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続き?続きって何だ?
自分の唇を指でなぞる。
先刻のキスを思い出して、カーッと
頬が熱くなった。
って、アレの続きってことか!?
そんな事言われてノコノコ
行くとか絶対ありえないだろ!
部屋の時計は午後11時。
いつもならこの時間……
俺は流石に今日は行けないと、
ベッドに入ったが知られていたという
恥ずかしさで眠れそうになかった。
途端、着信音が鳴り
何気なく見やった送信者に
つい目の前の壁を見返す。
“来ないつもりか?”
当たり前だ……
どんな顔してお前の部屋
いけるっていうんだ?
“行く理由ないし”
そう打って即座に返信。
“散々寝込み襲ってたくせに”
再度、着信。
“お前、寝ぼけてたんじゃね?”
ちょっと動揺しつつ返信。
“お前こそさっきのキスで腰砕けてたろ、
そのまま寝れんのか?”
打つの早ぇ!
“ねーよ!”
“バレバレ”
不毛なメールの応酬。
―――バカみたいだ。
すぐ隣にいるっていうのに
全く俺達は一体何をしてるんだろう?
もどかしく想う気持ちはあるくせに
直接部屋に行く勇気はない。
しかし……俺はそうだとして
なんだか近衛はらしくない。
俺は約束した手前自分からは動かない、
お前から動け。
そういう事か?
それまだ続いてるのかよ。
ったく、普段自分勝手に
行使しまくってるのに
何でこういう時だけ律儀に約束守るかな。
何故だか、どうしてもこの件に関しては
近衛は譲る気がないらしい。
「…………ッ」
ちまちましたメールのやり取りに
次第に苛々してきた。
“この意地っ張り”
何だと!!
お前に言われたかねーっての!
おまえだって来ないじゃねーか。
あー埒があかない!
分かったよ、動けばいいんだろ。
「近衛っ!」
勢いで飛び出して、その声色のまま
俺は隣の部屋をノックした。
返事がない。
「なんで返事し……?」
(あれ?)
部屋を入ると中は真っ暗で……
「何で電気つけてないんだよ?」
「俺の顔みたままじゃお前照れて
また意地張るだろ」
「張ってないし」
あ……
「つけてもいいけど?
俺としてはお前の色々な反応みれるし」
イロイロってなんだよ……
「……いいよ、つけなくて」
なんだかさっきまでの勢いが中断されて
急に気まずい沈黙となってしまった。
それは滅茶苦茶長く感じる時間で
俺は耐え切れなくなって、
「俺が……認めたら何か変わるのかよ?」
ずっと思っていた言葉。
近衛の顔が見れないからこそ
言えたモノだった。
「何かって?」
このっ!!
「質問してるのこっちだ!」
「まず何を認めて、何を変えて欲しいか
言わないと見当さえ付かないな。
お前の望みは何だ?言えよ」
嘘つけ、わかってるくせに!
俺の気持ちも、何を望んでるかも全部。
そうまでして、言わせたいのか?
サド野郎。ああ、認めれば良いんだろ!?
「お前が好きだ、ずっと好きだったッ!
気持ち聞きたい!てか言えよ!」
「で?」
酷く落ち着いて聞こえる近衛の声。
『で?』
だと?
この言葉を口にするのにどれだけ
勇気振り絞ってると思ってる?
長年想ってきた相手でしかも男の
お前にだぞ!?
「それだけ?」
もう良い!
言うだけ言ったらもう後はどうでもいい!
「俺を好きだといえ!女と別れろ!
これで満足かよ!?」
あまりに勢いで言った為、息が切れて
大きく肩で息継ぎをする
羽目になってしまった。
「…………」
やっと決心して、半ば強引に言わされたのに
今度はだんまりかよ。
クソッ。
―――やっぱ言うんじゃなかった。
悔しい、スゲー悔しい。
物凄い後悔に苛まれても
もう遅いけど、バカにするならすればいい。
少しでもコイツもそうなんじゃないかって
思っていた自分にさえ腹が立つ。
なんだかそう思うと
涙が出そうになってきた。
「まるでケンカ腰だな。
散々焦らされたから、
どこまで答えようかと考え中」
ここまできてその曖昧な態度って何だよ。
「はァ?ふざけんなっ!
お前の言動にどれだけ
振り回されたと思ってるんだ?
いい加減キツイんだよ、応える気がないなら
俺に期待持たせんなって!」
あまりの怒りで俺が怒鳴っても
近衛は反して冷静そのもので。
「どっちがだ?
やたら思わせぶりな態度をみせるくせに
少しでもこっちが反応すると全力で
否定してきたのはお前の方だ」
「……そんな事ない」
いや、俺は……全然悪くないはずだ、
多分だけど。
なぁ、と低い声で近衛が呟く。
「俺が何故わざわざここに来たと思う?
何故たまたま親父の初恋の相手が
分かったからといって
あの優柔不断な男を強引に引き合わせて
結婚までこぎつけさせたと思う?
お前疑問すら感じてなかったろ
少しは考えたらどうだ?」
「どういう事だよ?」
「チッ。まだ分からないか?
こっちは出来うる限りの
労力使ってんだ。
それに見合う見返りを望むのが
そんなに悪いか?
労いの言葉くらいきかせろって話」
「え……」
「俺は意味が無い事は何一つしない主義だ」
つまり全部……
「俺の所為?」
「やっと分かったか、うすらボケ」
この際ウスラなんとかでも別にいい。
「……ホントか?」
何だろうこの込み上げてくる
嬉しさっていうかなんていうか……
「ああ。
で、仕切り直し。
もう一度、ちゃんと告白しろよ」
大分暗闇に慣れてきた目は今、ちゃんと
近衛を捕らえている。
大きく息を吸って、
「好きだ、近衛。ずっとずっとそうだった」
初めて吐露した台詞は全てのモヤモヤと
不安を吹き飛ばすほどの清々しさを持って
漸く口にできた。
「足掛け三年かよ、俺も大概お前に甘いな」
近衛のあの目が俺を見ている。
「……何でこのタイミングで電気?」
「お前見ながらしたいからだろ」
「死体?」
「そんなボケいらないから」
だって――
初めてお互いの意思をもっての
口付けはあまりにも甘くて濃厚で。
冗談でも言ってないと
スゲー恥ずかしいんだよ。
好きだ、近衛。
近くで色んな顔を見せるお前が
出会った時以上に好きになった。
まだ信じられないけど、徐々に
お前がちゃんとこの手にあるんだと
慣れていけばいいよな?
そんな事を考えながら、俺は再び
近衛と唇を重ねた。
次回で番外編の予告ができればと思っています。




