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元令嬢、思案する

「はっ!」


ラミスの啖呵に男の顔に浮かんだのはラミスを馬鹿にするかのような嘲笑いだった。


「っ!」


そしてそのそばにいる受付嬢の女の子の浮かべている驚愕の表情も、男とは正反対ではあったが同じようにラミスの勝利をあり得ないものとして認識していた。


「本当にこの程度のレベルですか……」


だが、その2人の態度を見てラミスの顔に浮かんだのは男に対する嘲りの表情だった。


「っ!」


男もまさかラミスに嘲り返されるとは思っていなかったらしく、言葉を失う。


「御託は良いので早くかかって来なさい。返り討ちにしてあげましょう」


「くっ!」


しかしラミスはその男の反応など一切気にすることなくさらに言葉を重ね、幾ら相手が絶世の美女だといえ、馬鹿にされた男の顔に隠しきれない怒りが宿る。


「へぇ、俺をこのギルド一番の稼ぎ頭、バルドだと知った上での暴言か?」


だがそれでも男の顔から余裕が消えることはなかった。

ラミスの暴言をあくまで負ける前に粋がっているだけだと思い込み、ニヤニヤとした笑いを顔に貼り付けながらそう告げる。


「っ!」


ラミスはその言葉を聞いた途端に顔を驚愕に染める。

そしてそのラミスの姿にバルドの目に嗜虐的な光が浮かぶ。


「ようやく自分が誰を相手にしていたか分かったかい?何ならハンデとして俺は素手で……えっ?」


「弱すぎですわ……」


だが、ラミスに得意げに話始めたバルドの言葉はラミスに腰に下げた剣を両断され、止まる。

何が起こったのか分からない、そんな表情でバルドは真っ二つになった剣とラミスを交互に見つめる。


「貴方程度が、このギルドで一番の実力者ですって……」


だがそんなバルドの様子にラミスが気づくことはなかった。

ラミスはただただ信じられないことを聞いたとでもいうように訝しげな視線でバルドを見つめる。


「何で貴方程度が……仮にも辺境、迷宮の魔獣には劣るとはいえ、かなりの魔獣の存在するこの場所の一番の実力者がこの男?」


そしていつ迄経ってもぶつぶつと自分への悪口をを漏らしながら、自分の方には一切気を払わないラミスの姿にバルドの思考はどんどん麻痺して行く。



「何でこの、如何にも迷宮都市のギルドに行こうとして挫折し、辺境でいばりちらしている明らかな小物が……ねぇ、少し話を聞かせてもらえないかしら。えっと……バカダーさんでしたかしら?」



「っ!このクソアマぁ!」


「えっ?」


そしてバルドはラミスの無自覚の暴言にとうとう激昂した。

ラミスのバルドへの推測、それは決して間違ってはない。

というか全くその通りでしかない。

バルドは一度辺境で自惚れ、迷宮都市へと行き、そして挫折した人間だった。

決してバルド本人に才能が無いわけではない。

だが彼は一度の挫折から立ち直ることができず、辺境で威張り散らすことを選んだ、ラミスの告げた通りその程度の男だった。


そしてバルドはその推測が真実であることにより、ラミスに激怒した。


ラミスの言葉は真実で、だからこそ酷く耳に痛く胸に刺さり、


「殺してやる!」


迷宮都市で挫折を経験した時と同じように逃げた。

ラミスに危害を与えることで口を塞ぎ、自分の耳に入らないように逃避したのだ。


だが感情的になっていたバルドはあることを失念していた。


「本当に、突然襲いかかってくるなんて……」


「えっ?」


バルドが感情的になり過ぎた故に、頭からすっぽりと抜け落ちていたこと、それをバルドはラミスに殴りかかった腕を絡め取られ、投げ飛ばされた最中に思い出す。

それは自分がどうしたって敵い用のないラミスとの実力差。


ー 剣を真っ二つに切り裂くような奴に勝てるわけが無いだろうが!


そしてその後悔が胸を走り去った次の瞬間、目の前が白くなり恐ろしいほどの衝撃がバルドの身体を走り抜けていった……





◇◆◇





「っ!」


ほんの一瞬、それが一秒間か数秒かは分からないが、それだけの時間意識を失い、そしてすぐにバルドは覚醒した。


「っ!」


目の前に広がるのはこちらに嫌悪感を隠すつもりもない視線で見下す、ラミスの姿。

そしてその姿にバルドの胸に恐怖が溢れ出す。


ー 何なんだよ、この女!


確かにバルドは挫折し、そして夢を諦め自堕落な生活に身を堕とした人間だ。

だがそれでも現在のランクはDランクで殆どの人間がEランクで終わる冒険者の中ではある程度上位の実力を持っている。

だが、今まで戦いの中で鍛えられていた本能が目の前の女性に大音量で警音を鳴らしている。

この目の前の女には絶対に勝てないと。

今までただの貴族令嬢の落ち崩れだと思っていたが、それは目の前の女が実力を隠した仮の姿でしかなかったのだと。


ー 逃げねぇと!


そんな考えがバルドの頭に浮かぶ。

けれども目の前の女が自分が逃げるのを待っていてくれるとは限らない。

いや、絶対にラミスが自分を逃す気は無いことをその冷ややかな目つきからバルドは悟る。

絶対絶命、そんな言葉がバルドの頭に過ぎり、


「あははっ!」


ーーー だがその時、唖然とした表情をする受付嬢の姿が彼の目に入った。


そして彼の頭にある考えが浮かぶ。

それは受付嬢の意のままに動かすために人質としてとった彼女の家族を、ラミスにも同じく人質として使えるのでは無いかという考え。

今気づけば始終ラミスは受付嬢のことを気にしていた。

だとすれば人質が未だ自分の手の中にいるうちは、自分はラミスを自分の思い通りにすることができる。


「へへ、」


そう、あの身体を自由にすることさえ。


「っ!」


バルドの口に下卑だ笑みが浮かび、ラミスの思わぬ実力に唖然としていた受付嬢がその笑みに気づき顔を青くする。

だが今気づいた所で、その少女には何も出来ない、そうバルドは確信してラミスに人質のことを告げようとして……


「ラミス様、子供達を狙っていた暗殺者達連れてきましたよ」


「っ!」


その瞬間何か重いものが何体か、無造作に床へと放り投げられた。

バルドはその投げられた何かに驚き、蹴り飛ばそうとして、


「なっ!」


そしてその投げ出されたものが人であることに気づく。


「何で、ここに……」


それも、受付嬢の少女の家族に自分がつけていたはずの暗殺者であることに気づき、バルドの顔から表情が消えた。

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