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マイヤール、切り札を切る

「Gaa」


一切知性は感じさせない黒い魔獣。

だがそれでもその黒い魔獣は圧倒的な威圧感を放っていた。

高位魔獣が現れるかもしれないとそれだけの心構えをしてきたマイヤールは目の前の黒い魔獣のその威圧を受けて悟る。

目の前の魔獣は高位魔獣でさえ凌駕する実力を持っているということを。


「あはは!こいつはやばいぞ。あのベテランとか持て囃されていた奴らを瞬殺したからな!」


黒い魔獣の実力を見極めているマイヤールに冒険者の1人が嗜虐的に笑いながら、そう吐き捨てる。

だがそれは決して正確ではなかった。

ベテランという言葉、それは決して持て囃されていた訳ではなく、それだけの期間冒険者であっても未だ低ランクであることを馬鹿にしたものなのだから。


ただ、それよりも目の前にいる冒険者達の方が素行的にも、実績的にもお粗末だったというだけの話。


「何がD級だよ!そんな風にちやほやされて嬉しかったのか?


だが、それはここで終わりだ!お前にはこいつに勝てない!」


そしてもう1人にそう吐き捨てた時に目に宿った羨望の色を見て、ようやくマイヤールは何故冒険者達が自分を標的にしたかを悟る。

その理由、それはただの羨望だろう。

目の前にいる冒険者達は他の冒険者に比べても才能のない、そう言われる人間だった。

実際はただ、努力するのを放棄しただけのそんな人間でしかないのだが。

そしてマイヤールは冒険者達の目的が黒い魔獣という化け物に対して酷く不相応な感覚がする。

だが今はそんなことを考えている暇ではなかった。

幾ら冒険者達が小物でも、それでも彼らの黒い魔獣にマイヤールが勝てないというのは真実なのだから。


そしてだからこそ、マイヤールは今のままの自分でも勝てる手を迷う暇もなく実行した。


「なっ!」


突然黒い魔獣を無視し、自分達へと走ってきたマイヤールの姿に冒険者達は驚愕に目を見開く。

だがその驚愕が行動に移るその前にもうマイヤールは距離を詰めていた。


「あいつが無理ならば弱い本体を抑えれば良い」


あっさりと背後へと自身をを通した黒い魔獣をマイヤールはそう嘲笑ってみせる。


「くそがっ!」


そしてマイヤールに人質とされる形になった冒険者は口汚く、そう吐き捨てる。


「おい!止まれ!」


だがそれでも流石に命が惜しいのか、そう黒い魔獣へと呼びかけて……


「えっ?」


「なっ!」


「Gaaa!」


ーーー だが、魔獣がその指示に従うことはなかった。


マイヤールは何とか反射的に冒険者を離して背後へと全力で飛ぶ。

だがマイヤールに抱えられていた冒険者と、もう1人の冒険者は全く反応できておらず、次の瞬間主人がいたはずの場所へと黒い魔獣は突進した。


「ぎゃぁぁぁあ!」


その強靭な顎に冒険者達が噛み砕かれているそのグロテスクな光景を目にして、そしてマイヤールは絶句する。


「こいつ、何だよ!」


最初、シャーマンと呼ばれる人間が扱うと言われる召喚獣だと決めつけていたが、主人を何の躊躇もせずに食い殺した黒い魔獣の姿にその認識が間違っていたことをマイヤールは悟る。

この魔獣は召喚獣、そんなものとは比にならない何か邪悪なものではないか、そんな考えがマイヤールの頭に浮かぶ。


「Ga」


そして、そのマイヤールの考えを見透かしたように魔獣は口元を歪めた……






◇◆◇





「笑った、だと?」


感情のないはずの魔獣が見せた、表情とそう呼んでも良さそうなそんな顔。

それに動揺を漏らし、マイヤールの動きが止まる。


だがそれは一瞬のことだった。


マイヤールの顔から余裕が消え、剣を握る手が力の入れすぎで震える。


「何者かはわからねぇが、明らかに俺よりも強いか……


出し惜しみをしている場合ではないな」


「Gya?」


そして、マイヤールの顔にまぎれもない笑みが浮かんだ。

その表情に一瞬魔獣の顔に戸惑いの表情が浮かぶ。

マイヤールはその魔獣の態度に、本当に人間のようだと内心吐き捨てながら、自分の内なる力を解放する。


「Gyaaa!?」


そしてその時、初めて今まで嗜虐的な笑みを浮かべていた魔獣の顔に恐怖が浮かんだ。

ある程度の実力を持つ魔獣だけが感じられる威圧感が周囲に吹き荒れ、そしてその中心でマイヤールは魔獣へと笑いかけた。


「なぁ、知っているか?これって英雄の力って呼ばれてんだってさ」


「Gaaa!」


そう笑うマイヤールの剣は握りしめる手首から、赤いオーラに覆われていた。

その赤いオーラに気押されるように魔獣は顔をしかめて、そして殺気を込めた叫びを放つ。

それは今までと違い、正式に自分を敵と認めた証だとマイヤールは悟る。

正直、本音なら今すぐ逃げたいところだが、おそらく機動力に関してはあちらの方が上。

逃げるのは隙を相手に見せるだけだ。

それに今はこの力があると、マイヤールは静かに決意を決める。


マイヤールの腕に纏われているオーラ、それは魔法と呼ばれる力。


物語で英雄と呼ばれる存在が、手にした頂上の力で、


「らぁぁぁあ!」


「Gyaaa!」


そしてその力を振るうマイヤールと、黒い魔獣が激突した。

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