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3 驚愕

中学の最後の春休み。


俺は何もすることが無くて

既に何回読み直したか分からない

ヨレヨレのサッカー雑誌を見ていた。



特に読み込んでるページには

近衛の特集記事が載っていて、

保存用にとわざわざ二冊目を購入したくらいだ。


数分眺めて

はぁ、と溜息。


何やってるんだと思わなくはないが

出るんだからしょうがない。


『ここで、また会おう』


その言葉と顔が忘れられなかった。


十四連覇を成し遂げた近衛達とは違い

結局、一度も足を踏み入れることすら

なかったけど。



――いい加減、女々しいよな。


向こうはとっくに忘れてるだろうし、

あの時だってそこまで意味があって

言ったわけじゃないのかもしれないってのに。


(分かってるさ、そんなこと)



それでもいつまでもこんな風に引きずるのは

果たされなかった再会の約束だったからか、


それとも……

あの熱かった夏の全中の思い出が強く余韻として

残っている所為だろうか?






高校の部活、悩んだけどやっぱり

サッカー部に入ることにした。


始業式が終わって、講堂を出ると

校舎は静かなのにグランドでは野球部とサッカー部

だけが練習していた。


自ずと足がそっちへと向く。


「束、先帰ってるわよ」


母親が俺を見つけ、何か言ってる様だったが

俺は練習風景に見入っていて


「あ?ああ」


と曖昧に返事をした。



暫くグランドを見ていたら、不意に後ろから

声をかけられた。


「入学おめでとう。入部希望者、かな?」


振り向くと上級生らしい優しい感じの人がいて、

自分から、マネージャーだと教えてくれた。


「ありがとうございます!そのつもりです

よろしくお願いします」


「うん。宜しくね」


再びグランドの方に目を戻す。


活気があり、選手の動きも良い

悪くない、そう感じるには充分だった。


ただ、ここで全国を狙えるかは分からないけど

がんばろう、アイツの事もこれを期に忘れよう

そう思いながら家路についた。








新入生で入部希望者は土曜日にグラウンド集合と

事前に掲示板で張り紙がしてあった。


しかし、当日は雨で、集合場所は

体育館に変更と各クラスに

サッカー部員らしき人達が連絡に回ってきた。



緊張の面持ちで行くと体育館には

新入生と思しき十五人くらいの奴らと、

その先で柔軟をしてる先輩らが見て取れた。


顧問の先生が来たところで

皆に集合が掛かった。


「……まだ遅れてきてる人がいるみたいだけど、

まぁ取りあえずいっか。じゃ端から

自己紹介してもらおうか」


前日会ったマネージャーの岩倉さんは

手元の入部申請書と俺達の数を見ながら

そう告げた。


「俺は三国中の……」


一人ずつ名前、出身中、希望のポジション、

あと簡単なプロフィールの口にしていく。


いよいよ最後、俺の番と思った時、


「スミマセン。遅れました」


と声がした。


俺は自分の番だったこともあり

緊張してあまりよく聞こえなくて、


「えっと……俺は……」


照れながらも顔を見上げたが

誰も話してる俺の方など見ていなくて

俺を飛び越して後ろにその視線が向いていた。


一様に驚く顔、ザワザワ話す声。


俺も釣られて後ろを振り向き、そして

他の者と同様に固まってしまった。




多分、そこにいる彼以外の全員と同じ。


その反応は当然だった。


中学の時からその注目度は半端なく

コイツが出る大きな大会には、

スカウトが何人もきているという噂があった。


実際、ジュニアユースにも選抜され、テレビで

彼が走り回っているのをアナウンサーや

解説者があれやこれやと批評してるのを

食い入るように見てた。



会いたくて会えなかった記憶の中の男。



遠くから見てるしかなかったスーパースター、



あの近衛 緑が立っていたのだ。



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