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RAISE 3

「この名簿に赤印がついた人間たちを捜索してほしい」


 一ヶ月と少し前。

 ヘメラ王国王都の騎士団本部駐屯地にて、セイタは騎士団長アーチボルドから直々に任務を受けていた。

 金髪の騎士団長アーチボルドは己の執務室にてセイタとステファンと向き合い、長年威厳を出すために生やしている顎髭をなぞりながら言った。

 執務机を挟んだセイタとアーチボルドは視線を交わす。ステファンが身軽にも机上に乗り、色あせた名簿のページを、口を使って捲っていく。


「特務隊の失踪者か」


 ステファンが呟いた。


「ああ。それと死亡者だ」


 アーチボルドが頷く。アーチボルドもまた赤い制服姿である。この赤こそがヘメラ王国のシンボルカラーだ。


「懐かしい名前がたくさんじゃ」

「あ、そっか、ステファンの部下ってことか」


 セイタはポンと手を叩いた。

 この灰色の喋る猫ステファンは、ヘメラ王国特務隊隊長なのである。

 セイタは次に眉をひそめる。


「え、じゃあ、異能使いを探すってことですか、アーチボルド騎士団長?」

「そのとおり」

「しかも失踪者もって……」


 とても穏やかではない。セイタはただならぬ気配を感じ取る。


「逃げ出す者も、そりゃおるよ。どうしてもな」


 言葉を添えたのはステファンだった。

 この世界には時おり〝異能使い〟と呼ばれる者たちが誕生することがある。いや、正確には、生まれたときには明らかではないものの、ここヘメラ王国では国民に対し〝神礼祭〟という儀式をおこなうことで、異能を秘めた人間を見つけることがある。

 このセイタとステファンも神礼祭によってヘメラ王国に見出された異能使いである。

 神礼祭を経た異能使いは左腕に文字が浮かび上がる。

 セイタの場合〝RAISE〟が、ステファンの場合〝TALK〟がそうだ。

 異能とは人智を超えた能力の呼称である。異能使いは左腕に浮かび上がった文字になぞらえた能力を持っている。

 ステファンの異能は〝会話〟。これによりステファンは、人の言葉を喋ることが可能となった奇妙な猫となっている。その猫としての能力を買われ、長年ヘメラ王国騎士団特務隊で活躍してきた古株である。


「居場所に目星はついておるのか?」


 ステファンはアーチボルドに尋ねた。ちなみにステファンにとってアーチボルドは直属の上司なのであるが、ステファンは誰に対してもこの態度で接している。


「いや、それが、さっぱりだ」

「こりゃ長い任務になりそうじゃのう」

「それだけ異能使いの手が足りていないんだ。RAISEを持つセイタが入団してくれたことが我々にとってどれほど幸運だったか」

「まあの。くれぐれもだいじに扱ってくれたまえよ。ぼくのだいじな部下なのじゃ」

「それはわかっているんだが、そうも言ってられない状況だということはステファン、君こそ理解しているだろう」


 ステファンはついに沈黙した。


「あの」


 セイタが口を挟む。


「死亡者って、もしかして……」


 アーチボルドとステファンはセイタの顔を見る。セイタは微妙な表情をしている。


「蘇らせてほしいんだ」


 アーチボルドが言った。

 セイタの異能〝RAISE〟は、死者を蘇らせる能力である。

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