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7相席

「今日は~コロッケパンを手に入れた~」



鼻歌を歌いながら、何の気なしに

視聴覚室を通り過ぎようとして、

その声が聞こえた。



「付き合って、近衛君」



(今、近衛って言わなかったか?)


思わず足が止まる。


「ああ。俺――」


何々?近衛の声がよく聞こえない。


少し窓に近づいて聞き耳を立てる。

盗み聞きは悪いとは思うけど、

年頃の男の子がこんな誘惑に勝てるわけがない。


ていうか何より、近衛の事だし……



「――いいけど、付き合っても」


「え?ホント!?やった!

近衛君、みんな断られてるから

ダメ元だったんだけど、嬉しいっ!」


こっからじゃ相手の子はよく見えないけど

よりによってこんな場に出くわさなくって

良いのに……


さっきまでの気分が嘘のように落ちてく。


(付き合うのか……あの子と)


今まで彼女の存在がない方がおかしいくらいなんだし。


(近衛って、ああいう子が好みだったんだ)


気分は憂鬱で、午後の授業とか、もうまるで上の空だった。




部活時間になっても気合がイマイチ入らない。

それでも部活をしてると、段々と気は紛れて、

サッカーはやっぱ楽しくて少し気が晴れてく。


あんまり友人と馬鹿やってると

たまにマネージャーからやんわり睨まれるけど。


「腹減ったな~」


「ユズ。今日さ、ラーメン食って帰えろう」


「お、良いね。じゃいつものあそこな」


「了解」


ボールを片付けながら中村とそんな話に

盛り上がっている少し離れた所では、

先輩達レギュラーの反省会があっていた。



「じゃ、各自注意された事、次に生かすように。解散」


紺里が号令をして、先輩らがバラバラと

こちらの方に歩いて来た。


「お疲れッス」


「お疲れでーす」


「おう~一年しっかり片付けろよ」


「ッス」


一年はそれぞれの場所で

立ち上がって頭を下げ、その横を疲れきった

先輩達が部室に戻っていく後ろを見送る。


その流れで横を通り過ぎようとした近衛を

中村が捕まえた。


「なぁなぁ、ユズと行くんだけど、

お前もラーメン食いに行かね?」


「……いいぜ」



「よし。ていうかお前も一年だろ、ボール

片付けろよ」


「ヘイヘイ」


タオルを掛けた姿で、遠くのボールを拾う

近衛を見て思わず中村に、


「近衛も誘うのかよ」


「え、ダメだった?アイツ苦手か?」


「苦手っていうわけじゃないけど」


途端、中村はホッとした顔をして、


「じゃ問題ないじゃん」


ニカッと笑うその表情に何も言い返せなかった。


「中村って仲良いんだな。近衛と」


「まぁ、アイツ有名人だけど

気取ったとこ無くってイイ奴だよ。

話しやすいし」


中村って誰にでも

気軽に話せていいよな。


俺もあんまり人見知りとかしない方なんだけど

近衛だけは、なんていうか無理なんだよな、

変な話、緊張するんだ。





店に入るとテーブル席が空いていて

近衛が流れで奥に座ったから、横や前とかに

座りたくなかった俺は、さり気なく中村を

誘導しようとしたのに、ここでも奴は

天然ぶリを発揮してきた。


「あ、俺トイレ行ってくる。大盛り頼んでおいて」


(オイ……嘘だろぉ!?)


立ったままでいるわけにも行かず、

渋々と近衛の前に座る羽目になってしまった。


……並んで座る方がこの場合、変だし。


「お前、何にする?」


「え?えっと。普通のラーメンでいいや」


「分かった。スミマセン~注文いいっすか?」


近衛が店員を呼んで注文してる間、俺は

トイレの方をチラチラ見ていた。


(なーにーやってんだ、アイツは!?)


注文が終わった近衛と俺は無言。

お互い特に仲がいいわけでもなく、それ以前に

そんなに会話らしい会話した事さえない。


こんなに気まずく二人でテーブルで向かい合う形で

いるなんて正直耐えられないんだが……


こんな事なら俺もトイレ行けば良かった。

もう今更そう思っても仕方ないんだけど。


―――沈黙。


(耐えれね~~~~~!)


「あのさ」


「何?」


「いや。ここのラーメン、すげえ美味いんだよ」


「へぇ」


「…………」


「…………」


俺がこんなに必死に話題ふろうとしてるのが

分からないかね?キミには!

何で『へぇ』で、終わらせるんだよ!


と、取り敢えず心の中で絶賛絶叫中。


漸く出てきた中村は、お腹を押さえて出てきた。


「スマン。何か急にお腹の調子悪くって

便所いったら治ると思ったんだけどなぁ。

ヤバそうだから俺、帰るな。お金は明日払うから」


「じ、じゃ、俺達も帰ろう」


俺が立ち上がると、冷静な声で


「無理だろ。もう注文通ってるし、じき来る」


近衛は座ったままそう言った。


「悪いな」


結構辛そうな顔でそんなこと言われたら

中村を責めるわけにもいかない。


ただ……お前とは少なくとも三日は口きいてやらね

とは思ったが。



中村が帰ってすぐ三人分のラーメンが運ばれてきた。

大盛り二杯に、並一杯。


「中村の分のラーメン少し食べれそうなら、

半分分けるが、どうする?」


この状況であまり気が進まなかったけど、

全部近衛に押し付けるのも気が引けて


「いいよ、食べれる」


アイツが取り分けてくれるのを黙って見ていた。


「これぐらいはいけそうか?」


「うん。大丈夫」


まるで最初から二人で店に来たみたいな

錯覚を起こしそうになった。



「杠」



「……え?」



「確かに、旨いなココ」


今、初めて名前を呼ばれた気がする。



「だろ」




おかげで―――こっちは味なんかしやしねぇ。



次回よりタイトルはネタバレ等になっていく可能性あるので付けません。

連載途中なのに、後日談(18禁)の方を既に書き終わってるって事は秘密。

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