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元令嬢、嘲笑う

「あら、私が貴方のしようとしていることも分からないと思っていましたの?」


「っ!」


今更ながらに事態の深刻さに気づくバルドをラミスはそう嘲笑う。

その目には隠しきれない怒りが浮かんでいた。


「待ってくれ!お前らは勘違いしている!」


そしてその絶体絶命の状況の中、バルドが選んだのはラミスを騙すことだった。


「俺は決して何も疚しいことなんてしていない!」


バルドはそうラミスに訴えながら、放心状態でテミスに家族は無事だと説明されている受付嬢の姿を示す。


「俺は彼奴に助けを求められただけだよ!」


「では、偽りのギルドの規則を盾に私の身体を狙ったのに理由はあるのですか?」


「っ!」


だが、ラミスの顔からバルドに対して向けられる視線の中から冷たさが無くなることはなく、ラミスにあっさりと嘘を見抜かれたバルドの顔に驚愕が走る。


ー こいつ、何で冒険者でも無いのにこんなにギルドについて詳しいんだよ!


そしてバルドの胸に改めてラミスに対する恐怖が生まれる。

ラミスの今の姿が、迷宮都市で見たギルド職員と素材に関して交渉していたB級冒険者の姿と重なる。


「あぁ、それに関してはその通りだ」


だがあの時に感じた、底知れなさそれをラミスに感じたバルドは迷う事なくその罪を認めた。


「それで俺は助けてやるためにお前らをはめることをそいつに約束させた……けれども本当に子供を人質に取ったりなんてしていない!」


ーーー 全てはラミスを激怒させた罪を否定するために。


バルドは確かに抜きん出た特徴のある冒険者では無い。

だが彼は、いざという時にどうやって責任を和らげるか、その為の話術に関しては抜きん出た能力を持っていた。


「この頃耳にしたことがあるんだが、この国の将軍職だった凶悪な女が、国王に罪を問われて逃げ出したという話を聞いたことがある!そいつが関わっていたのかも知れない!」


そしてバルドはその話術を盛大に使い、言葉を重ねて行く。


「貴様、自分が何を言ったのか分かっているのか?」


「ひぃ!」


だが、その彼の話術は何故かラミス達に逆効果に働き、バルドは絶句する。

暗殺者を全ては気絶さえここまで運んできた少女、彼女もやはりラミスと同じような実力を持っていたと分かっていた。

けれども想像を超える殺気を向けられ彼は思わず悲鳴を漏らす。


「テミス、やめなさい」


そしてその男の様子を見てラミスは思わずため息を漏らした。

確かに話の正当性を持たせるためには具体的な例を出すのがいい方法だろう。

だが、それでも今テミスの冷静さを失わせて何の意味があるのか。

このままでは必死に怒りを抑えていたテミスが爆発してバルドを殺しかねない。

そんなことは今は目立ちたく無いラミスも嫌だが、男の方はもっと困るだろうに。

バルドの愚かさにラミスは呆れ、一瞬このままテミスの好きにさせようかと思うが、そんなことができるわけがなくやる気のない声でテミスを制止する。


「ですが!」


しかし、今度ばかりは流石のテミスも激怒していた。

だが、テミスの態度に困りながらも、それでもその態度が仕方がないそう思ってしまうそれだけの怒りがラミスの中にも存在していて、もう一度ラミスは溜息をつく。


ーーー 何故なら、あの時国を出て行かないでくれと土下座した国王、彼はラミス達が出て行ったことを自業自得と知りながら、あっさりとラミス達を国賊認定したのだから。




◇◆◇




ラミス達に責任を押し付ける、それは国を守る上では仕方がないことなのだろう。


「くそ!何が国王だ!」


だが、それでも許せるかと聞かれればそれはまた別の話だった。

そもそも全ては王国の自業自得なのだ。

なのに責任までも押し付けられ、今後の行動を制限される、そこまでされて怒りを抱かない方がおかしい。


「テミス、子供達が怯えていますよ」


「っ!」


けれども、それでも今やらなければならないのは王族に報いを受けさせることではない。

子供を人質に取り、そして自分の欲望を発散させようとした目の前の男に報いを受けさせなければならないのだ。


「………ごめん」


「えっ?いえいえ!すいません。こちらこそ変な所で怖がっちゃって……」


そして怯える受付嬢の姿を見て、冷静さを取り戻したテミスの姿を見てラミスは胸中で暴れまわっていた憤怒を抑え込む。

テミスはあれだけ素直じゃないくせに、年下の子供には優しいのだ。

そしてそのテミスの謝罪に困ったような表情を浮かべる受付嬢と並べば、2人姉妹みたいでその微笑ましさにラミスの心に少し余裕が出来る。


ー あぁ、良かった。これであの男を簡単に殺して仕舞わないで済む。


そしてラミスはそう考えて笑みを浮かべる。

死ぬこと、それは目の前の男のには当然の報いかもしれない。

けれども、男は受付嬢やその家族を殺しても構わないと思っていただろう。


そしてそんな屑には一瞬で苦しみの終わる死など生易しいことで決着を迎えてしまうのは溜飲が下がらない。


「ま、待ってくれ!」


ラミスの笑みを見た、男は何かを悟ったのか恐怖を顔に貼りつけたまま、媚びたような笑みを浮かべる。


「な、なぁ、俺は全部事情は教えてやっただろ……だからさ、謝るからこの通りもう解放してくれたって……」


男の媚びた笑みにラミスは嫌悪感を感じ、そしてそれから未だラミス達を騙せていると勘違いして、安堵の表情を浮かべる男の愚かさにさらなる苛立ちをラミスは覚える。


「ねぇ、それはあの子に本当か聞いても良いのかしら?」


「っ!」


そして次の受付嬢を指で刺したラミスの言葉に男の表情が変わった。

戸惑いの表情を浮かべている受付嬢、彼女の状態を見て、自分の話を聞け無いだろうというそんな勝算があったからこそ男は堂々とラミス達に嘘をつくことが出来たのだろう。

だが、その男の目論見はあっさりとラミスに暴かれる。


「口程にもありませんわね」


その男の様子にラミスは嘲笑を浮かべ、そしてラミスの表情に自分への危機が去ったと理解した受付嬢の顔に笑みが浮かぶ。


「………やる」


だが、次の瞬間男がぼそりと何かを呟いた。

それは小さく、聞き取りにくい声でその場にいたものの殆どはそれは許しを乞う言葉だと勘違いする。


「お前を殺してやる!」


「っ!」


だが次の瞬間、その認識が間違いであったことを悟る。


「どれだけ掛かってもお前と、お前の家族をこの手で殺してやる!」


そしてその周りの視線を無視し、男は狂気と憎悪に満ちた視線で、受付嬢の少女へとそう叫んだ……

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