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元令嬢、食事に行く

「まぁ……そんなことないって直ぐに分かったけど」


テミスの胸に生まれた緊張、それは次なるマイヤールの言葉によって一瞬で消える。


「………失礼じゃないですか?」


だが、それでもマイヤールの指摘はテミスの心に一抹の不安を残していった。

今までラミスは確かにある程度知名度があるが、それでも一目で見抜かれるようなことはないと思っていた。

そして今までその予想が間違うことはなく、ラミスのことを貴族と分かるものがいたとしても指名手配された元令嬢であることを見抜いた人間はいなかった。


だが、恐らくラミスを知るものはいないその前提は目の前のマイヤールの存在よって崩れ去った。


もしかしたら他にもラミスの正体に気づいているかもしれない、そうテミスの胸に不安が宿る。


「罪人と似ているといったことを気にしているなら、それは検討違いの怒りだぜ。


俺にとってあの人は命の恩人で、罪人だなんて噂も嘘なんだからな」


そう告げるマイヤールの目には隠しきれない怒りが浮かんでいた。

そしてその目にはラミスへの敵意は存在しなかった。

その目をテミスは無言で眺め、それからマイヤールがラミスの敵でないだろうと判断する。

マイヤールが何故ラミスと関わりがあったのか、それはラミスの様子を見る限り彼女も忘れていそうなので聞いても分からない。

だが、それでも命の恩人だと、そう告げた時にテミスの目には一瞬、憧れのような感情が浮かんでいて、だから、テミスは彼を敵でないと判断する。


それは、自分がラミスに抱くのと全く同じ感情だと悟って。


「だけど、俺はあの人に恩を返すことはできなかった。あの人がいつの間にか、国を追われる立場になっていたのを知ったのも、最近だ。……本当に、あの人の元でいつか恩を返すために今まで鍛錬していたのに、情けねぇ」


そう告げるマイヤールの顔には隠しきれない、後悔が込められていた。

そしてその様子を見てテミスは悟る。

彼がラミスに何かと世話を焼いた理由

それは彼がラミスの役に立てなかった、そのことに関して後悔を覚えているからなのだろう。


そしてテミスの表情に、自分がラミスに関わっていた理由を悟られたことに気づいたのか、罰が悪そうな顔になる。


「……確かにあいつのいっていた通りだよ。俺はラミスとあの人を勝手に重ねて自己満足に浸っていただけだ。また、謝っておいてくれ」


「………分かりました」


その表情にテミスは想像以上にマイヤールが好感の持てる人物であることに気づく。

そして自分達が態々関わらないでもいい人間なのだということも。


「それにしても、本当に何であの女なんかを俺はあの人と勘違いしたんだろうな?明らかにあいつ、ポンコツだろ!」


それからマイヤールとテミスは和やかにそう主にラミスに関することを話題として話し始めた……






◇◆◇







「本当、言ってその直ぐ後に戻って言ったんだぞ。明らかあいつ馬鹿だろ」


それから数十分が経ち、マイヤールは嬉しそうにそうテミスに笑いかけていた。


「………ええ」


だがその一方、話を聞かされるテミスの顔にはいつの間にか表情が強張っていた。


「本当、あいつまず第一貴族であることさえ疑問なんだが」


ー え?これってラミス様に聞かれていたら絶対に殺されるやつですよね?


その理由はもちろん、上機嫌に話すマイヤールだった。

楽しそうに自分に話しかけてくれるマイヤール、それは決して悪いことではない。

気を許してくれるのだと思えば素直に嬉しいと思える。

だが、それでもこの言葉がもしラミスに聞かれれば、彼女の逆鱗に触れる可能性がある。

その恐怖に思わずテミスはカタカタと肩を震わせる。


「それにしても何で俺、ラミスの前でこの話すること躊躇したんだろうな?本当我ながら情けない」


「え、ええ、まぁ……」


ー それは多分、ラミスが戦乙女だからだと思います。


内心そう思うが、そんなことを言えばマイヤールが衝撃を受けるだろうと分かってしまい、口には出来ない。


ー いや、でも今のうちに言っていた方が衝撃が少ないか?


そう考えて、テミスは一瞬口籠る。


「………やはり、お前も分かっていたか」


だが、その時マイヤールがそう何か思い詰めた表情でそう告げた。


「えっ?」


その思い詰めたような表情にテミスは思わず動揺を漏らす。


ー もしかして僕の反応から気づいた?


そんな考えがテミスの頭に浮かぶ。

本当にそうなのか、マイヤールの表情からテミスには判断することは出来ない。

だが、その目はその目は真剣そのもので、テミスは何かがあるのだと悟る。


「実は、こんな時に言うのも何だと思ったんだが……」、


そしてそのテミスの様子に、マイヤールは何か感情を押し殺したような声でそう告げる。


「ラミスは俺たちに話し合いの場を残すためにここから去ったよな」


「え、ええ……」


ー ラミスが出てくると言うことは、まさか本当に……


「………それだけなら、帰ってくるの遅すぎないか?多分彼奴晩飯抜き無視して外食行ってるぞ……」


「ラミス!」


そして次の瞬間、目の前のマイヤールには絶対にぶつけられない怒りを押し殺し、テミスは部屋を飛び出して行った……

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