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眠い……眠すぎる。
意識朦朧としながらも食べ盛りだから
朝メシを抜くことは出来なくて
ご飯をモグモグ、ぐーぐー、モグモグ、ぐー
「束。寝るの?食べるの?どっち!?
きちんと食べなさい。ごぼしてるわよ。
もう!夕べ、遅かったの?」
「あーいや。別にスミマセン」
モソモソと食べながら、なんとか
食べることに集中するよう努める。
昨日アレから近衛を振り切り
部屋へと逃げ込んだわけだが、
いっぺんに色んな事が起こって
あんな状態で寝れるわけがなかった。
「あ、おはよう、緑君」
「おはようございます」
出た。
諸悪の根源。
「ご飯、食べていくわよね?」
「ハイ」
その声に目がバッキリと覚めた。
至極当然のように隣に座る近衛をチラ見する。
いつも通り淡々とした食事風景は
まるで昨日のことが俺の夢だったと
いわんばかりだ。
自然と近衛の唇に目が行く。
俺、昨日コイツと……
「束!また、ごぼしてる!」
母さんの声に気が付いて手元をみると
持っていたお椀が斜めに傾いてて
思いっきり味噌汁をこぼしていた。
「あっ!ヤベェ」
近衛はそんな俺を冷ややかに一瞥した後
また何事もなかったように朝食を
済ませ、母さんにごちそうさまと
言って、さっさと学校へ行ってしまった。
(…………)
ちょっとちょっと?何だよアレ。
昨日の今日だろ。なんかリアクションないの?
気まずいなぁとか、照れちゃぜとかそういうの!
何で俺だけが動揺してるわけ?
え?え?俺、からかわれたのか?
もしかして、俺の夢オチ!?
――――いや、それはない、か。
だって……アイツの舌の感触が残ってる。
あんな強烈なキス、したのも、
されたのも初めてで。
だから誰かとの記憶をゴッチャにしている
ワケじゃないことだけは明白。
だいたい高校生であんなのしてくるって
どれだけ慣れてるんだよ。
知らない誰かとお前は色んな経験して
きたのかよと思うだけで
凄く嫌な気分になる。
「束ちゃん……何時まで食べてるの?
遅刻してもいいなら昼ごはんまで食べてく?」
いつもの表情、いつもの近衛。
昨日のアイツはまるで違ってて、
欲を露わにした見たこともない
“知らない奴”に思えた。
『そんな俺も嫌いじゃない、違う?』
……そうだよ、悪いか。
寧ろ、強引な行動に自分でもどうかと
思う程、お前に惚れている自覚を
させられたくらいだよ。
あまつさえ、俺を翻弄するような
物言いにクラクラさえした。
アイツがドSなら俺はドMかもしれない。
「はぁぁ」
マジ勘弁して欲しい。
近衛が現れてから俺の生活は
振り回されて乱されてばかり。
いつの間にこんなに好きになっていたんだろう。
なのに、当の原因元は平然としてるとか
ズルくない?
ミーティングしてるその姿を
恨めしげに眺めて、もう一度小さく溜息。
……なぁ、お前はどうなんだよ?
コイツは俺の事を好きだとは言わなかった。
いや多分、近衛は俺を少なくとも好きとか
そんな風には思ってはいないだろう。
それくらいは分かってる。
じゃなきゃ、
『お前が別れて欲しいと
頼むなら、考えなくもないぜ?』
あんな高飛車な言い方するもんか。
その証拠に、相も変わらず例の先輩と
一緒にいる姿を見かけるし。
「も~近衛君たら」
そんな先輩をみて笑う近衛。
昨日みたいにニヤニヤした感じと
まるで違う。
ムカムカムカ。
知られる前より今の状況の方が
すげぇ辛い。
だって、俺の事わかった上で
付き合ってるって事だよな?
つまり、それだけ俺は
重要視されてない訳じゃん。
それなら……俺の気持ち気がついても
知らないフリで通せよ。
何でキスなんかすんだ?
期待するだろ。
近衛の言動が何を意味してるのか
全く理解できない。
『可愛い』
『現実にしてやろうか?』
とか、夕べ思い出しただけでも体温が4℃は
上昇しそうな程、散々セクハラしながら
耳元で囁きまくってたくせに!!
昨日のお前は一体誰だ?
二重人格かよ、ゴルァ!
「うおぉーわーかーらーんー!」
「そこ、うるさいから」
紺里から怒号が飛ぶ。
……しまった。つい心の声が
また、うっかり口から出てしまっていた。
部の皆が俺の方を見て笑っている。
こんな時ですら、近衛は俺の方を
振り返ったりとかしない。
(無視すんなよ、ばーか。
何を考えてるんだ、お前)
遊びで関わってくるだけなら、やめて欲しい。
同情心で相手にされてるとしたらもっと嫌だ。
俺には逃げる場所がない。
学校でも部活でも、そして家ですら
お前と一緒なんだぞ?
いつも目線はいつもお前を追ってる。
その言動は良くも悪くもどんなことでも
俺に影響を及ぼしてる。
俺はそんな融通が利く程、お前みたいに
経験も余裕もないんだよ。
それとも、そこまでして単に俺を
泣かせたいって思ってるだけ?
ひょっとして、
俺ホントは嫌われてる、とか?
え?マジで??




