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JKメタラー☆姫タル俺の秘めたる事情  作者: 祭人
第一章 姫タル俺と春なスズメの仲間たち
3/40

第3話

 好物のコーヒーゼリーパフェを食べ終えた俺は、速やかにブラックレザーの鋲付きマスクを顔に装着し直した。

 K市駅から徒歩五分のファミレス。さっきから周囲の目線が刺さるように痛い。何故なら、俺の紅色ロングヘアーのド派手なウィッグが異彩を放っているからだ。


 結局、スズメちゃんと直接会って話を聞くハメになってしまった。

 今日は土曜日。ここで彼女と午後三時の待ち合わせだ。時計は十五分前を示している。


 悩んだ挙句、俺は姫タル娘のコスプレでここに現れた。

 チラ出しした顔には、長いつけまつ毛と妖艶なメイク。ド近眼な目には度入りのグリーン・カラコンを入れてある。ひらひらレースの黒装束も体系を隠すのにうってつけだ。細身とはいえ一応は男であるし。

 下半身は鋲付きブラックレザーのタイトなミニスカートとロングブーツ。白くスリムな太ももだけを曝け出し、さりげなく女らしさをアピールしてみたりもしている。自分で言うのもなんだが、俺はやたらと美脚なのである。


 化粧道具や衣装は通販で買った。ネットの小遣い稼ぎで貯めた金でだ。簡単なテキスト入力からホームページ作成まで。PCオタな知識を駆使して手広くやっている。

 息子が自分で稼いだ金の使い道に関しては、親も監視は緩い。俺は一人っ子なので、少々甘やかされて育ったのかもしれない。

 この姿で外出するのは初体験。男だとバレてしまわないか、さっきから心臓バクバクだ。


 ◇


 待ち合わせ時間の五分前。姫タル姿の俺の前に、ふたり組のJKが現れた。

 紺色ブレザーにサテン生地の鮮やかなブルーリボン、清楚なタータンチェックのスカートから伸びた白い足が眩しい。県下有数のお嬢様校である聖女の制服を着ている。


「は、初めまして。姫さま……ですよね?」


 セミロングの黒髪少女が、恥じらいの表情で俺に問い掛ける。

 スズメちゃんことスズメタル。あの駅のホームの美少女だ。白い頬が桃色に染まっている。


「姫さまっ、うちがヒナメタルやねんよ。よろしくねっ!」


 続けてサイドテールの小柄な娘が大声で挨拶する。スズメちゃんの倍ぐらいのボリュームだ。

 この子がヒナメタルだったのか。アイコンはメタラーコスプレのひよこのイラスト。スズメタルと共に、いつもツイッターで絡んでくる関西弁の娘だ。


 俺は軽く会釈で返した。あまり声は出したくない。俺の声は女みたいに甲高いからバレないかとは思うが。毎朝駅のホームで見かける可愛いJKたちを前にして、緊張して言葉が出ないと言った方が正直なところである。

 とりあえず謎のJKメタラー☆姫タルは、クールなツンデレ女子という設定で押し通そう。高校は……コミュ障で休学中ってことでいいか。ヤンデレ設定も盛っておこう。

 対面席に横並びで座るスズメちゃんとヒナちゃん。正統派美少女と萌えロリ娘。改めて間近で見るとマジぱねえ。ヤバいぐらいハイレベルのコンビだ。


 二人は自己紹介をした後、ドリンクバーのグラス片手に自分たちの置かれた状況を説明した。

 スズメタルの本名は春菜はるな鈴音すずね。ヒナメタルの本名は夏木なつき陽菜(ひな)。二人とも本名のもじりなのかよ。まったく怖いもの知らずな子たちだ。

 聖女の二年生。俺と同じ年だ。鈴音ちゃんは普通科。デザイン科の陽菜ちゃんとはクラスは異なるが、K市から同じ電車で通っていて部活も同じ軽音。ガールズバンド『メタル☆うぃんぐ』を組んでいる。


 軽音楽部は彼女たちを入れて四人。バンドも一組しかないそうだ。鈴音がリーダーで部長も務めているらしい。いわゆる中心人物だ。


「ツイッターのメッセでも書きましたが、わたしたち三ヵ月後に開催される秋の学園祭でライブを行う予定なんです。そこで先生たちを納得させる結果を出さないと、廃部になってしまいます。でも、わたしたち……」


「うちらって、めっちゃへたっぴぃなんよ。練習しても全然上手にならへんの」


 陽菜が言葉を受け継ぐ。YouTube動画でも確認したが、彼女らの演奏は、とても人に聴かせられるレベルではない。


「でね、その条件っていうのが、めっちゃしんどいねんよ」


「満員御礼が絶対条件。しかも観客にアンケート用紙を配って、満足度調査をするそうなんです。調査方法は五段階評価のマークシート式。その集計結果を数値化して、事前に定める得点に到達しないと即廃部となるんです」


 書類選考の二次審査まであるとは。進学校の教師のやりそうな手口だ。世の中は結果(すうじ)がすべてということか。しかしそこは受験も、アイドルの総選挙も、WEB小説や弾いてみた動画の人気ランキングも同じである。


「ねえねえ、そんなんムチャ振りやと思わへん?」


 ムチャ振りはどっちやねん!

 心の中で突っ込む俺。しかも、いきなりタメ語。おまえ姫タルの信者じゃなかったのかよ?


「うちらにはハードル高杉晋作やっつーの。ヒナちん、ムチャ振りブリブリめっちゃ怒ってんねんでー、幕末爆発っ!」


 陽菜は自分のサイドテールを両手で掴むと、ぶるんぶるんと振り回した。


「ていっ、ていっ。分からず屋の先生たちを、ヒナメタルさまがこらしめたるメタルっ!」


 今度はサイドテールをペシペシとムチのように振り回す。しかもサムいダジャレ交じりで。

 ぷにぷにほっぺのぱっちりおめめで、見た目は可愛い娘なんだが……。このキャラは一体なんなんだ。あの聖女の生徒とは信じ難い不思議ちゃんだ。


「軽音楽部はどんどん人が減っちゃって。今ではわたしたちだけになってしまって……そんな不良の代名詞のような部活動は伝統ある我が校には望ましくないって、先生たちにもずっと睨まれています」


「せやねんよ。みんなちょー怖いんやから」


「学園祭ライブでの審査は軽音顧問の先生の提案なんです。だから頑張れって、いつも優しく励ましてくれて……」


 そんなのは詭弁だ。きっとライブの失敗を見込んでの条件提示だろう。アメとムチ。ずる賢い大人の企みそうなシナリオだ。そして賢そうな彼女のことだ。そこは罠だと薄々感付いているのだろう。だからといって無力な彼女たちには、どうにも覆せない鬼畜展開だ。


「うちらの顧問の先生だけは、めーっちゃ優しいの。ちょーイケメンやねんよ」


 そこは聞いていないっつーの。両掌を組んで天を仰ぐ陽菜。目がうるうるハートマークになっている件に関しては、華麗にスルーしておこう。


「ねっ、スズメちゃん?」


「たしかにヒナちゃんが言うように、先生は若くてハンサムだから。姫さまも好きになっちゃうかも知れませんね」


 いやそれはない。断じてない。ありえない。俺は男だぞ。それに俺が好きなのは……。

 まさか鈴音ちゃんも、そのイケメン教師に惚れているのだろうか。嫉妬の青い炎。俺の脳内でX JAPAN『SilentサイレントJealousyジェラシー』のピアノイントロが静かに流れ出した。


「実はわたし、姫さまに憧れてバンドを始めたんです」


 しみじみと語りだす鈴音。


「初めて姫さまの演奏動画を聴いた時は本当に衝撃でした。自分と同年代の娘が、こんなにも生き生きと上手にギターを弾いているなんて。メタルのファッションも素敵で似合っていて。とても美しくキラキラと輝いていました」


 リップサービスかどうかは分からないが、誉められて悪い気はしない。ていうか泣けてくる。


「その姫さまが、ラーメン屋のツイートでK市の人だって分かった時は本当に嬉しかった。それでわたし、今まで雲の上の人だった姫さまが身近な存在に感じられて、つい……」


 それって最近流行の、地下アイドルに入れ込むマイナー好きなオタ連中と同じようなファン心理なのかもしれない。だからこそ、可愛さ余って憎さ百倍な逆恨み展開がガクブルであるが。


 長いまつ毛に猫っぽい大きな瞳の鈴音ちゃん。さっきからすこし涙目だ。

 もっと強引な娘かと思っていたが。ツイッターの印象とはすこし異なる。育ちのよい生真面目な娘が、背伸びをしてロック少女を演じているといった印象だ。メッセでのクレクレ攻撃は、軽音崩壊の危機でよほど切羽詰っていたのだろう。

 清楚で可憐で、間近で見るとまじ可愛い。そして間近で見るとやはりJKにしては巨乳である。推定Eカップ。まさに俺の理想が服を着て歩いていると証しても過言ではない。


「それでついわたし、あんな図々しいお願いを。厚かましくて身の程知らずなのは百も承知だったんですけど……」


 俺は勇気を振り絞って鈴音に声を掛けた。なるべく女性っぽくソフトな口調で。


「敬語はやめてね、同じ年なんだから」


「あ、はい。ごめんなさい」と頬を染めて俯く。


 ヤバっ。可愛い、かわゆすぐるぞ鈴音ちゃん!


「うちもやねんよー。ていうかうちらメタル☆うぃんぐは、ツバメちゃんもミューちゃんも、みーんな姫さまの大ファンやねんよ。ファンファファファーン!」


 ファンファーレを口で奏でる陽菜。こっちはツイッターの印象そのまんまだ。


「ツバメタルとミューメタル、あの子たちもメンバーなんです……あ、なの」


 二人ともツイッターでたまに見かける名前だ。

 アゲまくられる俺氏、いや姫タル娘。男とバレる気配もない。とりあえず一安心である。


「明日、ここの近所の『Doctor(ドクター)Doctor(ドクター)』ってスタジオで練習します。もしご都合が宜しかったら、とりあえず一度わたしたちの演奏を生で聴いて、アドバイスをして頂けませんでしょうか」


 鈴音は「お願いします」と両掌をテーブルに付け、セミロングの黒髪を深々と下げた。甘いシャンプーの香りが、ほのかに伝わる。


「ドクドクよ。来てよね、お師匠さまっ。来ないとお仕置きよっ、ペシペシ!」


 陽菜は俺の鼻先で、サイドテールのムチを鋭く振り回した。

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