元令嬢、暴露される
「えっ?」
ー 魔法を保有していない。
そのギルド支部長の言葉に、支部長、テミス、ラミスを除くその場にいる全員が言葉を失った。
それはマイヤールやエミリ、さらに支部長の部下も含めて全員。
そして次の瞬間、支部長達の部下に嘲笑が浮かび、エミリの顔から血の気が引く。
確かに魔法なしで魔法を扱える魔獣を圧倒したというラミスの実力は恐ろしい。
魔法というのは保有者の能力を2、3倍、いや、それどころか熟練者は10倍以上の増幅する。
それを一切の増幅なしで増幅した存在を倒せるというのはまさに技を極めた達人と呼べる所業だろう。
ーーー だが、それは全て魔法で能力を増幅できる前提としての話だった場合だ。
魔法が使えないそんな人間が魔法保有者を下す。
それは確かに偉業で埃讃えられることかもしれない。
だが、だとしてもそれだけだ。
魔法を使えないものはそれが全力で、だからこそそれ以上には至らない。
その時点で全ての成長が終わる。
幾ら達人だったとしても、手にすることが出来る最高の実力は初歩の魔法保有者に勝てる程度。
それは絶対の法則で、だからこそ魔法は英雄とそうでないものを分ける基準とされる。
「Gyaaa!」
「ひいっ!」
そして魔獣の雄叫びにエミリは身体を震わせて悟る。
確かにラミスの実力者であると言えるだろう。
けれどもそんな彼女でもこの状況から逃げることはできないはずで……
「大丈夫ですわよ」
「っ!」
だが、そう不安に駆られたエミリの頭に暖かい手が置かれた。
その甲は綺麗な手で、だけど武人であることを示すように掌は硬い。
そして何故かエミリはその手で頭を撫でられる度に何故か安心出来て、だから不安と恐怖を押し殺してラミスに頷いてみせる。
「………俺も今なら戦える」
そしてそのエミリの表情を目にして、驚愕して硬直していたマイヤールも強い光を目にして立ち上がる。
「ありがとう」
ラミスはその2人の態度に嬉しそうに笑って……
「はっ!ラミス・マートライト、お前がこの魔獣に敵うわけないだろう!」
その時、支部長の嘲るような声がその場に響いた。
そして支部長は口元に隠す気の無い侮蔑を浮かべたまま、言葉を続ける。
「確かにお前は類い稀な強さを持っている。魔法を保有せずにS級にまで成り上がったその強さは評価しよう。
だが、本当にお前にこの状況をどうにかする力があるのか?」
「黙りなさい」
ラミスはそう、叫ぶ支部長を睨みつけるが、だがその視線を受けて支部長はさらに優越感を感じているかのように哄笑をあげる。
「両親を殺した化け物を相手にしながら!」
◇◆◇
「っ!」
支部長のその言葉は再度この場の空気を変える。
エミリ、マイヤールだけでなくテミスさえも顔色を変え、言葉を失う。
だがそんな状況でもラミスは一切顔色を変えることはなかった。
いや、それどころか全く動じるそぶりを見せることさえ。
ーーー だが、その沈黙は支部長のことが本当であるということを示していた。
「どうした!何か言ったら如何だ?両親を殺したあの化け物と同種の存在が自分を囲んでいるんだぞ」
そしてそのラミスの様子に支部長は益々嘲りの表情を深める。
「マートライト家を立てたあの伝説の貴女の両親を殺した仇を未だ忘れとらんだろう!ほら!それと同じ存在が目の前におるのに何もいえんのか!」
げらげらと黙るラミスを嘲笑して、気分が良さそうに支部長は笑う。
その目には隠しきれない嗜虐的な喜悦が宿っていて、その歪んだ支部長の欲望に部下までもが数歩無意識のうちに退く。
「まさか、ご両親を殺した存在を恐れているのか!いや、そんなことはあり得まい!戦乙女と呼ばれるそんな貴女がそんな臆病風に吹かれることなど!」
だがその周囲の反応に支部長は気づかない。
ただ、ラミスを追い詰めるそのことに優越感を感じていると言わんばかりにさらに彼は言葉を重ねる。
「確かにこの状況は貴女でも辛いかもしれませんなぁ!確かにあの時ご両親を殺したやつらに比べると此奴らは確かに弱い。ですがこの量になればあの時など比にならない危険でしょうからなぁ!ですが、貴女はそんなことを仰ることはありませんなぁ!英雄様が恐怖などとそんな感情で足を止めるわけがありませんから!」
唾を飛ばし、ラミスにそう叫ぶ支部長の頭にあったのは絶対的有利だと確信した今の状況でどれだけ弱者を痛めつけるか、それだけだった。
そして支部長はそれだけの為にさらにラミスを罵るために口を開く。
「だとしたら理由は一つ!高名な貴女のご両親は実はそんな人間ではなかったのですな!そうですか!だからこそ今これだけ言われても行動も何も出来ないのですか!ありがたいことです!自ら両親の卑小さを私どもに示していただけるとは!」
それは全てラミスの心を折るためだけの言葉だった。
本当に先代マートライト家の当主、つまりラミスの両親が卑小だったなど支部長は一切思っていない。
だからこそ、支部長は恐怖で動けないラミスを見て、それは両親が卑小だったからだと指摘したのだ。
それは全てラミスを蔑むために。
弱者を虐げより多くの優越感を得るためそれだけのために。
「黙りなさい、そう言ったのが聞こえませんでしたか」
「はっ?」
そして欲望だけに意識を向けていたせいで、支部長は自分が何をしでかしてしまっていたのかに未だ気づいていなかった。
突然ラミスの側にいた魔獣が首を切り落とされ、完全に死体となった状態で支部長へと飛ばされてくる。
その死体は支部長には当たらなかったものの、すぐ側の側近に当たり側近は無言で倒れる。
その側近の姿に支部長は驚愕の悲鳴を上げようとして……だが、その悲鳴は口から漏れだすことはなかった。
「この場は別に戦うつもりなどなかったのですが、いいでしょう。そこまで言うのならばこの私が答えてあげましょう」
そう静かに激怒したラミスのその姿に、その姿に支部長はようやく気づく。
ラミスは全くこの状況で恐れていなかったことを。
そして、自分の言葉のせいで今までないほどに激昂したというそのことを。




