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試合がもうすぐ始まろうとしていた。
チーム構成は奴があの時言ってた通りのモノで。
しかし、よくあの紺里が近衛の提案に乗ったな。
それとなく岩倉さんに聞いてみると、
「監督は意味ない事はしないよ。
あの人なりに何か思惑があるんじゃないかな。
だから、了解したんだと思う」
だ、そうだ。
意地でも、負けたくなかった俺は、
事前に日野先輩に、
『近衛がこの試合でどっちがFWとして上か
皆に立証してみせるとかなんとか言ってましたよ』
と、耳打ちしておいた。
我ながら姑息な手段だとは思ったけど、
日野先輩は思った以上の反応を示して、
『試合が始まる前にシメてくる』
等と、言い出した時には流石にどうしようかと
思ったくらいだったけど。
日野先輩は猪突猛進型で……
いやいや、一本気な性格で、
冗談を言ってるのか
本気で言っているのか分からないから、
取り扱いが非常に難しいという事を
うっかり失念していた。
こういう熱いところが女子に大人気
らしいけど、一後輩からしてみれば
かなりやっかいな危険物だ。
ヤベ……言う相手間違えたか?
そんなこんなで始まったチーム対抗。
さて、どんな手でやってくる?
こっちの布陣はエースストライカーの日野先輩。
その攻撃力は半端無い。
DFも守備力に定評のある阿部先輩と岡本先輩達
がガッチリ俺をサポートしてくれている。
お前が思っている程、一筋縄じゃいかないぜ?
前半始まって十分。
(アレ?)
暫くしてある事に気が付いた。
(あ、やっぱり……)
何故か近衛が全くシュートを打ってこないのだ。
今、打てば決まっていたかもしれない
場面にあっても自らシュートを放つことはなくて。
後半になってその仮定が段々
確信に変わっていった。
あれだけのプレッシャーをかけられても
僅かな隙を見つけては外し、その分
フリーになってるヤツにパスを回している。
つまり、言い換えれば、
ゴールしようと思えば出来るって事だよな、ソレ。
俺との勝負に是が非でも勝ち拘るなら
自分が前面に出れば良いはず。
だけど近衛は決してそうしようとはしない。
それ以前に、
シュートレンジにすらあまり近寄って
来ようともしてない。
そのポジションはまるで―――
日野先輩がバックパスをした時ボソリと俺に、
「何だありゃ?まるでリベロじゃん。
勝負云々はどうしたんだよ」
そう、まさにそんな感じ。
同じ周りの一年の動きをみながら
パスをしたり、助言をしながらゲームメイクを
かってでていた。
あくまで、DFに重点を置き、時々攻撃に
参加はするけど決定打は他に任せる
その様子は、さながら選手兼監督。
実際、普段あまり喋る方では無い近衛が
大声で皆に声をかけている。
後半戦に入ってからもそのスタンスを崩さず、
一年Bチームも段々、前半と
比べものにならないくらい動きが良くなっていた。
紺里さえ、
「どーした、先輩方、お疲れかぁ?
俺的に押されてる様に見えるけど、見間違い
だったらスマン、スマン」
と、口を出してきた。
だからといって、俺達が依然優勢であることには
変わりはない。
それでも相変わらずピッチでは、
近衛のよく通る声が、指示を飛ばし、
メンバーが各々が考えて行動するように
極力最低限度のモノで誘導するだけ。
“俺に勝ちたくないのか?”
―――お前から言い出したことなのに。
「中村、サイドからいけ。谷山そのフォロー!」
―――所詮、お前にとって俺はその程度なのか?
「関、周り見ろ!誰がフリーだ!?」
―――この勝負の意味はなんだ?
「惰性で動くな、今何で失敗したか頭で考えろ!」
勝ちにこだわっていたのは俺の方。
近衛はそれよりも優先して、チームを
引っ張ろうとしている。
サッカーは一人じゃなくチームプレイ。
それを良く分かってるのはアイツで。
それを実践でやってのける近衛が
どれ程、サッカーが好きか、
その想いがチーム一人ひとりに
波及してるか伝わって来る。
だからこそ皆、押されていても
生き生きしてて楽しそうに映った。
羨ましかった、凄く。
なんだよ……
どうして俺だけこっちなんだ?
……俺もそっちに入りたかった。
紺里は時々俺達の方のチームにだけ
声を掛けてきたが、罵声ではなく
その様子は終始楽しそうで、満足気にも見える。
最初は交換条件でも出されて
シュートを打つなとでも
言われたんだろうかと勘ぐりもした。
だけど、よく考えてみれば
きっと何も言われなくても
コイツならこうしただろうと、
いや、らしい……よな。
以前からこういう傾向にはあったし。
本来の試合の時以外、近衛は表立って
出て来ず、自らをセーブしてる感すら
あったじゃんか。
紺里は、もしかしたらこういう意図があって
許可をしたんだろうか?
残り時間、五分。
スコアは3-0。
こっちの二、三年の主力チームが勝っている。
これは練習試合、ロスタイム設定は無い。
もう一年チームの負けは決定的だ。
だけど、それでも最後まで奴自身が
俺のゴールを狙うことは無かった。
俺は試合途中から泣きそうになっていた。
何だかよく理解できない感情が込上がってきて。
悔しいとかそういうのでは無く、
ましてや自分との約束を軽んじられたからとか
そういうのでは決して違ってて……
―――近衛が。
直視できないくらいに、眩しかった。
やっぱり……
俺、コイツが好きだ。
カッコイイんだよ、こんな事、
平然とやってのけるお前が。
バカみたいに
俺ばかりが好きになっていくだけで……
何であんな約束してしまったんだろう。
ホイッスルが鳴り、ミーティングが終わった後
漸く近衛と目が合った。
「負けは負けだ。今後一切、お前には
ちょっかい掛けない」
「…………」
潔く言い切った後、振り向きもせず
部室へと向かっていく後姿に
抱きつきたい気持ちを抑えるのに必死だった。
ただ、無言で、
(お前が好きだ、近衛)
そう胸の内で告白するしかなくて。
やたら挑戦的な言い方で煽ってくると思えば、
今度は今度はこんな感じで肩透かしを食らう。
俺はいつも近衛に翻弄されっぱなしだ。
どうしてこんな約束を俺に持ちかけてきた?
それは最早、一つの答えしか当てはまらない。
今にして思えば、近衛は最初から
勝つ気なんてなかったんじゃないだろうか?
俺に諦めさせるために、今回の件を
持ち出したんだろうな、と。
だけど……もうそんな事どうでもいい。
例え、本当のお前を俺に見せてくれなくても
俺の気持ちは揺るがない。
俺はどんどんアイツを好きになっている。
お前を見る度、声を聞く度、加速的に。
それは前と比べようもない程だと
今日痛感させられた。
悪い、お前の思惑は思いっきり外れたみたいだ。
ゴメン―――近衛。
今日明日中に主役二人のイラストが上がるそうなので
(本当かな……笑)よろしければサイトの方もご覧下さいとの事です^^




