元令嬢、受付嬢にバレる
「よく眠れましたかしら?」
ラミスに抱きついたまま、いつの間にか眠りに落ちていた受付嬢は目覚めた後、最初何が起きたのか分からないそんな表情でラミスの顔を眺めていた。
そしてその寝起きでぼんやりとした表情の少女の姿にラミスはまるで新しく妹が出来たかのような気持ちになり、微笑みかける。
そしてラミスは子供の頃、両親が自分にしてくれていたように受付嬢の少女の額に口づけをしようとする。
「みゃあ!」
だがその瞬間受付嬢はマ顔を真っ赤にしてラミスの腕の中から飛び出した。
「あぁ!私は何てことを……じゃない!本当にすみませんでした!」
「……いいえ。良いんですよ」
ラミスは受付嬢の少女が飛び出し空っぽになった腕の感覚にもっと可愛がりたかったと若干しょんぼりする。
確かにテミスは本当に妹みたいに可愛くて、でもそれでもテミスはこんな風に馴れ馴れしくスキンシップを測ったら逃げてしまう。
そのせいでラミスは姉妹のスキンシップに憧れていて、そして実は受付嬢を抱きしめながらようやく叶ったと内心喜んでいたので、もう一回抱き締められないかなとラミスは密かに考える。
「本当にすみません!私なんか鎧ぐちゃぐちゃにしちゃって……ずっと抱き締められていて……」
だがラミスは抱き締められていて、と告げた時、受付嬢の言葉のトーンが下がったことに気づきしょんぼりと顔を下げる。
「……ごめんなさいね。そうよね。普通は抱き締められるのなんて嫌でしたわよね……」
「えっ?あれ?」
そして今度はしょんぼりしたラミスの様子に受付嬢の少女が焦り出す。
「違うんです!そういうことじゃなくて!ラミスさんは綺麗で抱き締められていても私嫌じゃありませんでした!それどころか、もっと抱き締められていたかったぐらい、で………っ!」
受付嬢の少女は必死にラミスをフォローしようと言葉を重ね、そして自分の失言に気づく。
「はわわっ!違うんです!」
その瞬間、急激に受付嬢の少女の顔が染まり彼女は何事か奇声を放ちながら壁際へと走り寄って蹲る。
「さっき言ったことは間違いだったというか……で、でもラミスさんが綺麗だったことは間違いじゃないですよ!本当に綺麗で、私好きだな……なっ!わ、私のばかぁ!」
そしてさらに自滅した受付嬢がまともに話せるようになるまで、約十数分の時間がかかることとなった。
◇◆◇
「………申し訳ありませんでした」
受付嬢の顔の赤みは未だひかず、目も潤んでいる。そしてその顔には先程まで涙目になっていたことがありありと示されている。
というか、今も涙目だ。
だがそんな状態で受付嬢は強引に話をはじめ始めた。
そしてその強引さにラミスは受付嬢が先程までのことを無かったことにしようとしているのだと悟る。
恐らく酷く恥ずかしかったのだろう。
確かに子供だと言ってもそれでも彼女はもう充分思春期の年頃だろう。
そしてそんな子にとって泣いたなど絶対に他の人間には知られたくない醜態だろう。
ラミスはそうかんがえ、そして受付嬢がもうこの話を蒸し返して欲しくないのだろうと悟る。
「あら、まだ目が赤いですわよ」
「っ!」
だが敢えてラミスはそう受付嬢に笑顔をで告げる。
その瞬間今まで必死に平静を保っていた受付嬢の顔が崩れる。
今まで少し顔が赤かった位なのが、どんどん赤みを増していく。
「ら、ラミスさん!」
そして受付嬢は涙目で咎めるようにラミスに上目遣いで睨む。
少し顔を俯かせているのはやはり恥ずかしくてラミスの顔を見れないのだろう。
ー 何ですのこの子!可愛いすぎますわ!
そしてラミスはその受付嬢の態度に思わず口元を緩ませる。
その全く反省していないラミスの態度に少しの間受付嬢は上目遣いで睨んでいたが、
「……次は無いですからね!」
恥ずかしくなったのかそう少しぶっきらぼうに告げて顔を背ける。
その態度にラミスは再度受付嬢をからかいたい衝動に襲われる。
「本当にありがとうございました」
そう、真剣な表情で告げた受付嬢の姿に今はもう巫山戯ている時でないことを悟りその衝動を押し殺す。
「気にすることなんてありませんわよ。私が勝手にやったことですから」
その言葉は偽りないラミスの本心だった。
決して感謝が欲しいから受付嬢を助けたわけでも、ましてや正義のためなどそんな理由で受付嬢をラミスは助けたわけではない。
ただ、全て自分の自己満足でしただけで他には何の意味もないのだ。
「それでも気が済まなければ、貴女自身が今まで必死に生きてきたということを誇りなさい。
私が貴女を助けようと、そう思わされた自分自身の強さに」
「えっ、」
そしてその言葉にラミスの思いが届いたのか受付嬢の顔に驚愕の感情が浮かび、そして彼女は照れたように笑った。
「いえ。私は未だラミスさんに預けて貰った手紙さえも未だ支部長に届けられてもいません」
だが、受付嬢はラミスの言葉に対して思いつめたような表情でそう告げる。
ラミスは一瞬、受付嬢に気にしないでと告げようとして、だが受付嬢の表情を見てラミスは何もいうことなく口を閉じた。
「だから、今度は受付嬢としてラミスさんに本当に誠心誠意尽くさせて頂きます!」
そう告げた受付嬢の顔には決意を決めたような表情が浮かんでいた。
その顔にラミスはその決意は決して少女に悪影響を及ぼすことはないだろうと笑いを浮かべる。
その目には受付嬢に対する慈愛の感情が浮かんでいて、受付嬢はその視線に居心地が悪そうに身じろぎする。
「そ、そうだこれ本物かどうか確かめてもらわないと!」
そして誤魔化すように受付嬢は封筒を取り出し、
「あっ、」
だが彼女は焦りすぎたせいか手を滑らせて手紙を取落す。
落ちた封筒は地面に落ちて、中身の手紙が露出する。
「すいません!」
受付嬢はいきなりの失態に恥ずかしそうに顔を染め、手紙を急いで拾う。
そして封筒の中に、手紙を戻そうとする。
「えっ?」
だが次の瞬間その手紙の内容が見えたのか、動きを止める。
ーーー S級冒険者と同じ実力をラミスが持つと示すその文面を見て。
「えぇぇぇええ!?」
そして受付嬢の悲鳴がその場に上がった……




