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“今度の土曜日何か用事ある?”


受信相手は三組の例の子。


練習は午前中で終わりで、あとは特に

何も用事は無かった筈。


“部活が午前中あるくらいかな”


と、返信。


“じゃ、映画一緒にいかない?”


映画かぁ、最近行ってないな。


というか彼女に会ってちゃんとハッキリ

させとかないとダメだ。


その気もないのにダラダラと

こういうの続けるの絶対よくない。



中村は付き合うだけ付き合っとけばいいじゃん

とか簡単に言うけど、

女の子を適当にあしらうとか俺的に無理。


彼女だってお互い好き同士の方が

良いに決まってるし。


俺は揺るぎ無い一番がいる。

だから兎に角会って言わなきゃ、

俺には応えられないと。


“いいよ”


送信OK、と。





『俺が好きなら手を切れば?

というか、もう他人のモノになるなよ』



違うから。


別に近衛が言ってたからとかと全然違うから。


そんな言葉、別に頭の片隅にもないし、

言われて嬉しかったとか、

これっぽっちも思ってもいないけど!


「…………」


つか大体、どういう意味で言ったかも

分からない。


もしかしたら……本当にもしかしたら、


俺の事、好きなのかも

って考えもしたけど、それはあまりに

自分に都合よすぎで。


男同士、女にモテまくり、どう差し引きしても

俺を好きになる要素はゼロ。


そして、その仮定が一番しっくりこない理由は

近衛の態度がおかしい事にある。


だってそうだろ?

自分の事相手が好きだと知ってるなら

あんな回りくどいやり方しなくていいじゃん。


相手にしないか、同じ気持ちで

応えても良いというなら、そう口にすれば……


“俺も好きだ”


って、言ってくれたら俺も、 


俺だって……素直に言えたかもしれないのに。




確かめてみる?



“俺の事、好きか?”って。



…………聞けるわけねー!!!



鼻であしらわれそうで怖い。

最悪、マジで校内放送

とかされたらどうする!?


とかとか考えだしたらキリがない。




実際、近衛はあの夜以来、俺に絡んで来ない。


義兄弟以前の素っ気無さに戻ってる感すらある。


面白がって、からかってみただけ?


何かしらの陰謀で

俺に嫌がらせをしてる?


気のある言葉を言ってみたりして

様子を窺いながら報復を考えてるとか。


それが何なのかはサッパリ不明で、

近衛にどんな得があるかは皆目見当も

付かないし、なにか嫌われるような事

した覚えもないけど。


でなきゃ、アイツの行動に

説明が付かないんだよな。


それとも、


俺を不憫に思った神様のいたずらか、

それとも奴はやっぱり誰かに憑依でも

されていたのか、はたまた二重人格者

なのか……?


どれが正解なんだろう?


……ん?まて、この中に正解あったら怖くね?













「でさぁ、映画なに見る?」


何故、お前がその台詞を口にする?


「中村、俺はお前と見に行くなんて言ってない

けど?ていうか何で知ってる?」


先輩達がぼちぼち集まりだした時間帯、

やること一杯あるのに、中村は

俺をみるや、やぁやぁとご機嫌で絡んできた。


「まったまた~ユズちゃんたら」


気持ち悪い……その肩にまわした手を

どけろって。


怯むという意味を知らない中村はエヘヘと

満面の笑みで更にじゃれてくる。


「Wデートじゃん。俺はこの前の海一緒に

行った子に誘われたぞ」


ウソだろ……面倒くさいお前も一緒かよ。

聞いてないぞ、こっちは。


「あ!聞いて聞いて~近衛ちゃん!

俺、今度の土曜日デートなんだ」


「良かったな」


うわっ!ヤベぇ、また中村の悪い癖が。


「中村っ!良いから早く柔軟やろうって」


コイツが変なこと喋る前に

口を押えて連行しようとしたんだけど

思いの外、力強い。

というか嬉しさがそれだけ半端無いのか

俺の腕を振り解き、更に近衛に報告を続行する。


「まぁ、残念ながら

今回は二人っきりじゃなくって

ユズんとことのWデートなんだけどさ」


「……へぇ」


それは楽しみだなって、今、俺を見て笑ったか?


背中にゾクリと寒気を伴う笑い方で。








やっぱりというか

週末のWデートは予想通り散々だった。


なかなか彼女と二人っきりになれず

件の話が切り出せなかった。


無論、原因は中村。


皆の前でするような話じゃないから

こっちは気を使ってるのに、自分一人では

女の子との間が持たないらしく、

話そうとする度、二人っきりでいやらしいとか

何かにつけて割り込んできやがる。


中村、お前は良い友達だし、

そんな所も可愛いと思ってるよ。


だけど、さ。



今は黙ってろ!!!!!!!!!!!






「束、今日空いてる?」


最近、その言葉よく耳にするけど

流行ってんの?ソレ。


もう昨日の今日でグッタリしていた俺は

朝食後、テーブルに突っ伏していた。


結局、肝心なことは言えなかったし。

今後の中村との付き合いを

真剣に考えなければいけない。


「あ、うん」


「部活もないのよね?」


「ないよ」


元々今日は監督の紺里の用事の為、

部活は中止だと大分前から決まっていた。

昨日の疲れで俺も出かける気さえ

起こらなくて丁度良かった。


「遊ぶ金もないし、家で

ダラダラしようかと思ってるけど何で?」


「良かったぁ、電話業者の人が来るんだけど

私達出かけるのよ、今の時期混んでるらしくって

今日しか来れないって言われたの。

何時になるか分からないから

お留守番ってことで家にいて欲しいんだけど

頼める?」


母さんは新婚よろしく近衛のお父さん、もとい

義父と一緒にデートに行くのだという。


「別にいいよ」


「悪いね、束君。緑は用事あるって

朝出て行ったきりで、申し訳ない」


済まなそうに謝罪する義父に、


「全然OKです。ゆっくりして来て下さい」


と、笑って送り出した。


そういえば近衛、朝から姿見ないな。

まぁ、だから俺もこんなとこでのんびり

してられるんだけどさ。


たまには俺も息抜きしたいから助かる。



部屋に戻り雑誌を読んでいてどれくらい経った頃

だろうか、玄関の開く音がした。


業者かとも思ったけど、それなら

呼び鈴を押す筈。


まさか近衛が帰ってきたのか?

確かめようと部屋を出た瞬間、

一人じゃない事に気が付いて慌てて戻る。


「今日、誰もいないんで気兼ねなく、どうぞ」


いるいるいるいる。ここにいまーすよー!

俺がいること知らないのか?近衛のヤツ。


にしても、


誰、連れてきてんだよ、クラスのダチか?

義兄弟だって隠してるから例え中村だとしても

出るわけには行かないんだけど。


内心おどろかしてやりてぇ、という悪戯心を

ククッと笑い、堪えていた。


「え?本当に?」


(!!!)


その声には聞き覚えがあった。



「階段上がって奥が俺の部屋なんで、先に

行ってて下さい。飲み物持ってきます」


「うん。待ってるね」




間違いない―――それは、あの先輩だった。



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