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「何?」
「いや……遅くなったけど、
俺、Aチームに入ることになったから。
その、宜しく」
合流して数日経ってるし、
今更感アリアリなんだけど。
一応、一年でAチームってのは
俺達二人しか居ないし、コイツが先だから
ホラ、挨拶くらいはしとかないと。
それに―――
「……みたいだな。
だからって、即レギュラーって
訳じゃないから気を抜くなよ」
人が折角いい気分だったのに……
今はまだ補欠扱いだけど、そのうち
正式メンバーにって意気込みだけは
誰にも負けない。
「分かってるよ!それくらい」
気分が台無しだ。
コイツに言ったの間違いだったとムッとして
出て行こうとしたすれ違いざま、
「日野先輩、今日三年の先輩に告られてさ、
その理由が“可愛いから”って言われて
荒れてたんだと、岩倉さん情報」
「え?そうなんだ」
「手。冷やしとけよ」
「……うん」
手の事、気が付いてたのか。
「取り敢えず、おめでとう。頑張れ」
と、俺の頭に手を置いてそれから
奴は脱衣所に消えて行った。
俺はその場に俯いたまま固まってしまった。
バカ……
だから嫌いになれないんだよ。
というか、本当は知ってるんだ。
お前が紺里と裏取引してたって事。
紺里には、
『言っておくが、お前が向いてなくて、
無理と思ってたら最初からこの話に
乗ってないからな』
と、前置きはされたけど。
『もし、この試合で杠が0点に
抑える事が出来れば、来季からの
レギュラーメンバー入り考えますよね?
その代り、アイツが点数入れられたら
今後一切、試合中は監督の指示通りに
動きますよ』
お前が試合前、そう持ち掛けたって。
『別に近衛がシュートするともしないとも
言ってないし、だからといって
奴が手を抜いてるとも思わなかった。
だから、無効にはならんが、
にしても、してやられた』
とレギュラーチーム入り宣言された日、
紺里が後ろを向いたまま、
ボソッと洩らしてくれた。
お前って行動の裏にいつも何かあるよな?
だけどそこに特別な意味はあるのか?
―――なんで期待させんの?
なんで、すんなり終わらせてくれないんだよ?
一体何なんだ?お前は。
諦めようとすると、いつも
こうやって俺を惑わせてくる。
お前が何気なくやってる事すら
俺は全部自分の良いように
考えてしまいそうなんだよ。
気が付くと俺は今日も
近衛の部屋の前に立っていた。
近衛は朝が早い分、夜はかなり
早く寝てることは知っている。
室内の電気が消えてるのを確認した後、
慣れた動作で扉を音がしないように開け
ゆっくりとベットのそばに近づいた。
規則的な寝息。
もう幾度目かの事だから
暗闇でも感覚で分かる。
俺はそっと近衛に口付けて、心の中で
(お前が好きで好きでたまらない)
と、呟いた。
寝息を聞きながら、その日も俺は胸が
押し潰されそうな感情に囚われて……
相手は男。この恋は普通じゃない。
だから簡単に言えない。
だから簡単に諦めきれない。
声に出せないのが辛い。
だけど又、俺の思い過ごしだと
指摘されるのが怖いんだよ。
なぁ、今までのお前の言葉って
冗談なんかじゃなかったのか?
からかっていたわけじゃなかった?
俺が素直に言えば、お前も応えてくれる
望みあるのか?
俺がお前のクラスの女子に付き合えないって
ハッキリ言ったこと知ってんのかとか。
彼女とはどうなんってんの?とか。
……俺の事どうしたいんだよ、とかとか。
聞きたいことは山程あるけど
聞けないこともそれ以上にあって。
素直になれないのは失いたくない裏返し。
それでも確証は欲しくて。
いい加減、本当の心を見せて欲しい。
今回の事だって紺里が、俺だけ知ってんの
ヤダからと口にしなければ、きっと
近衛から聞くことが出来なかっただろう。
いつも、いつもそうだ。
肝心な所は見せない癖に、
俺の心を捉えて離さないのは、
普段、憎まれ口を叩くのに、万事において
抜かりない所。
始末が悪いんだよ。
自覚しろっての、バーカ。
(どうすりゃいいんだよ、俺)
近衛の顔が憎らしくも愛しくも思えて、
その夜は、いつも以上に近衛のそばから
離れる事が出来なかった。




