春(5)
早苗らが去ったあと、縁側に河童の河城にとり(かわしろ‐にとり)がやってきた。
また、にとりとほぼ同時に花の妖怪の風見幽香(かざみ‐ゆうか)も来た。幽香は桜の木の枝に座り、木の上から花見を楽しんでいる。
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にとりは萃香を見ると、彼女に向かって恭しくお辞儀した。
にとり「どうも萃香さん。ご無沙汰しています。」
萃香「だからそんなに改まらなくても良いってば。」
鬼は全ての妖怪を統べる存在である。つまり、河童のにとりからしたら鬼である萃香は“上司”のようなものだ。
堅くなってしまうのも無理はない。
霊夢「それで、今日は何の用?」
に「ええとね、これを霊夢に渡そうと思って。」
にとりは背中に背負ったリュックから茶色い魚籠を取りだし、霊夢に渡した。
霊夢が魚籠の中を覗き込むと魚が沢山入っていた。
霊「あら、こんなに一杯どうしたの?」
に「昨日、私が川で釣ってきたんだ。」
こんなに釣れたよ、と両手を広げて沢山釣れたことをアピールする。
霊「へえ、そうだったの……ハッ!」
霊夢が突然、何か閃いたような素振りを見せた。
萃「どうしたのさ?」
霊「この魚を餌に私に何か手伝わせて、もし私が拒否したら蛇や蛙の祟りをかけるだとか、そんなんじゃないわよね?」
に「何のことか分からないけど、そんなことはしないよ。なんたって河童と人間は盟友だからね。」
にとりは『河童がそんなことをするわけがない』と強く否定した。
霊「そう…なら良いわ。ありがとうね。」
しばらくすると、にとりがハッとした表情になった。
萃「どうしたんだい?」
に「用事を思い出した!すぐに帰らなくては…。萃香さん、霊夢、失礼します!」
霊「お茶でも出そうと思ったのに、それは残念ね……。また来なさいよ?」
に「うん、ありがとう。それじゃ!」
にとりは慌てて妖怪の山に帰っていった。
にとりと入れ替わりで死神の小野塚小町(おのづか‐こまち)がやってきた。
小町は神社の石段に腰かけると、そのまま昼寝を始めた。