元令嬢、悪党の心を折る
本日から、9時投稿に変更させて頂きます!
「殺してやる!」
「ひぃっ!」
そう狂気に満ちた顔で受付嬢に向かって怒鳴るバルドの頭には自業自得という言葉は無かった。
バルドの目論見が破れたのはそもそもそんなことを考えたバルドに非があり、受付嬢の少女はただ日の被害者でしかない。
そして最終的に受付嬢の存在により、バルドの思い通りに行かなかったのはただお粗末としか言いようがないバルドの失態でしかない。
ー 巫山戯るな!お前の所為で!
だがそんなことは今のバルドには一切関係がなかった。
今受付嬢にバルドが責任を追及するのは逆恨み、そう表現するのも烏滸がましいただ見苦しいだけの八つ当たり。
しかし今のバルドの中では受付嬢は加害者で、自分の言葉は受付嬢に対する正当な復讐に変換されていた。
「貴様ぁ!」
そしてそのバルドのあまりにも自分本位なバルドに、テミスは怒りの表情を浮かべながら武器に手をかける。
「っ!」
だが、テミスがその武器を抜き放つことは無かった。
否、放つことは出来なかった。
今、ラミス達は騒ぎを起こすことはできない。
王国で罪人にされている限り、王国に今の自分たちの場所を見つけられるのはラミス達にとって最も避けたいことなのだ。
そしてそのため幾ら今バルドを殺しても正当防衛が認められて罪にはならなくてもが、それでもバルドを殺すことはできない。
人を殺せばそれだけである程度の騒ぎは起こる。
しかもバルドは仮にもこの辺境のギルドで一番腕が立つ人間だ。
嫌が応にもその男を殺したラミスの噂は大きくならざるを得ない。
そしてそんな危険を冒すことがテミスに出来るわけなく、彼は射殺さんばかりの目つきでバルドを睨みつけながらも、それでも何もすることができない。
「あははっ!」
バルドが受付嬢に仕返しをする、そう告げたのは実力差からラミス達に危害を加えることはが出来ないと知っていただけだった。
だが受付嬢に危害を加える、そのことが間接的にラミス達への復讐にも繋がることを、バルドは理解する。
ラミスがこの場所を早く去ろうとしていること、そして騒がれるのを嫌っていることをバルドは素早く見抜いていた。
そしてそんな状況で彼らが取れるのはバルドを投獄するというただの時間稼ぎだけなのだ。
「あははっ!全てお前らの所為だからなぁ!」
ーーー いつかバルドが任期を終えて、受付嬢に復讐するのを長引かせる程度の意味しかない。
「くっ!」
そして相手が何も出来ない、そう悟ったバルドは声をあげてラミス達を罵る。
そのバルドの態度にテミスは悔しそうに唇を噛み締め、そして受付嬢の少女は恐怖に顔を歪める。
だが、1人ラミスだけは取り乱すことは無かった。
ただ、顔に穏やかな笑みを貼り付けていた。
この場には明らかに沿わない笑みを。
「あら、そんなことできると思っていますの?」
「っ!」
そしてラミスの底冷えした声に、その場の空気は変わった……
◇◆◇
「っ!」
ラミスの一声、それだけでバルドは今までの優越感が消え去って行くのを悟る。
高揚感が消え去り、恐怖だけが頭の中を支配する。
ー 彼奴は俺を殺せない。
ーどうせもう何も出来ない。
「く、来るなっ!」
冷静な部分がそう告げるが、ラミスが一歩前に進んだだけでその冷静な部分は消え去る。
元々緩んでいた下の履物がバルドがずるずると後ろに下がる所為で全て剥がれ、そしてバルドの下半身が露わとなる。
「っ!」
受付嬢がそれを見て、汚いものを見てしまったというように、顔を盛大に顰めてそっぽを向き、テミスもそれに習う。
「えっ?」
だが、ラミスだけは目をそらすことは無かった。
それは酷く珍妙な光景で、バルドは思わず落ち着きを取り戻す。
そして未だ自分の下半身を見る、ラミスの姿にある推測を思い浮かべる。
つまり、ラミスは自分の身体を差し出すことで受付嬢への復讐を諦めて貰おうと思っているのではないかという。
「へへっ!」
その瞬間、バルドの口元に下卑た笑みが浮かぶ。
だが、次の瞬間その考えがただの勘違いであったことをバルドは悟ることとなる。
「はっ!」
「っ!」
ーーー バルドの下半身を見ていたラミスは鼻で笑ったその瞬間に。
「くそ!このあ……」
数秒の間を要し、馬鹿にされたことにバルドは気づく。
そしてそのラミスの態度にバルドは激昂する。
「あらあら、やたら下半身が元気なことを主張して来るのでどれ程のものかと思えば、
ーーー まだ、子供でしたか」
「っ!?」
だが、その言葉を最後まで言うことはなかった。
ラミスはバルドの言葉を遮りそう嘲笑らっみせる。
その視線の先には恐怖のせいで縮こまったバルドの半身があった。
そしてバルドは何とか下の履物を履き直すが、小さい、その言葉にバルドは精神的に大きく傷つけられていた。
ー 絶対に此奴に復讐してやる!
そして再度受付嬢に復讐する決意を固めながら、バルドは立ち上がって、
「えっ?おい!」
次の瞬間、受付嬢をこの場から追い出したテミスにその身体を取り押さえられて戸惑う。
「っ!」
だが、目の前に自分の下半身を見ていた時と同じ嘲るような視線に嫌な予感がして、バルドは助けるようにテミスの方を見る。
すると、そこにはあれだけ自分を嫌っていたはずなのに、こちらに同情の視線をよこすテミスの姿があって、バルドは絶句する。
「さぁ、では貴方の下半身がどれだけお粗末か、教えて差し上げましょう」
「い、嫌だ!」
そして目の前のラミスの言葉にこのままでは精神的に男として、いや、人間として再起不能になりそうな予感がして、バルドは暴れる。
だがそんな動きでテミスの拘束が緩むはずもなく………
「あぁぁぁぁあ!」
………十分後、其処からはその後数十分に渡り悲痛で聞くに耐えない悲鳴が響いていたと言う。
其処にはまるで今までの自分を全否定されるかのような悲しみが籠っていたとか……
……正直詳細は言えませんが、男としての自信そのものを粉々に砕かれた感じのイメージです。
憐れな……




