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元令嬢、忘れる

「早く来いと言っただろう!」


不機嫌そうな声で告げられたその声にラミスは一瞬誰のことを言っているのだろうかと首をひねる。

そして近づいていくる少年を避けようと身体を動かす。


「えっ?」


だが次の瞬間少年の手はラミスの手へと向かって伸ばされていた。

一瞬、ラミスはその手を反射的に避けてしまいそうになり、しかし最終的に周囲の様子に気づきその動きを止めた。


「っ!畜生!バルドの次はあいつかよ!」


「何でだよ!俺が手取り足取り色んなことを教えてやろうと思っていたのに」


途端に騒ぎ出す他の冒険者の姿にラミスは自分の判断が正しかったことを悟る。

つまり、少年はラミスを助けようとしてくれたのだ。

ラミスから見れば正直少年はバルドと同じくかなり実力差の空いた相手だ。

だからあまり気にしてはいなかったが、バルドはここでは上位の実力者だった人間だ。

そしてそんな人間と同じ実力を持つ人間にあそこにいた冒険者が歯向かうとは思えない。

そのことをわかって少年は冒険者に狙われかけていたラミスを助けてくれたのだ。


ー そう言えば宿屋に来た時も私たちのことを気遣ってくれていたのかしら。


そして少年の意外な優しさに気づいたラミスの頭にそんな考えが浮かぶ。

そしてその瞬間ラミスは身体から力が抜け、少年に手を引かれるまま歩き出した。

少年は全身に鎧を着ているせいで、声や動きから年は若い男性だと分かっただけでそれ以外どんな容姿をしているのかもラミスは知らない。

そのせいでラミスは目の前の少年を少し警戒していたのだが、不器用な思いやりにこの少年に悪意はないと悟り、それまでの警戒を解く。


「うふふっ」


そしてそれどころか、不器用ながらもラミスを気遣った行動にラミスは少年に好意を感じてそう笑う。


「……いつまで笑っている」


だが、人気のない場所まで来てようやく足を止めた少年はラミスの顔を見て心底下らないものを見たというような声を出した。

それは隠す気の無いラミスへの侮蔑が込められた声だった。


「ぼんぼん貴族様が、こんな所に来て英雄にでもなれると思ったか?」


そして次も本当に助けてくれたのか、それが疑問に思うようなそんな殺意まじりの声。

目の前の少年は本当に怒っていた。


だがその怒りの感情にラミスが感じたのは戸惑いだった。


唯一見える目に宿るその怒りの感情。

それは仮にも助け出した人間に向けるにはあまりにも苛烈な炎だった。


確かに未だラミスの姿は最初から変わらないまるで貴族のボンボンが着ているような鎧で、傷一つもない。

その上、その雰囲気からして貴族、という雰囲気が溢れ出ている。

そんな相手が身の程知らずにも冒険者になったとしてら普通に苛立ちを感じるだろう。


「お前みたいな甘ちゃんが来るところでは無いんだよ」


だが、それだけで説明できるとラミスが思えるほど少年が向けて来る感情は単純なものではなかった。

もっとどろどろとした、怒りのような、そして後悔のような感情が込められた視線。


「じゃ、もう俺はお前に関わることはないから」


だが、その少年の視線の理由についてラミスが悟る前にそう少年は吐き捨て、冒険者ギルドの方へと歩き去っていった。

ラミスは一瞬、少年を呼び戻そうかと思うが、そうしても戻って来ることは無いだろうと悟り口を閉じた。


「本当に、なんですの?」


少年の視線、それは正直ラミスがあまり好きな類では無いものだった。

それは決して少年の態度が悪かったそんな理由では無い。

確かにそれは悪かったには悪かったが、だがそれの殆どの理由はラミスが原因だ。

だとしたら善意で助けてくれたあの少年には感謝こそすれ、恨むのは筋違いというものだろう。

だがそれでもラミスには許せないことがあった。


それは少年が自分を見ながら、まるで別の人間を見ていたようなそんな少年の視線。


「………私に向かってそんなことをするとは」


ラミスは親しい人間にされれば間違いなく手を出している、一番自分の大嫌いなそんな行為を行った少年に一つ溜息を漏らして、それで一応頭の中から少年のその行動を締め出し、敢えて忘れる。


「……せめて恩返しの分くらいはあの子にもお礼をしなければ」


そしてラミスはそう呟いた。

確かに態度に関しては文句を言いたい位の相手だが、それでも自分がたすけられたのはたしかだ。

そしてそれならばマートライト家の者として恩返しをしなければならない。


「本当に仕方がなく、ですわ」


そう仕方無さそうにラミスは告げる。

だが、その場にテミスがいたら悟っていただろう。

主人はただ恩返しを理由にしているだけだと。

本当はただ1人の少年を見捨てられないそれがラミスという人間であるのだから。

そしてそう次の行動を決めたラミスはまずどう動くか、そう考えて……


「取り敢えずは素材を換金するためにギルドに行きますか」


そしてそう、呟いて歩き出した。

その時のラミスは知ることはなかった。


「お前まじで巫山戯てんのか!」


ギルドに行き、さらに増えた冒険者に、囲まれて再度少年に怒鳴られることになるという未来を……

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