2 熱夏
例の15番だ……
何でこんな所に立ってる?
いくらFWといえど、自分のゴール守らなくって
良いのかよ。
もしかして……カウンター狙いか?
そう思って、改めて見るとソイツはじっと俺の方を
見ていた、いや明らかに睨んでやがる。
「……何だ?コイツ」
流石にムッとした。
(はぁ?試合中に喧嘩売ってんのかよ)
こっちも睨み返してやると、あろうことか
ニヤリと笑った後、踵を返して自分の陣地の援護に
戻っていった。
(今の……ナニ?)
このままいけばPK戦に持ち込めると踏んでいた。
PKになればこっちにも分はある。
後はロスタイムを残すのみだ。
この時間に入ってからやたら守る時間が長い。
要は押されているのだ。
向こうは連覇かかってるし、その猛攻は
半端無い。
審判が時計を気にしてる様子からも
もう時間も少ない筈、ここを乗り切れば……
サイドから9-15のワンツーで
ツートップの9番がセンターリングを上げる。
(最後はやっぱり又、15番でくるのか?)
え?奴は何処だ?いない?
こうもゴール前が混戦していたら
見えやしない。DF何やってる。
センターリングをヘディングで合わせられ
ヒヤッとしたが、パンチングで逃れた。
瞬間、ボールが消えた。
次にボールを見た時には
時すでに遅く俺が反応した真逆で
ゴールネットの揺れるザクッっとの音がして、
振り向いた先にボールと15番の後ろ姿。
全然、この一瞬ボールもアイツの動きも
見えていなかった。
まんまと相手側の陽動作戦にやられた、
完全な俺の失態だった。
結局これが決勝点となり、俺達は準優勝という
形で大会は幕を閉じた。
目の前で大歓声を浴びている相手チームの
喜ぶ顔と俺達の泣き崩れる顔の対比。
勝負の世界では勝ち負けがある以上
仕方がないといっても、その悔しさだけは
一生忘れることはないかもしれない。
「最後、油断したな」
その場でうつ伏せに倒れていた俺に
真上から声が聞こえた。
逆光で顔が見えず、差し出された手を
取って立ち上がった時、それが背番号15の
近衛だと分かった。
「お前やるな。
こんなに点入れにくい奴、初めてだった」
そういって笑った顔が、さっきまでの
印象を変えるには充分だったけど、
悔しい気持ちとは別に湧いた気持ちの変化に
俺は居心地悪くて、握手された手を早々に
離してしまった。
「また、ここで会おう」
振り向いてアイツが両手を上げた瞬間、
観客席の歓声が一段と高まった。
ピッチからベンチに戻る間、色々インタビュー
とかされたけど、何も覚えてない。
アイツの“また、ここで会おう”
その言葉ばかりが頭に一杯で。
それから俺達は結局一度も全国大会へ進出することは
出来ず、テレビで近衛の活躍を見てるだけで
中学のサッカーは終わりをつげた。




