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元令嬢、全てを語る

「あの、黒い魔獣が何で魔法を使えていたかテミスはわかりますか?」


「へっ?」


黒幕、その言葉に一気に顔に緊張感を浮かべたテミス。

だがテミスは突然語り始めたラミスの姿に呆気に取られたように目を見開いた。

ラミスの話、それはおそらくかなり重要な話なのだろう。

魔獣が何故魔法を保有していたのか、それはテミスも疑問に思っていたことの一つだった。

そしてもしラミスがその理由に心当たりがあるならば、その心当たりを直ぐに聞きたいと思うだろう。


だが今はそれどころではないはずなのだ。


テミスでも感じられる強大な何者かの威圧感。

それをラミスが未だ気づいていないなんてことはあり得ない。


「その理由は禁呪と、呼ばれる存在です」


だが、それでもラミスは言葉を止めることはなかった。

過去を思い出すような何処か遠くを見つめる視線で、口を動かし続ける。


「ら、ラミス様?」


そしてそのいつもからは考えられないラミスの状態に、テミスの心に不安が生まれる。

人間の中ではトップクラスの実力を有するラミスが、こんな状況に陥るほどこの先にいる存在は厄介なのかという。


「お父様とお母様を殺したあの男にも使われていたものです」


「っ!」


だが、次の瞬間自身の考えが間違っていたことをテミスは悟った。

つまり、ラミスの状態のその理由、それは辛い過去を思い出しているがのものだということを。


ラミスが語っているその話、それは一度マートライト家が滅びかけた事件。

その発端はマートライト家を疎んだ研究職の貴族の家と、より強大な力を得られるのではないかと考えた王族が結びついて起こしたとある研究が原因だった。

そしてその研究は莫大な被害を生んで、マートライト家の当主、つまりラミスの父と母を死なせた。

決してそのことに関してテミスはよく知らされていない。

その事件が起きた後にテミスが来たというのもあるが、誰もその事件に関して積極的に話そうとしていなかったのだ。


「あの時、突然王国中で暴虐の限りを尽くした男は罪人でした。スラム街で飢え、そして仕方なく貴族に対して盗みを犯して死罪になったはずの男」


そしてついにその時の話が聞けるとのかとテミスは思わず緊張に顔を強張らす。


「ですが、その男は死罪にされていませんでした。いえ、それどころか人体実験の材料として扱われていたのです」


それはあまりにも酷すぎる話だった。

飢えて少しの食料を盗んだ男、彼が盗みを働いた貴族は飢えてなど一切いなかっただろう。

だが貴族はただ不快だったという理由で男を死罪にして、そして最終的には男は人体実験という地獄に放り込まれたのだから。

そしてその人体実験は成功し、だからこそ復讐心を抱いた男は……


「しかし、その計画が成功することはありませんでした」


「なっ!」


そのラミスの言葉に思わずテミスはそう声をあげた。

失敗した、だったら何故あれだけの被害が起きたのかと一瞬テミスは混乱する。


「ですが、実験成功しました」


「えっ?」


しかし、その疑問を解くことなくさらにラミスは言葉を重ねる。

そのせいでさらにテミスは混乱することになる。


「つまり、計画では禁呪で作った最強の人間を手兵とするつもりだったのが、制御不能な最強の人間を作ってしまった、ということですわ」


「なっ!」


だが、次の瞬間その言葉にテミスは思わず言葉を失った。

ラミスの言葉、それが本当に起きたことなのだとすれば一体どれ程の被害が起きたのかと。

当時のマイヤール家の当主が命を失ったその理由がテミスには察せられて思わず喉を鳴らす。


「その、ラミス様」


そしてテミスがマイヤール家の危機のとき何があったのか大体のことを察した。

だが一つ、彼には未だ分からないことが存在した。

確かにその時の被害は恐ろしいものだったのだろう。

そしてその事件が今回のことに関係しているならばそれはかなり有力な話となるだろう。


「その、それと今回の魔獣の話にどんな関係が……」


だがそれでも未だラミスの口から魔獣が魔法を使えていなかった訳は話されていなかった。

それを疑問に思って尋ねたテミスに、一瞬ラミスの顔に緊張が走る。


「おそらくあの時と今回、事件の中心になっているのは禁呪の存在ですわ」


「禁呪?」


「ええ。その禁呪は命を他者に強制的に譲渡させるもの……つまり、命を過剰に分け与えることで、魔法を強制的に保有させようとしたものなのですから」


「えっ?」


ラミスの話、それでテミスは今回の事件の黒い魔獣の正体を悟る。

つまり魔獣はその禁呪で命を譲渡された存在だったのだ。


ーーー だが、そんなことをテミスは理解はしても納得はできなかった。


「いや、そんなことあり得る訳がないじゃないですか!何なんですか、命なんて不確かなもの!そんなものをそんな風に扱える人間がいるわけ……」


「いいえ。1人だけこの世界にいるわ」


「っ!」


納得出来ずに声を荒げたテミス。

禁呪の存在、それは確かに御伽噺の類だが、それでもラミスがあるというならばまだ信じられる。

だがそれでも命に関する話など一切聞いてもなくて……

しかし、ラミスはそんなことができる存在がいるとそう断言した。

つまりこれは、本当にそんな存在がいることに他ならなくて……


「やはり気づかれていたか」


「なっ!」


その時、突然男のものと思われる声がその場に響いた。

全く存在が読めなかった男の出現にテミスは思わず警戒を顔に浮かべる。

だが、ラミスは一切動揺することはなかった。

ただ、顔に笑みを浮かべてみせる。


「えぇ、待っていたわ


ーーー 貴方を殺せる日を」


次の瞬間、ラミスから気の弱いものであれば心臓が止まりかねない殺気が噴き出した……

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