春(4)
魔理沙たちが帰って間もなく、神社の上空を“幻想郷のチンドン屋”ことプリズムリバー三姉妹が通りかかった。
あまりのうるささに堪り兼ねた霊夢が表へ飛び出したが、三姉妹は既に通り過ぎたあとで境内には誰も居なかった。
霊「はぁ…。」
霊夢がため息をついたその時、誰かが石段を上ってくるのに気づいた。
妖怪の山の頂にある守矢神社に住む軍神の八坂神奈子(やさか‐かなこ)と同じく土着神の洩矢諏訪子(もりや‐すわこ)、そして風祝にして現人神の東風谷早苗(こちや‐さなえ)だ。
早苗「よいしょっと。」
早苗は大きな桶を持っており、霊夢の前に来るとそれを地面に置いた。桶の中にはキノコやタケノコなどの“山の幸”がたくさん入っている。
霊「……それは何?」
早「これはですね、昨日山を散策していたら山に住む妖怪たちから食材を貰ったので、そのお裾分けにと思って持ってきたものなんです。」
霊「“お裾分け”たって、かなりの量よ?」
神奈子「その点に関しては無問題よ。これでも、まだウチに10kgはあるかしら。」
早「それに、霊夢さんには日頃から何かとお世話になっていますからね。」
霊「つまり、これは遠慮なく貰っても良いのかしら?」
神「ええ、そういうことよ。」
霊「そう。そしたら有り難く頂いておくわね。これで食材を買う費用が大分省けるわ♪」
桶の重さもいざ知らず。
霊夢は軽々とそれを持ち上げ、奥へ運んでいった。
霊夢の姿が消えたのを確認して、神奈子と早苗はひそひそ話で何かを確認しあう。
やがて霊夢が戻ってきた。
神「それで実は、お願いがあるのよ。」
霊「はぁ~。やはりそうだったのね。」
神「ええ…。守矢神社の鳥居、まだ白木のままでしょ?あれを朱色に塗って、ついでに社殿の防腐剤塗布もやりたいと思っているのだけど、私たち三人だけじゃ人手が足りないのよ。」
早「それで、是非とも霊夢さんにお力添え頂きたいなと思いまして…。」
霊「やれやれ…;」
『“美味しい話しにはワケがある”とはよく言ったものだ』と霊夢は思った。
霊「ちなみに、断ったらどうなるのよ。」
神「理由もなく断った場合は…そうね、霊夢に蛇の呪いをかけてあげるわ。」
早「それでは、私は蛙の祟りをかけますね…フフフ。」
黒い笑みを浮かべながら近づいてくる二人と、じりじり退却する霊夢。
神&早「さあ、どうするの(ですか)!?」
霊「…逃げる!」
神&早「Σ( ̄□ ̄;)」
霊夢は脱兎の如く逃げ出した(とはいっても、ただ神社の周りをぐるぐる回っているだけだが)。そして、それを追う神奈子と早苗。
やがて埒が空かないと判断したのか、二手に別れることにした追っ手の二人。
それを察知した霊夢は、縁側に居た萃香にジェスチャーで隠れていることを漏らさぬよう指示して、拝殿の奥に隠れた。
さて、神奈子と早苗が二手に別れて縁側に来たが、そこには萃香しか居らず霊夢は居なかった。
早「萃香さん、霊夢さんがどこ行ったかお分かりですか?」
萃香「……いやあ、私はさっきからここでお酒ばかり呑んでたから、さっぱり分からないねえ;」
萃香はバレやしないかと冷や冷やしていたが、幸いにも神奈子たちは気づいていないようだ。
神「だとすれば、何処に隠れたのかしらね…。早苗、分かる?」
早「いえ、分かりません。」
神「まあ、良いわ。この次来たとき説得しましょう。萃香、ありがとうね。」
早「ご協力感謝します!それでは。」
二人は萃香に礼を言うと表に戻り、いつの間にか神社に来ていた河童の河城にとり(かわしろ‐にとり)と楽しげに雑談していた諏訪子を連れて、山に帰っていった。