表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

恋愛とは釣りである

作者: okirakusunafukin

 釣りで例えるなら、ようやく魚が釣り針に興味を示したというところだろうか。

 同じ職場の鈴木ちなみさんと食事へ行く約束を取り付けることができた。グループ飲み会から少しずつ距離を縮め、焦らずに長い時間を掛けた甲斐があって、彼女も二人だけの食事だというのに快く返事をしてくれた。

 後はどうやって目当ての魚に釣り針を咥えてもらうかというところだろう。それには強力な餌が必要だと考えられる。

 とはいえ高価なプレゼントなどいきなり送ったら彼女も驚いて警戒してしまうかもしれない。それならば、彼女の好物で釣るというのはどうだろうか。

 まずは彼女と親しい職場の人に「彼女とお昼に出掛けるときどういうところへ?」と聞いて情報を集めまくった。それらを踏まえて池袋にあるパスタの店を予約をした。さらに彼女の旅行好きという趣味に合わせて国内外の旅行ガイドを購入してネタを仕入れた。もうここまでやれば、魚が釣り針を咥えていると言っても過言ではないだろう。

 そして、食事当日の夜がやってきた。

 あらかじめメールで連絡をしていたので、彼女とは仕事の後で一緒に店へと向かう流れになっている。

 数分経過する度に時計を確認していると、気がつけば就業時間を過ぎた事務室には四人しか残っていなかった。すぐにでも彼女の手を引っ張って外へ行きたい気持ちを抑えながらパソコンの電源を落としていると、後輩の清水という男が急に口を開いた。

「そういえば、中野さんって意外な部分が多いですよね」

 なんだ突然、と私は後輩に不審な目を向けた。

 彼はそんな視線など気にもしないという様子で言葉を続けた。

「職場の皆でバーベキューに行ったとき、中野さんが一人だけキャラ物の帽子を被って、女の子に迫ってたじゃないですか。まるでキャバクラみたいな遊び方でしたよ」

「キャバクラみたいな遊び?」

 鈴木さんが驚くような声を上げた。

「あっ、鈴木さんはそのときいなかったですけど、それはもう凄かったんですから」

 私は背中に汗を掻くのを感じた。脇汗はもうすでにぐっしょりとなっている。

 確かにそれは記憶にあるが、そこまで酷い遊び方をしていたことはなかった。むしろ、一緒になって遊んでいたお前が言うか、と叫び出したい気持ちに駆られたが、そこは大人気ないと思ってグッと堪えた。

「そんなことはしてないと思うけどなあ」

 と私は笑ってやり過ごそうとした。

 その後、更衣室のロッカールームで彼女からメールが来た。

「ごめんなさい。今日は用事があったので行けなくなりました」と、短い文章が送られてきた。

 どうやら魚はバレてしまったようだ。




(了)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ