番外編.IFSTORY 社会人の男達-1231
翔が会社勤めになってから三年が経った。
別の街に行ったから、ホームシックになるかと心配することもあったが、どうやら杞憂だったようで、なんとか生きてはいるみたいだ。ブラック企業でもなかったらしい。
そういう僕は、どういうわけか、知人の喫茶店を継いでいるのだ。
二年目の新米マスターだ。使い方は合っているだろうか。
「なんて、ね。いやはやどうしてこうなった……」
最近の口癖になってしまったフレーズを漏らしながら、コーヒーを淹れていく。口癖も常連さんに指摘されて気付いた。本当に気付かないうちに言っているものらしい。
すっかり使い慣れたサイフォンも、どこか古めかしいのにおしゃれな店内も、それを作り出す少し寒い空間も、今年はお世話になりました。
来年のことは来年考えよう。きっとそれがいい。明日だけど。
さて、さっきコーヒーを淹れたのは、ある人を待っているからなんだけど、本当に来るだろうか。今日まで仕事あると言っていたし。
「お、やってるやってる」
ベルが鳴った。社会人になってから、少し落ち着いた声色。
「よっ」
翔だった。
「お疲れ様。そしていらっしゃい」
「何に対するお疲れ様だよ」
「そりゃ、お仕事だよ。今日までだったんでしょ? ご苦労様」
「そりゃどうも」
カウンター席に座り込む翔。コーヒーを出す僕。久しぶりだけど、そこにはやっぱり友人の空気が流れていたし、それでもここでは、マスターと客だった。
「砂糖くれよ」
「あんまり入れると甘ったるくなるよ」
「大丈夫だろ」
そうして砂糖をたっぷり入れた。あれ絶対僕は飲めないやつだ。
「……で、突然店に押しかけて、一体何の用?」
「そりゃあ、これよ」
そうして机の上に置かれたもの。
それは蕎麦だった。
「年越し蕎麦作ってくれよ」
「ええ……」
「なんだよ、文句あんのかよ」
「自分で作れるでしょ? 普段は一人暮らしなんだし」
「麺系はさっぱりなんだ。ここなら設備もありそうだしな、ほら、ナポリタンみたいな」
「……はぁ」
少し意地悪でもしてやろう。年の瀬だ。大晦日だ。そのくらいはいいだろう。
「五百円」
「金取るのかよ」
「プラス掃除」
「はぁ!?」
「しょうがないだろ、もう三日前には休業してたんだからそれくらいはしてもらわないと」
「それと五百円は関係あるのか……?」
「ない」
「でしょうね! でもまあいいや! 野郎二人で年越しじゃあ!」
自棄にでもなったのかそう言い放って座り込んだ。
「じゃあ、ちょっと待っててね」
「ういー終わったら起こしてー」
はいよ。
☆☆☆☆☆
出来た蕎麦を二人で食べる。
「うめぇ。悔しいが俺の自炊よりうめぇ」
「そりゃあ、喫茶店のマスターですから」
「そうだよな、家と店だもんな……」
涙目の翔はさておき、時計を見るともう右に傾いておられた。
「……結局、ここで年越ししたね」
「だな」
「今年もよろしく」
「おう」
さっきの言葉は忘れたららしい翔が蕎麦をすする。
「じゃ」
「何だ?」
「新年初仕事と行こうじゃないか」
「何するんだ?」
決まっている。
「鍋の掃除。手伝ってもらうよ。 当たり前だろ?」
2017年に生きる皆様、良いお年を。
未来に生きる皆様、今後とも鈴木を宜しくお願い致します。
そして明けましておめでとうございます。




