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元令嬢、動き始める

「気に入りませんね」


少年が去った後、テミスはそう吐き捨てた。

その目には少年を嘲るような色が浮かんでいることにラミスは気づく。

テミスは先程の少年がラミスをただの貴族だと勘違いしたこと悟り、先程の少年に少しばかりの苛立ちを覚える。

テミスにとって貴族とは威張るばかりで殆どなんの役にも立たない木偶の坊であるという認識で、そんな存在と敬愛する主を一緒にされ、少年が知らなかったことを知りながらも、テミスの胸に少年に一言物申したい気持ちが芽生える。


「テミス、彼の言葉は間違ってませんよ」


「……はい」


だが、そのテミスの考えを他ならぬラミス本人に否定され、テミスは渋々自分の苛立ちを押さえ込んだ。

そしてテミスが頷くも、未だ不満げな雰囲気でいることに気づきラミスは笑った。

正直、テミスがそれだけムキになってくれていることは自分のことを考えてくれている、そういうことなのだが、それでも今はあの少年を敵視するべきではない。

そう考えたラミスは口元を緩めながらテミスに話しかける。


「私達の鎧はかなり綺麗ですし、この鎧を見て新品だと勘違いしても仕方がありませんわ」


ラミスの言う通り、ラミス達の着ている鎧には1つも傷が存在しなかった。

しかも鎧自身が輝いているせいで、何処かの馬鹿貴族が見た目重視した新品の鎧を買ったようにしか見えない。


「……でもこれ、実際は伝説級の鎧でしょう」


だが、その鎧の実際の能力は見た目重視の鎧どころか、この世の幾多ある鎧の中で最上位の性能を持つ鎧だった。

傷がその鎧にないのは魔術と呼ばれる神秘の力により、修復機能がつけられているからで、決してその鎧が新品であるからではない。

それどころか、戦場ではこの鎧を着ているものがいればあのマートライト家だと恐れられた程だ。


「だけど、そんなこと知るものなど殆どいないでしょう。それにあの少年には普通に私達を心配していましたし」


「っ!」


だが、ここは戦場ではないのだと、そう言外に告げるラミスにテミスは唇を噛み俯く。


「すいません、ラミス様。少し感情的になっていました」


しかし次に顔を上げた時にはテミスの顔にはなんの怒りも浮かんでいなかった。

そしてそのテミスの様子にラミスは笑顔で頷き、それから表情を真剣なものへと変えた。


「それでは本題へと入りましょう。あの受付嬢をどう助けるか」





◇◆◇





「おそらく、あの受付嬢はやけに馴れ馴れしかったあの冒険者に何か脅されているのでしょうね。それにしても何故私に手を出そうとするのか……」


「えっ?」


本題に入り、真剣な空気が漂う中、心底不思議そうにラミスがそう告げる。

そしてその真剣な空気は消えた。

テミスの目に明らかに男がラミスのことを敵視するのは最初に恥をかかされたのと、その容姿のせいだろうという呆れた眼差しを送る。


「どうしました、テミス?」


「………いえ、何でもないです」


だが全く気がついた様子のないラミスにテミスは説明を放棄する。

男にギルドについて教えた行為、それはラミスにとっての善意で、ラミスは男に恥をかかされたなどと思っているなどとは一切気づいていない。

実際、ギルドなどの情報を教えるのは有用なことで、高ランクに上がるごとに冒険者はギルドの情勢を知ろうとして行く。

それはギルドに対して優位に立つために必要なことで、その情報によって高ランク冒険者達はギルドと駆け引きする。

だが男はその有用性を知らなかった。


つまり低ランクの冒険者でしかなかったというそれだけの話。


「でも、何で男に脅されていると確信があるんですか」


ラミスに説明を放棄したテミスは今まで自分が最も疑問に思っていたことを口にする。

受付嬢の様子、それは明らかにおかしかった。

仮にもギルドマスターの手紙を持った人間をコネだとそうはねのける。

そんなことは普通考えられない。

だがそれでも、受付嬢にそう言わせた人間の候補としては男だけではなく、このギルド支部長である可能性もある。


「いえ、支部長はあり得ないわ。


だって、あの受付嬢の持っていた手紙はまず封さえきられてなかったから」


「なるほど……」


ラミスの告げた言葉、それは彼女が発見した不審な点だった。

受付嬢が脇に置いていた手紙、それは開けられた形跡が一切なかった。


つまり、彼女はギルド支部長に手紙を届けていないのだ。


「それに、あの男を背後にした状態でいた時の受付嬢の顔、それは私のよく知っている顔だったの。


戦場で、家族を守る為に武器を構えてできた人間のと」


「なっ!」


ラミスの感情を抑えたような淡々とした言葉、そしてその内容を聞いたテミスは思わず絶句する。


「つまり、あの男は受付嬢の家族を人質にとっていると……」


もし、本当にラミスの言った言葉が正しいのだとすればそれならばあの男が行なっている行為、それは決して許すことの出来ないものとなる。

それはあの年頃の少女にはあまりにも酷い対応。


「……私の勘が当たっていれば」


「くそっ!」


そしてラミスはテミスの言葉を肯定した。

ラミスの勘、それは決してただの想像や夢想の類ではない。

それは戦場や、過酷な旅などの様々な経験を持つラミスが持った第六感的な感覚で、テミスは頷いたラミスの顔から恐らくその勘は外れていないことを悟る。


「ラミスさん、居られますか?」


その時、宿屋の外から朝ギルドに呼び出した男と同じ声がして、ラミス達の顔に緊張感が走る。


「ここから私とテミスは別行動にいたしますわよ。


私の推測の真偽と、もし私の推測があったていれば、その時は頼みます」


「はい」


ラミスの指示、それはかなり具体性を欠いたもの。

だがそのラミスの言葉にテミスは頷き、彼は裏口から宿屋を後にし、そしてラミスは呼び出した人間の方へと歩いて行く。


そしてラミス達は行動を起こし始めた。

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