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元令嬢、仲間と別れる

兄に一応に罰を与えたラミスは真っ白に燃えつきた兄を残し、国を出る用意をしていた。

といってもそんな多い荷物を持って行くつもりはない。

令嬢として必要なものが屋敷の中には溢れかえっていたが、もうラミスは令嬢ではないのだ。

そして令嬢をやめたラミスの生きて行く先、それはおそらく今の自分の実力を生かして傭兵になるか、それか冒険者になるかの2つだろう。

だがもうラミスには戦場で生きて行く気は無かった。

つまり、ラミスは冒険者として生きて行くことを決意していた。


そしてそれは自動的に今までマートライト家に尽くしてくれていた寡兵達と別れることを意味していた。


ラミスはマートライト家に存在するあらゆる業物の中、一振りの剣と短剣を幾つか手にする。


「後は皆への報酬で山分けにするように言っておきますか……」


それはおそらく部下を敬うことをしようとしない貴族としては破格の対応だろう。

ラミスの取った剣、それは彼女の愛剣で龍神の鱗で作られたと言われる英雄の御伽噺出てくるような業物だ。

だが流石にそんな剣と同格は少ないとはいえ、他の武器もそれぞれ売れば一財産作れるような業物である。

そんなものを部下に差し出そうとしているのだ。

だが、ラミスはそれが当然であると思っていた。

ヴァリス達寡兵がマートライト家に尽くしてくれたという恩、それは形になど出来ない程大きなものだ。

最初に貴族として召し抱えられた両親の傭兵団として活躍していたヴァリス達がラミス達子供の代になっても力を貸してくれたのはひとえに両親の存在が大きかったそれだけ。

そしてそんな理由で命を懸けてくれた彼等になら、幾ら業物だといえども退職金としては安いぐらいだ。

ラミスはそう考えて、鎧に関してもいつも自分が使っていたものだけを取り、後は全て残す。


「だから、受け取って下さいね」


そしてラミスはそう背後に呼びかけた。


「はぁ……」


すると誰もいなかったはずの背後から1人の男が現れた。

その男の名はサリス。

全身を黒い衣服で包んだその男は顔も目しか見えていない見るからに怪しい格好をしている。

そして唯一見えている目はやる気なさげに細められていてぱっと見ただのおかしな人にしか見えない。


だがその正体ははヴァリスにも引けを取らない実力を持つマートライト家の暗殺部隊の隊長だった。


「本当にお嬢は俺たちに尽くしすぎだよ……この先変な男に捕まらないでよ」


そしてサリスは私の言葉に大きく溜息をついた後、そのやる気なさげな態度からは想像ができないほど機敏な動きで私との距離を詰める。

一瞬、ラミスは滅多に実力を出さないサリスが動いたことに驚くが、


「いいえ。これは長年マートライト家に尽くしてくれた貴方達への正当な報酬ですわ」


だが直ぐにそう毅然とした声で断言した。


「へっ?」


するとラミスの言葉に滅多に感情を表に出さないサリスが唖然とした声を漏らした。


「っ、本当にこの人は無自覚なんだから……」


「ん?」


そしてラミスに聞こえないよう、小声で何かを言って、それから頷いた。


「だったら遠慮なく貰うことにする。………ということだぞ!」


「うぅ、お嬢!」


「畜生、そんなこと言われたら何もいえねぇじゃねえか……」


サリスが後ろに向かって叫ぶと、後ろからむさい男達、つまりマートライト家の元寡兵達が泣きながら現れだした。


「えっ?皆どうしましたの!」


そしてその姿を見てラミスは動揺する。

もちろんラミスは物陰に元寡兵達が隠れているのには気づいていた。

だがまさか泣き出されるとは思わず、ラミスは慌てる。


「気にしなくて良いぜ、お嬢。ただお嬢と一緒に行かれないことを悲しんでいるだけだから」


だが焦るラミスの肩に大きなヴァリスの手が置かれた。


「えっ?」


ラミスはヴァリスのその言葉の意味が分からず呆然と声を漏らす。


「相変わらずだな、お嬢!」


するとヴァリスはそんなラミスの態度に笑う。

だが次の瞬間、ヴァリスの顔は真剣なものになっていた。


「お嬢は先代みたいに傭兵団を作るつもりは無いんだよな?」


「えっ?ええ……」


「やっぱりか。お嬢は戦争嫌いだったもんな……」


ヴァリスはラミスのその言葉に一瞬悲しげな顔をしたが、次の瞬間突然膝をついた。

しかも今まで泣き叫んでいたはずの元寡兵達もヴァリスと同じように膝をついた。


「なっ!」


その突然の行動にラミスは驚く。


「お嬢、ここで俺たちはお嬢とお別れだ」


「っ!」


だがヴァリスはそんなラミスの驚愕を気にせず真剣な口調で言葉を重ねる。


「だがここに俺たちは誓おう。たとえこの先のどれだけ離れようと変わらない俺たちは貴女に忠誠を誓う!」


「っ!」


ヴァリスの言葉、それは1人の騎士が永遠に忠誠を誓う時に告げる言葉だった。

そしてその言葉を受け、ラミスは思わず言葉を失う。

確かに一緒に戦う内にヴァリス達とは心を許しあってきた、そのことは気づいていた。

けれどもそんな忠誠を誓われる程慕われていたとはラミスは露ほども思っていなかったのだ。

だがそれでも情けない姿を晒すまいとラミスは溢れ出しそうになる涙を唇を噛み締めて堪えようとする。


「「「「「誓う!」」」」」


「っ!」


だが騎士団全員のその言葉にとうとうラミスの目から大粒の涙が溢れ出した。


「あはは。相変わらず涙脆いことお嬢はかわらねぇな……」


「貴方達のせいでしょう!」


そしてそのラミスの姿を見て、ヴァリスは軽口を叩く。

ラミスはそのヴァリスの軽口に噛み付くように返信して、それから涙を流しながら満面の笑みを浮かべた。


「その誓い、この私ラミス・マートライトが受け取ります。


ーーー 大好き!」

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