元令嬢、支部長と面会する
「どうしたんですの…?」
何時もなら自分へ向けて満面の笑みを浮かべてくれていたエミリ。
だが今の彼女の顔にまるで気負いのようなそんな表情が浮かんでいて、ラミスは優しくエミリに囁きかける。
それはまるで可愛くて仕方がない妹に囁きかけるような酷く優しい声。
そして何時もならばその声を聞けば疲れた表情をしていてもエミリは笑顔を見せる、はずだった。
「手紙の、ことで……」
だが今回に関しては違った。
エミリはそのラミスの言葉に逆に顔をさらに歪めて、それから小声でぽつりと呟いて黙り込む。
その表情にラミスはもしかして何かあったのかと、顔に不安の色を宿す。
「分かりましたわ」
だが今、俯くエミリからなにか聞き出すことは出来そうになく、諦めてエミリについて行くことに決める。
「案内してくださいまし」
「あの、ラミス様……」
しかしその時おずおずといった様子で声をかけてきたテミスに、その時ようやくラミスは未だ話の途中だったことを思い出す。
そしてその話は出来れば直ぐにテミスにも伝えておきたい類の話だったが、しかしラミスは側にいるエミリを見て今テミスに伝えることを諦めた。
「戻ってきてから話の続きにしましょう」
そしてラミスはそうテミスに告げてエミリに手を引かれるまま歩き出した。
エミリのいる前でテミスとの会話をやめた理由、それは別に今エミリに話をしないことは決して彼女を疑っている、そんなことではない。
それどころか、立場的には疑っているべきなのだろうが、恐らくエミリは自分にどんな秘密を告げられても他人には口外しないだろうとラミスはそう思っている。
だがそれでもこれはエミリに言ってはいけない類のことだった。
つまり、知ってしまうだけでエミリ自身が危険にさらされる可能性がある、そんな類のもの。
ーーー その内容は、辺境のギルドが殆ど機能していないという、そんな普通ならあり得ないものなのだから。
◇◆◇
明らかにこのギルドがおかしい、そう気づいたのはD級のバルドが一番の実力者であると聞いた時だった。
確かに冒険者ギルドは様々な場所にあり、場所によってはD級の冒険者が一番の実力者の所はある。
だがそれは殆ど、護衛の仕事くらいしかないそんな街での場合だ。
しかしここはそんな場所ではない。
確かに迷宮程の魔獣は現れないし、そして迷宮のように想定もしていない危機が多発するようなそんな場所ではない。
だが、それはあくまで迷宮と比べた時の話でしかない。
確かにここは魔獣と戦うギルドが置かれている中では最も安全だろう。
だが、それ以外の場所と比べれば格段に危険な場所なのだ。
そもそも魔獣と戦わなければならないようなそんな危険な場所はこの国には少しの辺境か迷宮、それだけしかないだから。
そして幾らその中では弱いと言っていても、それでもたかがD級程度が最大戦力では魔獣を押さえることなどできる訳がない。
その結果がラミスのであった高位魔獣達で、このままでは冒険者達が被害に遭うのも時間の問題だろう。
なのにこんな状況にもなって未だギルドは動いていない。
冒険者カードを作る理由、それはギルドが冒険者を管理するためだ。
そしてそれによって今辺境には最高ランクがD級の冒険者までしかいないことをギルド支部長は知っているはずなのだ。
いや、知って危機感を覚えていなければおかしいほどの状況だ。
だが、そのはずなのに未だギルドは動いてすらいない。
しかも高位魔獣があれだけいたということは、少なくともこんな状況が数年以上続いてきたということを示しているのだ。
それは明らかに異常事態だった。
ギルドの怠慢、そんな程度の話ではない。
下手すればこの街が潰れかねない、そんな危険。
だからこそ、ラミスはこのギルドの支部長は恐らくかなり曰く付きの人物なのだろうと当たりをつけた。
「貴女が、ラミス様ですか」
「……ええ」
そして今、ギルド支部長本人を前にしてその想像が間違っていなかったことをラミスは確信する。
目の前にいたのは豚、そう言っても過言ではない体型をした男だった。
脂ぎった顔に、無造作に整えられた髪。
そしてこちらに向けてくる悪寒さえ感じる愛想笑い。
そのギルド支部長の姿を見てラミスは悟る。
目の前にいる男、このギルド支部長は欲深い人間であることを。
そうラミスが判断した理由、それはギルド支部長が今まで出会った薄汚い貴族達と全く同じような人間だったからだ。
そしてそんな人間は総じて出世欲が強い。
自分の身の丈に合わないことさえ気づかず、ただ高い地位を欲する。
少なくとも今までラミスが出会ってきた貴族達はそんな人間でラミスは目の前の男も同じような人間だと、そう判断する。
恐らくエミリが自分に申し訳なさそうな視線をよこしていたのも、目の前の男が自分がS級への紹介状を持っていることに気づきエミリに無理な要求を通すように告げたのが理由だろう。
恐らくギルドで自分の発言力を上げろとかのような。
「おや、貴女は……」
そしてさらに最悪なことをラミスは自分を見つめる支部長の視線から悟る。
つまり、自分がマートライト家であることを悟られたことに。
考えられる限り最悪な状況に思わずラミスはここから逃げ出したい気持ちに陥る。
「そういうことですか……」
だが、もちろんそんなこと出来るはずもなくラミスは感情を押し込めて支部長の次の言葉を待つ。
「しかし、S級に関してはこのギルドで昇格を認めることは出来ません。できるだけ早く迷宮都市に行かれることをお勧めします」
「えっ?」
しかし、支部長の言葉それは私の全く予想できないものだった……




