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元令嬢、決意する

「うぅ……行きたく無いです……」


「ラミス様……」


翌日、ラミス達は再度やって来たギルドの前で足込みをしていた。


「だ、だって、あれだけカッコつけてなのに要件忘れて戻るって……」


ゴネるのは顔を真っ赤にしたラミス。

そしてそのラミスを何とか動かそうをテミスは悩ましげに頭を捻る。


「えっと……何時ものことじゃ無いですか!」


「えっ?」


「えっ?」


「………帰らせてもらいます」


「ラミス様!?」


そして逆にラミスの羞恥心を煽ってしまう。


「あぁ、もう!折角ギルドから呼ばれたのに行かなかったらS級昇格無しになっちゃいますよ!」


「……ぅ、うぅ……」


「大丈夫、もう誰も覚えていませんて……」


何とかラミスの逃亡を阻止したテミスはその手を引いてギルドへと足を進める。


「ぼ、僕ラミス様と手を繋いでいる……」


「うぅ……どうしてあの時……」


そしてかなり温度差のある状態でありながらも、2人はギルドの入り口をくぐり、


「遅かったじゃねぇか」


「っ!」


中の異様な空気に言葉を失うこととなった。




◇◆◇




ギルド内の異様な雰囲気の中心にいたのは昨日ラミスに話しかけた冒険者だった。

何故か昨日と同じ受付嬢の女の子のそばに立っている彼の口元には下卑た笑みが浮かんでいて、彼を中心としてギルド全体がギスギスとした雰囲気に包まれている。


「っ!」


そして、何故か受付嬢の女の子は身体を震わしながら俯いていた。

その顔は何か思いつめているかのように引き攣っているが、その理由はラミス達には皆目検討もつかない。


「何があったんですか?」


ただ、ラミスはそれでも無視することはできないと判断して、受付嬢へと話しかける。


「あんたらのせいだよ」


「っ!」


だが、ラミスの問いに答えたのは男だった。

にやにやとした笑みを崩すことなく、大げさに手を広げる。


「あんたらの手紙、あれはコネだろう?


それはこのギルドではやっちゃいけないことなんだよなぁ!」


「えっ?」


だが、その男の言葉に対しラミスが浮かべたのは疑問の表情だった。

ラミスはこの場所にギルド長からの手紙を持って来たものの、だが彼女はその手紙でS級に昇格することを望んではいない。

ラミスとしてはS級として簡単に上がれるならば、程度の気持ちでその手紙を持って来ていたりするのだ。

というのも、ラミスの実力は正式にギルド長本人に認められている。

つまりラミスには上がろうと思えばランクを上げることは容易いのだ。

冒険者として必要なのは決して実力だけでは無いが、だがラミスはギルド長から直々にラミスはその知識を教えて貰っており、S級の実力を持っている。

そして実家からある程度の纏まったお金は持って来ており、ある程度冒険者として稼ぐまでの過ごす当てもある。

だからそこまでラミスはS級冒険者になれる手紙に執着はしていない。

テミスに自慢した時も、ただ自分はギルド長にも認められたということを示したかっただけなのだから。


「それは許されることでは無いの分かってる?」


だが、それでも今現在本当に手紙のことをすっぱりと諦めてしまうのが正しいのかラミスは迷う。


目の前にいるこちらをみて笑いを浮かべている男。

確かにラミスの渡した手紙はコネの1つだろう。

だがギルド長に正式に認められた実力は決して偽りでは無い。

勿論その手紙を貰ったのは数年前なので、ギルド長が変わっていれば効力を失うかもしれないとは思っていたが、目の前の男が自分を問い詰めている根底にあるのはそんな事情では無いだろう。


「ねぇ、聞いてる?元は貴族だったかも知れないけれどもここはあんたがいた場所とは違うんだよ?」


そしてそこまで悟って、ラミスは悩んでいた。

おそらく、目の前の男から逃げるのは容易い。

目的は自分の身体だろうし、いざという時も実力行使であっさりと倒せるだろう。

そもそも、ギルド長本人に書いて貰った手紙をコネというのが失礼な話で、もしかしたらそれだけで相手を訴えることができるかもしれない。


「……禁止事項を行った場合、罰則が後日ギルドから呼び出しがあります」


だが、話はそれだけではなかった。

ラミスは自分に向かって青い顔でそう告げてくる受付嬢を見て、そのことを悟る。

おそらく何も気にせずにこのまま男の要求を突っ張るのは簡単だろう。

だがそれでは目の前で震えている少女を助けることはできない。

何がこの少女と男の間にあるのか、そんなものは知らない。

そしてこの少女自体、ラミスとは縁もゆかりもない他人だ。


ーーー だが、その少女を見た時ラミスは助けたいそう感じた。


おそらくそれは自分の知り合いと少女を重ねてしまったからの気の迷いかもしれない。

いや、そうだろうと自身で確信している。

けれども、今から行おうとしていることに迷いはなかった。

今の私は令嬢ではない。

何にも縛られないし、そしてだからこそやりたいことが出来る。

だったら、今回は自身の思うままやりきることにしよう、とラミスは決断する。


「ほら、受付嬢様だってこう言ってるぜお貴族様よ!」


「っ!貴女、そんな規則なんて聞いたことが……」


「分かりました」


「っ!ラミス様!?」


男のふざけた態度と、少女の言葉にテミスが怒るのが分かる。

そのことにラミスは喜びを感じる。

今まで自分にあまり懐いてくれていなかったテミスが、自分のことを心配してくれているということを悟って。

だが、ラミスはテミスの言葉を遮り少女の言葉を了承し、そして素早くギルドを後にする。

その態度は貴族の令嬢が自分の要求を跳ね除けられ、逆上したようにしかみえないだろう。

そしてテミスはラミスの行動に驚愕して、咎めようと口を開きかける。


「はぁ……分かりましたよ。また面倒ごとですか……」


「ありがとうございます。ごめんなさいねテミス……」


「まぁ、何時ものことですからね……」


だが最終的にテミスはラミスの視線から彼女の意図を悟り、溜息漏らしながらだがラミスの要求を了承する。

そして信頼のできる執事の了承を得たラミスの口に獰猛な笑みが浮かぶ。


「何をしてくるのか、楽しみですね」


彼女のことを知っているものであれば全力で逃亡を選ぶ呟き。

だが、未だ自分がどんな相手に手を出してしまったのか、そのことを男が知ることはなかった……

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