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JKメタラー☆姫タル俺の秘めたる事情  作者: 祭人
第四章 秘めたる冬のホワイトバレンタイン
31/40

第31話

 二〇十七年一月初旬。

 JR山陽本線K駅、火曜日のプラットホーム。そこで俺は何時ものように、通学鞄を片手に電車が来るのを待っていた。

 今日から新学期。早朝だからか、今朝も強い寒波が襲う。

 灰色のマフラーをすり抜けて、冷たい風が背中へと伝わる。学校指定の地味で薄手のものだ。乾いた空気が紺色ブレザーの下の白い長袖シャツの内側の乾燥肌へ、刺すような痒みと共に纏わり付く。

 ふぁーっと欠伸を噛み殺す。昨夜も夜更かしをしてしまった。勉強もせず趣味に没頭するわけでもなく、ネットやゲームを毎晩だらだらと。抜け殻のような毎日を過ごしている。

 眠気眼を擦った後、眼鏡を掛け直しながらホームの向こう側に目を配る。

 そこにはFenderとGivsonのギターケースを抱えた二人組の女子高生が。

 聖女の制服姿、いつも見かけるあの娘たちだ。

 Fenderの方は、ライトブラウンのツインテール。丸顔童顔のロリ系で小柄。

 Givsonの方は、細身でセミロングの黒髪。背丈は俺とそんなに変わらない。

 二人とも可愛いが、特にセミロングの子の方がお気に入りだ。

 俺は密かに高校入学以来、ずっと彼女に思いを寄せている。

 だけど俺には、秘めたる思いを伝える勇気はない。クズ野郎の自分には、男として、人として、彼女と面と向かって会話をする資格がないのだ。

 何故なら彼女は――。

「鈴音ちゃん……」

 俺がずっと偽りの仮面で騙し続けていた、春菜鈴音なのだから。


 ◇


 満員電車で押し潰されている俺は、何時ものようにiPhoneでネットをチェックした。検索ワードは相変わらず『JKメタラー姫タル』だ。

『【不倫中にご臨終?】美人すぐるJKギター娘(ノ゜ο゜)ノ オオオオォォォ姫タルさま、突然の垢消失で死亡確定?【太もも人生終了乙】そのギザカ46』

 姫タル突然のアカウント削除による失踪から二ヶ月。巨大掲示板5ちゃんねるの姫タルスレッドは、未だ更新され続けている。


 987: 名無しの人生終了太もも姫 2015/01/5(木) 19:28:36.02

 すーすー太もも晒しすぎて、中二病もとい風邪を拗らせたか?

 988: 名無しの人生終了太もも姫 2015/01/5(木) 21:01:55.23

 ワロタwやぱリアルに死亡したとか?

 989: 名無しの人生終了太もも姫 2015/01/5(木) 21:08:46.28

 つうか、おまいらがウザすぎてリスカしたんだよ。

 990: 名無しの人生終了太もも姫 2015/01/5(木) 21:08:50.13

 こないだのJKニート@リスカで自殺ってニュース。あれ姫って噂だぞ。

 991: 名無しの人生終了太もも姫 2015/01/5(木) 21:08:55.12

 えっ、マジ?

 992: 名無しの人生終了太もも姫 2015/01/5(木) 21:09:46.13

 マジよ。出展→ http://news.yahaa.co.jp/pickUP/235963

 993: 名無しの人生終了太もも姫 2015/01/5(木) 21:22:43.15

 ガセかよ。つか姫タルの魚拓取ってるか? そのうち垢変えて戻って来るかもしんないぜ。

 994: 名無しの人生終了太もも姫 2015/01/5(木) 22:22:22.22

 つか妊婦になってたりしてwww

 995: 名無しの人生終了太もも姫 2015/01/5(木) 23:09:46.13

 産休情報サンキューw つかオサーンになってたりしてwww

 996: 名無しの人生終了太もも姫 2015/01/5(木) 23:15:38.05

 オッサンお産w つかそしたら餌食にしてやろうぜ。

 997: 名無しの人生終了太もも姫 2015/01/5(木) 23:22:13.36

 奥さまに通報しますた! つか職場暴いて通報してやろうぜ。つかそろそろ次よろ。

 998: 名無しの人生終了太もも姫 2015/01/6(金) 00:05:22.11

 【不倫中にご臨終?】美人すぐるJKギター娘(ノ゜ο゜)ノ オオオオォォォ姫タルさま、突然の垢消失で死亡確定?【太もも人生終了乙】その47 

http://echo.5ch.net/test/read.cgi/bookall/1483426183/l50

 999: 名無しの人生終了太もも姫 2015/01/6(金) 00:19:45.32

 つか垢消したぐらいで俺たちから逃げられると思うなよ。

 1000: 名無しの人生終了太もも姫 2015/01/6(金) 00:21:46.13

 つか永久に粘着してやるからよ。覚悟しとけよ、このネカマの太もも野郎が。

 1001 : 1001Over 1000 Thread

 このスレッドは1000を超えました。もう書けないので新しいスレッドを立ててください。

 life time: 5時間 17分 22秒

 1002 : 1002Over 1000 Thread

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 見るんじゃなかった……。

 たしか昨晩も同じ台詞を心の中で呟いた筈。ついつい確認してしまう自分が心底情けない。

まさにハイエナどもの格好の餌食だ。姫タルがネットから撤退した途端、掌を返したようにこの有様である。きっとニコオタやツイッターでは姫タルをチヤホヤしていた連中も、この巨大匿名掲示板の鬼畜どもの中に大勢含まれているのだろう。

 ネットは心の闇と虚構に塗れた悪魔の巣窟。それを重々承知でいながら、誰かにかまってほしい気持ちは抑えきれない。

 リアルに行き場のない俺のような人間は、結局ここに縋りつくしかない。まさにネット麻薬中毒患者(ジャンキー)である。

コミュ障で歪んだ性格。自分の存在を認知してもらいたくて、寂しくて誰かにかまって欲しくて、夜な夜なギター片手にネカマを演じていた。カマってちゃんとはまさに俺の事だ。

 鈴音ちゃんが崇拝して止まなかったJKメタラー姫タル。その正体である俺、石野健太郎は、そんなゲスな手段で純粋な少女たちを騙し続ける、鬼畜同然のクズ野郎だったのだ。

 俺は満員電車に押し潰されながら、臓腑の底から深いため息を付いた。


 ◇


 昼休み。俺はひとりiPhoneでYouTubeのキャッシュ動画をイヤホンで聴いていた。

 メタリカの『Seek And Destroy』が、俺の脳髄を徹底的に叩きつぶす。そうやって居眠りの振りをしながら、眼鏡を外した視線を、ずっと窓の外へと向けている。

 霞んだ視界でぼんやりと、毎朝駅のホームで見掛ける彼女たちの姿を思い浮かべる。今頃ふたりは、軽音ガールズバンド『メタル☆うぃんぐ』の仲間や、部活の可愛い後輩たちと、明るく楽しい学園生活を謳歌しているんだろうな、きっと。

 俺にはバンドどころか、ロックやメタルを熱く語る仲間はいない。それ以前に友達と呼べる奴すらいない。自分からは人に話し掛けられない性格。そんなぼっちのコミュ障など、男子校ではゴミに過ぎない。

 思えば、あの頃から俺の対人恐怖症と負け組属性は始まったんだ。

 忘れもしない、それは俺が中学二年生の時だった――。


 当時、俺はいじめを受けていた。

 クラスのチャラい連中から目を付けられていたのだ。俺がメガネの地味オタの分際で、やたらと洋楽のロックやメタルに詳しいのが、生意気で気に食わないということらしかった。

 いじめの内容は世間一般の多分に漏れず、壮絶なものだった。

 ハブに始まり、教科書やノートや体操着などの持ち物を隠される、給食に鉛筆の削りカスをふり掛けられる、金銭の恐喝、万引きの強要、皆の前でズボンと下着を脱がされるなど、数え上げるときりがない。図工の時間にシラミのシャンプー洗浄と称されて、木工ボンドを頭から掛けられたこともあった。

 正直、思い返すもの虫唾が奔るぐらいにおぞましい。なので、これ以上の詳細は割愛する。

 それまで多少は会話をしていた連中も、掌を返したように俺をシカトするようになった。

 教師はすべて見て見ぬふりだった。クラスで目立っている連中のご機嫌を取り、集団の調和を保つ。そうやって保身を図ることが、結局は公務員としての彼らの生き方なのだから。


 次第に耐えられなくなった俺は、中学から足を遠ざけ、登校拒否をするようになった。

 学校を休み、部屋に引きこもる毎日。その間ずっと漫画やゲーム三昧だったのだが。さすがに飽きて、今度は父さんのギターを勝手に部屋へと持ち込み、昼も夜もひたすらジャカジャカやっていた。

 弾き方は、物心付いた頃から父さんに無理やり叩き込まれていた。なので体に染み付いているというか。昔からそれなりに弾けていたのだ。

ギターだけが俺の孤独を癒してくれた。その積年の相棒が、例の赤いフライングV。父さんが高校の入学祝いとして、俺に譲ってくれた宝物だ。鈴音ちゃんに別れの餞別として、託した例のギターである。

 クラスでいじめられていることも、登校拒否をする事も、父さんの大事なビンテージギターを無断で弾く事も。父さんも母さんも、うるさいことは何も言わなかった。

 両親は俺に内緒で、何度も学校へ抗議に行ってくれたみたいだ。だが反体制でラブ&ピースな昭和ロック夫婦のスピリットも、平成社会の歪んだマジョリティって奴には太刀打ち出来なかった。

 そんなこんなで中学後半はまったく勉強せず。中学前半まではそれなりに良好だった成績も、おかげで地の果てまで落ちた。

 当然ながら高校受験も見事に撃沈。ぶっちゃけ今通っている私立の男子校は、一応進学校の普通科ではあるが、レベルの低いBラン高校なのである。

 学校でいじめにあって登校拒否になっても、本当に賢くて立派な人は勉強だけは自宅でしっかりやって良い高校に進むのであろうが。ヘタレな俺には這い上がって見返してやるんだという根性も気概も知性も、残念ながら持ち得てなかったのだ。


 そんな情けない俺にも、高校生になって初めて友達と呼べる仲間が出来た。聖女軽音楽部の連中のことだ。幸福な時間だった。本当に毎日が楽しかった。だけど、幸せは長くは続かなかった。なぜなら、性別を欺くというゲスな手段から始まった偽りの出会いだったから。

 今から二ヶ月前。すべての役目を終えた俺は、彼女達と今生の別離を決断した。

 因果放蕩。すべては自分が悪いのだ。俺のようなネカマのクズは、彼女達の前から居なくなくなるのが正解。姫タルのような虚構の存在は、消えて無くなるのが当然だ。

 ぼんやりと霞んだ視線。校舎の窓の外には重く暗い冬の空。

 じわりと視界が滲んだ。


 ◇


 翌日。学校から帰宅途中の俺は、雑踏に塗れながらK駅の階段を登っていた。

何時ものように、階段を抜けて改札口へと向う。

「おい見ろよ。あの女、ちょー可愛くね?」

「やべ、やっべ、ちょーやっべ!」

 前方からゲスな会話が聞こえてくる。俺と同じく帰宅途中の男子高校生連中だ。

 何事かと確認する俺。すると改札口の手前で、ひとりのJKが佇んでいた。

 かなりの美少女だ。聖女の制服姿。襟元には白いマフラー。学校指定らしき通学用のコートを羽織っている。膝元では白い手袋を嵌めた両手で、通学鞄を持っている。

 目と目が合う。すると彼女は俺に歩み寄り、白い息混じりに声を掛けて来た。

「あけましておめでとう、お久しぶりね」

 その制服姿の美少女は――。

「あなたをずっと待っていたのよ」

 幼馴染の冬堂美羽だった。


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