元令嬢、受付嬢をあやす
「……ありえ無い」
呆然と目を2、3度瞬いて受付嬢が漏らした言葉。
それはラミスの言葉を信じられない、そんなニュアンスよりも自分を戒めるような響きがこもった声だった。
その声には必死に自分の望むことを守ろうとするような、そんな響きを持っていることにラミスは気づく。
まるで何か、自分の中で決して揺るが無い、いや、揺るがせたくない何かを守ろうとしているようなそんな響き。
「家族を必死に守ろうとしていた貴女は立派でしってよ」
「なっ!」
だが、そんな受付嬢の意図を無視してラミスは優しく彼女の耳に囁いた。
そう囁かれた受付嬢の少女の目に涙が浮かぶ。
当たり前だろう。
家族を人質に取られ、そして1人の女性をはめることを手伝わされるという不幸。
そんなもの、幾ら受付嬢にこの歳でなれるほどの知識を持っていても心細くないはずがない。
そしてその極度の緊張から、ラミスに抱きしめられたことでようやく解放された受付嬢の身体からラミスを押し退けようとする力が弱まってくる。
「でも私は皆を、ラースとユラムを守れなかった!それにラミスさんを裏切った!」
だがそれでも受付嬢は決してラミスを跳ね除けようとする力を止めることはなかった。
涙を浮かべ、今はひどい疲労を感じてもう意識を手放してしまいたい程だろうに、それでも少女は力を入れることをやめ無い。
まるで自分が甘やかされる資格が無いというように必死にラミスの腕の中から逃げ出そうとする。
「はな、して!」
そしてその受付嬢の様子を見て、ラミスは悟る。
受付嬢、彼女にとって家族とはそれだけ大切なものだったのだろうということを。
受付嬢になる、この歳でそれがどれほど厳しいことかラミスでも想像できない。
冒険者には舐められ、そして疎まれ、さらにその年齢では受付嬢の仕事はただでさえきつかったはずなのだ。
しかしそれでも目の前の少女は家族を養うために受付嬢として働かざるをえなかった。
ーーー そしてその時に少女は自分は姉である、その意識で必死に頑張ってきたのだろう。
今過度なほど感じる受付嬢の家族への愛情。
それは全て彼女がそれまで必死に家族のことを思い、そのことで必死に辛い現状からこころの支えていたのだろう。
だからこそ、家族を危機に晒した今少女は素直に甘えることが出来なくなっていた。
「私は、お姉ちゃんだから……」
そのことをラミスは少女の告げた言葉で悟る。
必死に頑張って、そしてそれでも現状はどうしようもなくて。
だけど少女は幾ら自分が傷ついてもそれでも家族を守るために立ち上がろうとする。
「本当に……」
そしてその姿にラミスは笑みを浮かべた。
少女に対しての隠しきれない慈愛の込められた笑みを浮かべ、そして告げる。
「貴女は本当に馬鹿ですわ」
◇◆◇
ー 私の馬鹿!よりによって何で馬鹿って言ったんですか!
ラミスは自分の言葉に呆然としている少女の姿を見ながら、そう内心で盛大に自分のことを罵っていた。
受付嬢に誤解されてしまったかもしれない、そんな恐怖にラミスは内心がたがた震えながら受付嬢の少女を見て、
「あ、あれ?」
「っ!」
涙を流す少女の姿に、彼女はもう既に限界を迎えていたことを悟る。
「なっ!」
そして次の瞬間緩めていた腕に力を入れて、全力で少女を抱きしめた。
「本当にここには貴女の家族は、弟と妹はいないですわよ」
ー ちゃんと涙は堪えられていますよね。
「そんな時まで必死に気を張っている必要はありませんわ」
ー 力を入れすぎていませんわよね。
内心と口にし出している言葉はばらばらで、そのことにラミスは酷く情けなさを感じる。
だがそれでも決して少女を抱きしめる腕だけは緩めるつもりなかった。
目の前の少女は本当に、ラミスの想像以上に必死に頑張っていて、だからこそラミスは少女をそのまま放って置くことができなかった。
まるで家族が、姉が妹を抱きしめるように少女を強く抱きしめながらもそれでも自分は姉として彼女の足元にも及ばない、そのことを知っている。
「こんな時ぐらいは、素直に甘えなさい!」
だけど、それでもラミスは今だけでも少女の姉で望んだ。
少女がどうやれば落ち着くなんてわからず、ただ抱きしめる腕に力を入れることしかできない。
けれども少しでも落ち着けるようにラミスは少女の耳へとそっと優しく呟いた。
「頑張りましたね」
「っ!」
ーーー その瞬間だった。
今まで戸惑いの方が強かった少女の顔が、突然崩れ始めたのは。
必死に今まで少女が気付き上げてきたこころの鎧が、ラミスの言葉によって崩れそして目から大粒の涙が溢れ出す。
だがそれでも少女は必死にその涙を抑えようとする。
「もう、意地を張らなくて良いですわよ」
「っぁ、」
しかし、ラミスの言葉に少女は抵抗をやめた。
そして次の瞬間席を切ったように少女はの大きな目から涙が溢れ出した。
大粒の涙が、合わさり顔がどんどんぐちゃぐちゃになって行く。
だがラミスは自分の鎧が汚れることを全く気にせず、愛おしそうに少女を自身の豊かな胸に抱えた。
「怖がった、ですっ!」
その瞬間少女は決壊した。
涙声で、ラミスの胸に顔を押し付けているせいで声はくぐもって何を言っているのか話している本人しかわからない声。
「もう、大丈夫ですわ」
だが、ラミスは少女の言葉を聞き返すことはなかった。
静かにその少女の言葉に頷き、相槌を打ちそして慈愛に満ちた表情で少女の背中をさする。
その光景は、泣き疲れた少女が眠りに落ちるその時まで続いた……




