜けが!


だが、そのゴリオールの姿を見たラミスの目には憐れみが浮かび、心底心苦しそうな表情になる。


「ラミス様!」


「テミス!これは私が取らなければならない責任なのです!」


「っ!」


その主人の様子を見たテミスは主人に警告の声を上げるが、だがその声はラミスには届かない。

そしてその主従の様子をゴリオールは内心で嘲笑っていた。

ラミスの顔に浮かぶ罪悪感に満ち溢れた表情、それはゴリオールの言葉を信じた証に過ぎない。

そしてそんな憐れな間違いを犯した主人に気付きながらも、それでも止められない従者。

今この時にゴリオールを許してしまったその失態、それをラミス達を破滅に追い込む致命的な失敗にしてやると、顔を俯かせながらゴリオールは決意する。


「すまない、ラミス嬢。わしが間違っていた。確かに幾ら国が心配でもこんな方法を取るべきではなかった……本当にすまない……」


だが、その内心はかけらとも表には出さない。

表面上はあくまで自分の行いを必死に反省しているように見せかける。


「いえ、よろしいのですよ」


そしてゴリオールはラミスの優しい声に自分の演技が上手くいったことを悟り、一瞬下卑た笑いを浮かべる。


ー 馬鹿が!


「許してくれるのか!」


だが顔を上げた瞬間にはその笑みを消し去り、ただ申し訳ないという罪悪感を貼り付け内心を隠す。


「ええ!」


「ありがとう、ラミス嬢!」


そして目の前で微笑みかけてくれるラミスの姿にゴリオールは勝利を確信する。


「ですが、少し気になったことがあって……」


だが、次の瞬間少しラミスの顔に陰りが生まれる。


「どうした?何でも言ってみてくれ」


しかしそれはほんのもので、何の問題もないかとゴリオールはそう判断して笑顔で応じる。


「では」


「っ!」


ーーー だが、次の瞬間ゴリオールの頭の上をいつの間にか抜かれなラミスの愛剣が通過した。


次の瞬間、ゴリオールの頭から作られた毛髪が転がり落ち、ゴリオールだけでなく、兵士全体に衝撃が走る。


「貴方、本当にゴリオール殿ですか?」


そしてそのざわめきの中、最高にいい笑顔でラミスはそう告げた………





◇◆◇





「えっ?」


頭の上を剣が通過して、カツラが落ちてからのラミスの言葉、その意味が最初ゴリオールには一切理解できなかった。

ゴリオールは別に偽物ではない。

列記としたストラボン家の当主のゴリオールだ。

そしてそのことを目の前の令嬢が理解できていない訳がなく、ゴリオールの胸に戸惑いが生まれる。


「あれぇ?ゴリオール殿はカツラを被っていたハゲのお爺さんだったなんて初耳ですわよ?」


「っ!」


だが次の瞬間、ラミスの言葉にゴリオールの顔に屈辱から顔が赤くなる。

そしてわざとらしい驚きの声を上げたラミスにゴリオールは彼女の意図を悟る。

つまりラミスはゴリオールの秘密、頭髪が少しばかり薄いという秘密をこの場で自らに認めさせようとしているのだ。

そしてゴリオール自身がそのことを認めればここに居る兵士達が口を閉じて居る保証はない。

次の朝にはゴリオールの絶対に隠し通したかった秘密は周知の事実となるだろう。


ー この、女狐が!


そしてラミスのその意図を悟ったゴリオールは怒りで顔を真っ赤にする。

ラミスは最初からゴリオールの内心に気付きながら気づかないふりをしていたのだ。

そのことにようやく気付いたゴリオールは怒りのままにラミスを睨みつけようとして、


「あれ?やはり偽物でしたのね」


「っ!」


逆にラミスに喉元に剣を突きつけられ、赤かった顔が一瞬で青くなる。


「違う、私は本物だ!」


「へぇ……ではあのゴリオール殿は禿げのおじいちゃんだったんですね!」


「ぐっ!」


ラミスの嘲るような調子の声に、ゴリオールは屈辱で顔を真っ赤にする。

だが、それでも絞り出すような声でラミスの言葉を認める。


「………そうだ」


「つまりどういうことですか?」


「っ!このめぎ……ぐっ!」


ゴリオールは喉元に突きつけられた剣に力が込められたのを感じ、口元まで出てきていた罵倒の言葉をのむ。


「わ、わし、ゴリオール・ストラボンは頭が寂しい……」


「禿げの」


「っ!禿げの老人……」


「おじいちゃん」


「ぐぅ!禿げのおじいちゃんだ……」


ラミスの明らかに楽しそうな表情と、そして明らかに笑いを堪えている兵士の中、ゴリオールは何とかその言葉を言い切る。


ー 絶対にこの屈辱は忘れんぞ!


そして憔悴しきった状態で、それでも新たな決意を胸に宿す。


「はい、復唱」


「…………えっ?」


だが、その決意は一瞬で遥か彼方へと消し飛ぶことになった。

にこにこといい笑顔のラミスに告げられた鬼畜な言葉にゴリオールは再度硬直する。


「わ、わし、ゴリオール・ストラボンは……」


けれども首元に突きつけられた剣に力がこもり、再度半泣きで口を動かし始めることとなった………




「わしは、禿げ。禿げのおじいちゃん……」


そして1時間後、ラミスは真っ白に燃え尽き呆然と何事かをつぶやいているゴリオールを後に屋敷を去っていた。

そしてその時にはラミスの顔にはやり切った満足感が浮かび、兵士達はゴリオールの言葉を王国中に広めるために動き始めていた。


「あぁ、やっぱりこうなったか……」


ただ1人、テミスだけがゴリオールを哀れむような視線で見ていた……



それから数日後、あれだけぎらぎらと欲望に満ち溢れたゴリオールは年という理由であっさりと隠居した。

そしてそう家族に告げた時のゴリオールは今までの欲望に満ち溢れた姿が嘘のように真っ白で穏やかな老人になっていたという………

……タイトル詐欺というか、シリアス一切なしですよね。

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