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「わ!大丈夫?危ないよ、そこ」
「……スミ……マ……セン」
答えたものの起き上がれそうにない。
失礼ながら、突っ伏したままの格好で
俺は岩倉さんに応答していた。
「……ゲソ痕、二つ付いてるね」
「犯人は日野先輩と中村です」
そういう岩倉さんもさっき、ちょっとだけ
踏みかけてましたよね?俺の事。
いや、良いんですけど。
グランドへ降りる階段脇に倒れてる
俺がそもそも悪いんだし。
「一つは絶対監督かと思ったのに」
「その人には、次見かけたら頭を踏むと
警告されました」
ハハハハハと爆笑の岩倉さんは
俺にタオルをかけてくれた。
「練習キツイ?」
「……いえ」
「それだけ期待されてるってことで
良かった、良かった」
成程、
そのポジティブ思考頂きます。
癒し系の岩倉さんに少しだけ
救われたけど、だからって
この身体の痛みは、すぐにはなくならない。
「岩倉~死体と喋ってる暇あったら、
来期の予算書類早く」
紺里め……折角の癒しタイムまで
邪魔するか。
「ハイハイ。じゃ行くけど
少し転がって場所移動したほうが良いよ」
転がって、ですね?了解です。
「イテテテテ」
自室に入ろうとして、隣の部屋が
目に入った……が、
駄目だ。
今日は流石に疲れてて近衛の部屋まで
辿り着く余裕はなさそうだ。
今日帰ってから夕食の時に会っただけで
まともに見れてないから、もっと
ちゃんとアイツの顔みたいけどな。
「痛っ……」
身体のあちこちが軋んで悲鳴を上げている。
やっぱ、本当ムリか。
今すぐにでも寝ないと身が持ちそうにない。
(おやすみ、近衛。また明日)
(ヤレヤレ、今日は昨日より大分マシだった)
今夜は、近衛に部屋に行けるなと、
ぼんやり考えながら洗面台で歯を磨いてた時
「結局、昨日何人から踏まれてたんだ?」
(うおっ!)
びっくりした。
いつも気配を消して背後から現れやがる。
全く心臓に悪いったら無い。
「六人だよ……正確には五人か」
「差分は何?」
「中村から二度踏まれた」
近衛は流石、中村だなと感心していたが
そこ全然、感動するポイントじゃないから。
「こっちのチームキツイか?」
「別に、全然余裕」
お前がくれたチャンスだ。
弱音を吐く訳ないだろ。
「ふーん」
というか、ここはやっぱり
お礼を言うべきじゃないだろうか……
知らなかった時ならいざ知らず、
聞いた以上知らないフリで通すのも
俺的にどうかと思うんだ。
「あ、あのさ、近衛」
「ん?」
今、後ろで壁にもたれて、腕組みをしたまま
鏡越しで目が合っている。
なんかこんな風に話すの
あの試合以来だよな。
あ、ヤベ……なんか緊張してきた。
つか、何時から居たんだろ?
全く気がつかなかったけど。
「紺里から聞いた。その……えと、
あ、ありがとう。
一応ちゃんと言うべきだと思って」
クスっと声が漏れた。
見ると何故か近衛が笑いを堪えてる。
「……?」
何を笑ってるのか、俺いま
笑うような事、言ったっけ?
「どんだけ人がいいんだ?お前」
「え?」
「あの試合、俺は勝つ気だったぜ?
負けるつもりで試合なんか出たことは
一度たりともない。
別に俺が直接シュートを狙わなくても
勝算は十分あった」
「……近衛?」
「結果的に負けはしたが、点を入れる気
満々だったし、お前が点を入れられなかった
こと自体が狙いじゃなっかったしな」
「どういう意味だ?
じゃ何であんな約束したんだ?」
「例えあの試合で点を入れられて
勝負に負けたとしても、お前は自力で
レギュラーに入れるだろ、違うか?
それだけの実力があると
俺は中学の時から認めてる
じゃなきゃ……」
「!!」
その言葉は息が詰まるほど嬉しかった。
近衛とのあの時の出会いは
俺にとってかけがえのないもので、
それをこの瞬間、同じだと言われたような
気がしたからだ。
でも、
もし負けていたら、紺里の言うとおりに
試合は動かないといけなくなるんだぞ?
すげー危ない賭けじゃん。
そういうと、近衛は顔色一つ変えず、
「そもそも選手にとって監督は絶対だ。
あの人、変だけど良くも悪くも
他人をよく見てるよ。
無駄な指示は出さないし、いけると
思ってる時は、俺らに任せてるだろ。
難点といえば熱くなりすぎての意味不明な
暴言くらいか」
いや、そこはかなりのネックですけど?
それにと、近衛は笑った。
「まぁ、いつも言葉が聞こえるとは限らないし
歓声や岩倉さんお手製のマスク装備されたら
ますます聞こえづらいだろうな。
……抜け道は沢山あるんだぜ?」
飄々と言い放つ言葉に呆れるというか
凄いと思ってしまうというか……
カッコ良過ぎじゃない?
え?そう思うの俺だけかよ?
「でも押してくれたことには変わりない……」
ヤレヤレと舌打ちをされた。
「少しは人を疑ったらどうだ?」




