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元令嬢、支部長の諦めの悪さに呆れる

「っ!」


首元に突きつけられた剣、それに支部長も自分の敗北を悟る。

勝てるとそう確信を得てからの勝負からの敗北。

それに支部長の顔から血の気が引いて行く。

その顔に浮かぶ絶望の理由は勝てると確信していた勝負を負けてしまったからか、それとも自分の未来を想像したからか。


「ま、待ってくれ!この件は私が主犯ではない!」


だが、それでも支部長の目からは未だ光が失われていなかった。

勝てたはずと思っていた勝負を、圧倒的な実力で踏みにじられさえ、それでも未だ諦めない支部長。

その諦めの悪さはある意味、尊敬に値するかも知れない、とラミスは内心を感心を覚える。

まぁ、総合的にはそのことに感じた感心など今までの支部長の行動に打ち消され、ぬぐい切れないマイナスなのだが。


「そう、黒いローブの男だ!そいつが私を嵌めたんだ!それに私は貴女に抵抗するつもりはなかった!全て冒険者たちの勝手な暴走で……」


そして支部長の口から出てきたのはあまりにも聞くに耐えない責任転嫁の言葉だった。

確かにラミスを狙うつもりなど支部長には一切なかっただろう。


だが、そんなこと一切ラミスは気にしていない。


戦場に出ればかつて敵だった人間が仲間になることなどそれこそ腐る程ある。

そんな時に過去の禍根など根に持っていれば待っているのは敗北だ。

だからラミスは自分の命を狙われたことがあれど、そのことは決して根に持つようなことはしない。


「そう、だったらこれは何かしら?」


そう、正当な理由さえあれば。


「えっ?」


次の瞬間、そう憎々しげに呟きながらラミスが支部長に突きつけた書類に支部長の顔から今度こそ、表情が消えた。

それはテミスが持ってきていた支部長の不手際の証拠だった。

この場で親しい人間だけに声をかけて直ぐに去ろうとラミスが決意した理由、それは実はこの書類が理由だったりする。

ラミスはテミスに言いつけて支部長の汚職を確信したその時にはギルド長にそのことを知らせるべく探りを入れていたのだ。

そして出て来たのが決して看過することのできない支部長の汚職の数々だった。


だが、それでもこの辺境の異常に確信の行く書類だけは見つかることはなかった。


そのことを確認したその時に既にラミスはこの場所に対する不信感が無視できなほど高まっていたのだ。

そう、いざとい時は後ろを振り返ることなくこの場所を離れた方がいいと確信できるほどに。

それほど支部長が告げた黒幕は用意周到な人間だった。


「な、何でこんな所に!」


だが、支部長は一切そんなことはなかった。

ラミスのてある自分の汚職を示す書類。

それを見て彼は顔色を変える。

念入りに隠した証拠を握られているという、その事実は自分を社会的に潰すことも容易くなる。

だからこそ、その事実に支部長は恐怖に顔を歪めて……


「その程度で済むと思ってますの?」


「えっ?」


その時、まるで支部長の思考を読むかのようにラミスの声が響いた。


「そうですね。冒険者たちを人質をとって脅したことそれだけでも重罪、ギルド支部長をクビにされることは確実ですのに。それどころか何人のギルド嬢を手篭めにし、その後貴族にバレないよう殺害」


つまりギルド嬢の数が少なかったわけ、その理由、それは支部長の所為だったのだ。

そしてラミスは支部長に嘲笑を向けて、隠し切れない怒りを込めて吐き捨てた。


「ギルド長に知られれば殺害は免れませんわね」


「はっ?」


ようやく自分が犯した罪の大きさを支部長はラミスの言葉に悟る。

呆然と、間抜けな声を漏らし、それから徐々に顔を未来への絶望が染め上げてくる。

そしてその支部長の表情を見て思わずラミスは呆れを覚える。

支部長がどれだけの悪事をしたか、それを本人が分かっていないわけがない。

支部長の悪事はテミスが書類で見つけられただけで相当の数だったが、おそらく支部長が手を染めた悪事はその程度ではないだろう。

例えばこの街に女冒険者が殊更少ない理由も支部長が関わっているのに違いない。

確かに女性の冒険者は決して多くはないが、この場所では極端に少なかったのだ。

そしてそれだけの悪事を働いておきながら目の前の男は最悪でも職を奪われる程度だと思い込んでいたのだ。


「何故だ!何で私がそんな目に遭わなければならない!私は貴族で支部長なのだぞ!」


「まぁ、もうその身分は剥奪されますけどね」


それはもう呆れしか覚えられない思考で、錯乱して内心をダダ漏れにする支部長にラミスはそう吐き捨てた。

そういえばどうしてこんな愚物が辺境などの支部長に任されたと思っていたが、身分が貴族だったかららしい。

まぁ、そうでなければさすがに支部長などに命じられることはないかとラミスはこんな愚物を支部長にしなければならなかったギルド長の苦労を思いしのぶ。

そしてラミスの言葉に支部長は少しの間呆然としていた。


「………がいる」


だが、その目には依然として狂気じみた色が宿っていた。

そして何かをぽつりと支部長は漏らす。

ラミスは当初何を言ったのか聞きとれず思わず耳をひそめるが、だが次の瞬間立ち上がった支部長の姿に思わず動揺を漏らす。


「私にはまだ、人質がいる!」


そして叫んだ支部長の言葉に側近たちの顔から表情が消えた……

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