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元令嬢、執事を仲間に加える

「ーーー 大好き!」


「「「っ!」」」


ラミスが涙を浮かべながらの満面の笑みで告げたその言葉、それは元寡兵達に致命的な効果を与えていた。

ヴァリスやサリス達の両親達が傭兵時代からいる古参達は嬉しそうに頬を緩めただけだったが、


「ぐはっ!」


「人生に悔いなし……」


マートライト家が出来てから寡兵として集まってきた若い男達はあるものは吐血し、そしてあるものは真っ白に燃え尽きて倒れて行く。


「はぁ……」


だが屈強な男が吐血し、喜びの涙を流すそんな阿鼻叫喚の中、1人テミスだけは浮かない顔をしていた。


何人かの男達がそんなテミスの様子に気づくが、彼のその少女と言われても納得してしまいそうな容姿に、直ぐに納得してしまう。

マートライト家の実力それは、一兵卒であっても他国の精兵に値する実力を有している。

つまり、例えマートライト家が無くなることになっても将来の心配は無いが、実力の足りなそうに見えるテミスはそういうわけではなのだろうとそう判断したのだ。


だが実際の所、テミスは弱く見えるだけで実力的にはマートライト家の上位に入るくらいのものを持っている。


それは元々の本人の才能に、執事として過ごす期間ラミス直々の鍛錬を受けた結果の実力。

つまり、テミスの頭にある憂鬱は将来に関することではない。


「最終的に僕は……何もラミス様に返せていない……」


テミスの憂鬱それはラミスに対して恩返しすることも出来ず去らなければならないという不甲斐なさ。

元々テミスはこの国のスラム街に巣食う孤児の1人で、だがそんな中ラミスに見初められマートライト家の執事として生きることになった少年だった。

そしてそのことにテミスは表立って示すことはなかったが、決して少なく無い感謝の気持ちをラミスに抱いていた。

けれどもスキンシップが過剰なラミスに驚き、そして思春期特有の気恥ずかしさを感じ始めたテミスは主人に素直に接することが出来なくなっていた。


そんな状態でマートライト家で過ごす内、いつの間にかテミスはラミスに対して感謝などの好意をを隠すようになっていき、そして気づけばマートライト家は解散し、主人は部下を伴わず冒険者として生活して行くことになっていた。


その時なってようやくテミスは自分の行動を後悔し始めたが、もう遅い。


「僕は恩知らずだな……」


ぽつりとテミスが呟いた声、それは誰の耳に入ることもなく霧散して行く。

だが、その言葉は深くテミスの胸に突き刺さっていた。

その内マートライト家の元寡兵達はそれぞれの新たな暮らしの為、その場から去り始める。

そしていつまでもその場にいることなどできず、テミスも用意していた少ない荷物を手にして動き始める。


「ラミス様……」


だがその時なってもテミスは気づくことはなかった。

自分がラミスのそばに居たいと思う理由、それは恩返しそれだけの理由ではないことを。


ーーー そして最後に主人の名前を呟いた時、知らぬ間に自分の顔はまるで恋する乙女のように赤く染まって居たことを。




◇◆◇





「あ、あれ?」


別れの最後に、今までの感謝の言葉として大好きだと告げたラミスは、その後の元寡兵達の行動に驚いていた。

流石に無反応は無いだろうと思って居たものの、こんな過剰な反応が返ってくるとは思っておらず思わず動揺を漏らしてしまう。

だがその動揺も元寡兵達が名残を惜しみながらもそれぞれの未来のためにこの場を去り始める時には消えていた。


「本当に、皆言ってしまいましたわね……」


その呟きに込められて居たのは決して少なく無い感傷。

さらに今までのずっと側に居てくれた人間が去って行くことに対する喪失感と、自分が今から新しい生活を送るのだという高揚感が胸に広がって行く。


「っ!」


だが、その心穏やかな気持ちは去って行く元寡兵達の中に1人の人間も混じっていることに気づいた時、消え去った。


「まって!」


ラミスはそう大声をあげながら、目的の人物、テミスへと駆け寄って行く。

ラミスは最初から彼とは一緒にいるつもりだった。

当然の如くそう思っていたくらい常に今まで一緒に居て、そしてテミスもそう思っていると勝手に思い込んでいた。

だからこそ、去って行くテミスの姿を見た時には焦り、テミスを追いかけていた。


「えっ?」


だが、そうまるで自分が呼び止められるとは思っていなかったというようなテミスの声を聞いた時、ラミスの胸に常に一緒だと思っていたのは自分だけだったのでは無いか、なんていう不安が広がり始めた。

そしてテミスに対して何も言っていなかったことを思い出し、自分の行動の勝手さを悟る。


「お願いですわ!テミスも私と一緒に来てくれませんか!」


「えっ?えぇ!」


だけどそれでもラミスはテミスを手放すつもりはなかった。

テミスが驚きの声をあげるのが分かるが、それでもラミスは言葉を重ねる。


「テミス、貴方はどうしても一緒に来てもらいたいんです!


ーーー 貴方がいないと駄目なんです!」


「っ!」


そしてその言葉に一瞬でテミスの顔は真っ赤に染まった。

ラミスはその変化に驚きつつも、それでも言葉を重ねようとして、


「もういいですから!分かりました、一緒に行きますから!」


「っ!良かったぁ……」


「っ!」


そして何故かあらぬ方向へと首を向けたテミスに了承の言葉を貰い、ラミスはテミスを抱きしめた。

少し強引な気がするが、それでもラミスの心には後悔はなかった。


「本当に貴方の料理が食べられなくことだけは耐えられそうに無くて……」


「………えっ?」


ーーー それくらい、テミスの食事は美味しいものなのだから。


そしてテミスに感情の赴くままラミスは抱きつく。


「ふーん………どうせ僕は料理だけの人間なんですね……」


「ん?」


いつの間にかテミスの頬はぱんぱんに膨らんでいて、ラミスを小首を傾げる。


「どうしましたの?」


「いいえ、何でも!」


「あれ?」


それからテミスは暫くの間、頬を膨らませたままだった………

実はテミスのファンクラブ(会員全員男)とかあったりします。

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