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元令嬢、その場を去る

「くそっ!」


ただの悪足掻きだと、そう思われていた支部長の逃走。

それに当初は元側近たちも嘲るような表情しか浮かべていなかったが、だがその支部長の肥えた身体からは信じられない速度に焦り始めた。

もちろんこの支部長の速度は決して実は支部長が身体を鍛えていた、なんて見た目的に無理のある理由では無い。

明らかに早すぎる速度で支部長が逃げだせた理由、それは魔法具当初は呼ばれる存在だった。

それは魔獣が持つと言われる魔石を原料にして作られた人知を超える力を発揮する道具。


その道具を身につけることで本人の実力なら無理なような速度で走ったり、または力を強くしたりなどの超常の効果を発揮する。


「ははっ!俺は助かる!」


そしてその魔法具を支部長は服の下に複数身に纏っていた。

魔法具は普通屋敷と同じ値段がするので、幾ら支部長と言っても複数持つなどあり得ないことない。

だが支部長は脅し、無理やり自分の手先にしたC級冒険者である側近たちの魔法具を奪っていたのだ。

確かに冒険者は命をかける職業であり高給だ。

だがそれでも魔法具をそうぽんぽんと代えたりなどしない。

それほど魔法具は高給で普通の人間ならば迷うことなくその金で屋敷を買うだろう。

だが、それでも冒険者が魔法具を買うのは仕事に必要だからだ。

魔法保有者ならばともかく、殆どそんな選ばれた人間はいない。

そしてそれでも冒険者のC級として活躍して行くにはそれだけの装備が必要なのだ。

だからこそ、魔法具はC級冒険者の証と言われ、大切にされる。

もちろんそれだけの価値があることは確かなのだが、それぐらい魔法具はC級冒険者にとって特別な意味を持つのだ。


そして、その魔法具を無遠慮に支部長は奪い取っていたのだ。


支部長がラミスが幾ら早く側近の意識を奪ってもそれでも逃げられると踏んだわけ、それがこの魔法具でその判断が間違っていないことを示すかのように支部長は凄まじい速度で逃げて行く。


「くそっ!」


そしてその支部長の姿に元側近達が悔しさを隠しきれない様子で吐き捨てた。

それは当たり前のことだろう。

絶対に許せない、家族を人質に取った忌々しき男。

その男に自分の誇りとも言える魔法具を使って逃げられたのだ。

そのことに何も感じないわけがない。

そして支部長を逃したという悲壮感にその場の空気は染まって行く。


「はぁ……私は手を出すつもりなど無かったのですが」


だが、そんな中酷く不本意そうな顔でぽつりとラミスが何事かを呟いた。


「えっ?」


そして呆然と自身を見つめてくる元側近達の視線を気にせず、剣を抜き振りかぶる。


「はぁっ!」


次の瞬間、ラミスの手から放たれた剣は空気を切る音と共に支部長へと飛んで行く。

支部長とは比にならない速度で。


「あっ?」


そして次の瞬間ラミスの剣は支部長の足を切り裂いた。

走っていた途中に何故か急にバランスが崩れ、支部長は何が起きたのか分からず間抜けな声を漏らす。


「あがっ!なに……あ、あぁぁぁぁあ!」


だがそのまま転んだ、次の瞬間ようやく痛みを感じ始めたのか叫び始めた。


「足が!私の足が!」


痛みからか支部長は涙を流しながらそう喚く。


「それくらい、貴方の仕出かしたことに比べれば安いものでしょうに」


「っ!」


だが、目の前の地面に広がった影に誰かに後ろに立たれたことに気づいて支部長の顔には恐怖が宿る。

そこにいたのは、血に濡れた剣を手にしたラミスの姿だった。


「やめ、た、助けて!悪かった!わたしが全て悪かった!認めるから!」


そしてそのラミスの姿に支部長は顔を恐怖に染めてそう何度も頭を下げて命乞いをする。


「……だから言っているでしょう。何もする気は無いって」


「っ!本当ですか!」


その支部長の酷く情けない姿にラミスは嘲りと共にそう言葉を吐き捨てた。

そしてその言葉に途端に顔色を変えた支部長にラミスは怒りを通り越して呆れを感じる。

何度言えば分かるのか、こいつを裁くのは別の人間だと。


「ラミス様、ありがとうございます。これで報いを受けさせることができます」


「なっ!」


ラミスの後ろからようやく追いついてきた元側近の姿、それを見てそれから支部長はようやく自分が何から逃げ出していたのかを思い出し、顔を絶望に染め、再度ラミスに助けを求めるかのように口を開こうとする。


「行きますわよ」


だが、その時には既にラミスは身を翻していた。


「っ、ま、待っ……」


「おい、こいつの身につけている魔法具をまず剥ぎ取るぞ!」


そしてその後、支部長がどうなったかそのことを知るものは元側近達だけだった。

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