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元令嬢、冒険者にモテる

ラミスがエミリに頼み込んだことの一つに冒険者としての活動の許可というものが存在する。

この辺境の街には隣に森が広がっている。

そしてそこには一体一体では大した力を持たないものの、集団で群れを作る魔獣の縄張りが存在する。

ゴブリン、魔狼、オーク。

それらの魔獣は命がないとされる魔獣の中で知能を有する厄介な存在として認識される。

街に近づいてきたそれらを撃退し、高濃度の魔力によって生成される魔獣の身体から素材を得てギルドに売り払うのがこの辺境での主な冒険者の仕事となる。


そしてラミスがエミリに求めた冒険者の仕事の許可とは、森の中に入る許可を得ることだった。


辺境が接する森は決して迷宮都市にある迷宮ほど危険な場所ではない。

確かにゴブリンなどの知能を持つ魔獣は危険だが、それでも森の中は迷宮のように魔力に満ち溢れているわけではなく、魔獣の危険度は大きく下がる。

そして森の深部も人間達が侵略した所で何もないと判断されているから態々魔獣達を滅ぼしていないだけで、完璧にこの辺境の森は管理されている。

というのも、冒険者用に何処がどんな魔獣の縄張りで、何処に魔獣が来やすいかその全てをもう既に完璧に調べられているのだ。

そしてだからこそ、この辺境はこう呼ばれている。


初心者冒険者の街、と。


だがそれでもいつの間にか知らない間に縄張りが出来ていたなんてことも稀にある上に素人では最低ランクの魔獣であっても相手取るのは難しい。

だが、魔力という神秘の力を持つ魔獣を倒すことで得られる金額はかなり多く、冒険者だけでなく素人でも金に目が眩んで森の中に入ろうとする者がいる。

そしてそんな人間を森の中に入れないように常にギルドは森との境に壁を作り冒険者カードを持つ人間しか通れないようにしている。


つまりラミスは、未だ冒険者になっていないがそれでもこの森に入ることを望んだのだ。


その理由は資金的な問題。

確かに今はまだラミスはかなりの資金を持っている。

家から持って来ていた金額はこの僅かな日数ではあまり減っていない。

そして普通に暮らすだとか、この国の迷宮都市に行くだとか程度であればその資金で十分足りたはずだった。

だが現在ラミス達は王国で指名手配中でラミス達の目標は国外に亡命することだ。

そしてその場合、あまりにも今の資金では心もとない。

よく知っている国内ならともかく、他国となるとどうやって働けばいいか、ラミスはあまり事情を知らない。

もしもS級冒険者として認められなかった場合も考えられる今、少しでも多くの資金が必要だとラミスはエミリに頼み込んだのだ。

そしてその結果ラミスは支部長が推薦状を見る間、本来なら浜冒険者として活躍することは不可能だったのだが、エミリ直筆の仮の冒険者の認定状がラミスに渡されることとなった。

その結果ラミスは冒険者として活躍出来ることが認められたのだ!

そして今まで憧れていた冒険者としての認定状にラミスは心を躍らせていたが………


「うん……エミリに根回しでも頼んでおくべきでしたかしら……」


だが、冒険者ギルドに足を踏み入れて直ぐにラミスは後悔することとなった。


「おい!彼奴バルドの野郎に連れていかれた訳じゃなかったらしいぜ!」


「ゲヘヘ。それならもう彼奴がいない今、俺たちが手を出したって誰にも咎められることは……」


その理由はギルドの中に入った途端に突き刺さった冒険者達の視線。


「はぁ……」


ラミスの心底疲れたような溜息がその場に響いた……





◇◆◇





「さて、どうしましょう?」


ギルド中の視線を集める中、そう小さくラミスは小さく呟く。

現在ラミスは森からゴブリンなどの魔獣を倒して換金しにギルドに寄った所で現在テミスは宿屋で夕食を作り中だ。

そのせいで美女1人だけのラミスの姿は酷く目立っている。

しかも注がれる視線の全てにはご丁寧にも下心がありありと感じられ、さらにラミスは顔を顰める。

今まで物語で英雄として語り継がれて来た冒険者の姿が、がらがらと崩れて行くそんな幻聴がして再度ラミスはため息をつく。

ラミスの実力を知る者から見れば顔を青くしかねない冒険者の視線、その主のラミスがか弱い貴族崩れだという勘違いを正すのは今のラミスにとって酷く容易いことだ。

実際ここにいる冒険者が束になってかかろうが、テミスにさえぼろ負けするだろう。

それがバルドにも勝てない冒険者の実力で、だが今のラミスにはこの冒険者に実力行使をするという手段は使うことができなかった。

その理由は簡単、辺境でラミスが力を振るえばあっさりと彼女の居場所が王国にバレるのだ。

確かに辺境は決して迷宮都市と比べれば雲泥の差で冷遇されている。


だがそれでも、他の都市と比べれば明らかに優遇されている。


当たり前だろう。

今この世界を動かしている魔道具、その素材は魔獣の核である魔石なのだから。

魔石とはどんな魔獣でも備えている器官で、そしてそこには生前の魔力が宿る。

そこは魔獣の急所とされ、決して脆くはないが崩すことが出来れば魔物を即死させることができる。

よって冒険者は最初魔石を壊せるだけの斬撃を放てるようになることを訓練するほど。

とにかくそういうことで、魔石の生産地である辺境は実はかなり栄えている。

そして王国は常に辺境の動向を気にかけていて、そんな場所で突然女の凄腕冒険者が現れたなどの噂が立てば即、お終いだ。

決して逃げられないとは言わないが、確実に面倒なことになる。

正直その可能性を考慮してラミスは兄を国に残して来たのだが、噂の広まり具合からあの兄がほとんど何の役にも立っていないことをラミスは悟る。


「はぁ……お兄様は相変わらず……」


ラミスの口から思わず、残念な兄への愚痴が漏れる。

だが今最も切羽詰まっているのは目の前の冒険者の対処であることを思い出し、ラミスは顔を上げる。


「げへへ」


そこにいる冒険者はラミスに声をかけようと牽制しあっていて、面倒ごとの香りに思わずラミスは言葉を失う。


そしてその時だった。


「おいお前、まだいたのか」


牽制している冒険者を物ともせずにそう声をかけて来た人間、それにラミスが顔を上げると、そこに居たのはあの宿屋に来た全身を鎧に包んだ少年だった……

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