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元令嬢、魔獣と対峙する

「ふぅ……」


何とか間に合った、そのことを呆然とした様子で自分に視線を向けてくるマイヤールの様子を見て悟り、ラミスは安堵の息を漏らす。

後少しでも遅れていれば、いや、もしマイヤールがもう一撃魔獣に与えようとすることなく諦めていれば間に合わなかっただろう。

そしてそんな極限の状態からマイヤールを救えたのはただただ運が良かったそれだけ。

もう少しこの辺境の異常に対して心構えをしていれば話は違っていただろうとそのことをわかっているからこそ、ラミスの胸に後悔が生まれる。


「Gyaaa!」


だが、今はそのことについて意識を割いている場合ではない、魔獣の声にラミスはそう判断する。

自分へと唸り声を上げる魔獣へと目に怒りを宿した状態で振り返る。


「私の大切なお友達に手を出しておいて、ただで済むとでも?」


それは酷く底冷えした声だった。

今までラミスと過ごし交流があるものからは信じられないような声。

そしてその声こそがラミスの怒りを物語っていた。


「Gaaa」


そのラミスの態度に何かを感じたのか、魔獣の顔に警戒の色が宿る。

だが、一方のラミスはそんな魔獣の反応に気づきつつもそれでも自身は何ら態度も変えることなく魔獣の元へと足を踏み出す。


「マイヤールが魔法を使えたことにも驚きましたが、まさか魔法保有者を圧倒できる、迷宮の深層にしかいないと言われるスキル保有者の魔獣がこんな場所にいるなんて」


本当に、何でそんな化け物級の魔獣がこんな場所に、とラミスはそう心底忌々しそうに告げる。

だが、化け物級の相手だとそう自身で告げながら、それでもラミスの歩みが止まることはなかった。

決して油断はない。

けれども全く魔獣を恐れる気配なくラミスは足を動かす。

段々と縮まって行くラミスと魔獣との間の距離。

ラミスと魔獣との間の緊張感がラミスが一歩踏み出すたびに高まって行く。


「Gyaaa!」


そしてその緊張感に最初に耐えられなくなったのは魔獣だった。

マイヤールとの戦闘では一度もあげなかった雄叫びを上げ、ラミスへと飛びかかる。


だが、先制攻撃を仕掛けてきた魔獣の姿に対してラミスには一切緊張はなかった。


「恐怖が隠しきれていませんわよ」


「Gya!?」


ラミスの全く緊張を感じさせない声が響き、その声と共に魔獣に人間ばなれした速度の剣が叩きつけられる。

そしてラミスに襲いかかろうとして空中にいた魔獣にその攻撃が避けられるはずなどなく、魔獣の腹部を剣が切り裂き青い血が辺りへと飛び散る。

それはマイヤールが付けた傷などとは比較にならない程の深く、明らかに通常の魔物ならば致命傷になってもおかしくないような傷。

それでも吹き飛ばされて起き上がった魔獣の動きは未だ鈍っていない。


「Gya………」


だが、その顔には最早隠しきれないラミスへの恐怖が張り付いていた。


ー 前にやりあった個体よりはかなり弱いですわね。


そしてその魔獣の態度を見て、ラミスは目の前の魔獣は自分の敵でないことを確信する。

だが、だからと言ってラミスが油断することはなかった。

目の前の魔獣とマイヤールとの戦闘、それを実はラミスは見ている。

と言ってもこの場所に来るまでに少し目に入っただけだが、それでもマイヤールが魔法を使っていることと、この魔獣の異様な爪の様子だけはぼんやりとだが、視認していたのだ。

だからこそ目の前の魔獣は未だ自分相手に本気を出していないとラミスは判断する。

あの爪が変色していた何かは恐らくこの魔獣のスキルなのだろう。

スキルとは魔獣が使う特別な力で、その大体は恐ろしく厄介なものであることが多い。


「Gyaa!」


だからこそ、恐怖を覚えながらも未だ繊維を失わない魔獣の姿にラミスは警戒を上げる。

どんな能力を使うのかはわからない。

だがそれでも決して龍を超えるような、そんな相手ではないと自分に言い聞かせながら剣を握る手に力を込める。


「Gyaaa!」


そして自身を鼓舞するように雄叫びをあげた魔獣の姿に、攻撃を仕掛けようとして………


「えっ?」


その途中でラミスは動きを止めた。

そのラミスの驚愕を恐れだと勘違いしたのか笑みを浮かべる魔獣のその姿、いや、爪を見つめてそしてその目を驚愕で見開く。


「何で、魔獣が魔法を使えますの?」


そしてラミスの口から漏れた声。


ーーー それは驚愕の感情だけではなく、隠し切ることのできない憤怒が込められていた。


「Gyaa!」


だがそのラミスの様子の変化に魔獣は気づかない。

ラミスの態度を自分の爪を見て恐怖に駆られたのだと決めつけ、その口に嗜虐的な笑みを刻む。


「……なさい」


「Gya?」


だが、その勘違いは直ぐに正されることとなる。

感情を押し殺し、何とか呟いたそんなラミスの声はくぐもっており魔獣の耳に正確な意味を伝えることはなかった。


「Gyaa!」


ーーー だが、その言葉に込められたラミスの感情は魔獣に余すことなく伝わっていた。


ラミスの怒りに触れようやく魔獣は悟る。

自分は絶対に触れてはならない、目の前の人間の逆鱗に触れたことを。


「教えなさい!誰が、あなたの身体にその禁呪を刻み込んだのか!」


そして次の瞬間、その言葉と共にラミスは魔獣へと飛び掛った……

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