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「お前、どうした?その目の下のクマ」
部室で会うなり、中村が驚いた顔で
俺を覗き込んできた。
「別に、何でもないよ」
「試験でもないのに一夜漬けとかしねーしな。
……ああ、もしかして溜ってんのかぁ?
夏に一緒に行ったじゃん海。楽しかったよな~
で、彼女とアレから何もしてねぇの?」
いくら今、先輩達が未だ来てないからって、
色々他人が突っ込みたくなるような発言
軽くしてんじゃねーよ。
ほら見ろ、皆チラチラこっち見てんだろ。
「彼女じゃないって何度言えば分かるんだよ」
「え~海でイチャイチャしてたじゃん」
「してねーよ」
結局、夏に中村のクラスメートの子から
海に誘われて、断りきれず彼女の友達と
俺と中村で行ったけど、はしゃいでいたのは
専らコイツであって、俺じゃない。
「ビキニ、ガン見してたクセに」
そ……それは、否定しないけど。
だって、そりゃ見るよ。第一ああいうのは
見せる為にあるんじゃん、違うかよ。
元々、女の子好きだし。男の性だろ。
でも、それでも、近衛を想う気持ちとは
全然違うんだ。
もっと別の得体の知れない感情が湧くんだよ、
上手く表現できないけど。
「海?ビキニ?何の話だ?」
いつ入ってきたのか分からない自然さで
割って入ってきたのは近衛。
「何でもな……」
話を遮ろうとした俺を更に中村が遮った。
「聞いてくれよー近衛。ユズ、夏休みに
女の子達と一緒に海行ったんだけどさぁ、
その子のビキニ姿が目に焼きついて、
寝れない程溜まってるんだって」
「はァ!?」
どこをどう繋げたらそうなるんだ?
半分以上、いや、全部お前の妄想だろう?それ!
俺は余りに突拍子も無いセリフに
怒りを通り越して、固まってしまった。
よりによって、近衛に言ってるし。
近衛は俺を冷ややかな目で、
「そんなに気になるなら又、海に一緒に
行けば?彼女なんだろ」
とか、サラリと言われた。
「違うって、彼女じゃない!」
コイツに誤解されたくない。
「……でも、イチャイチャして」
「してねーよ!バカ、中村!!」
もう頭に来て、俺は部室を飛び出してしまった。
ランニング中も筋トレもゲームの時も
一切、中村と目を合わせなかった。
悪気が無いのは分かってる。
純粋で冗談好きで、ムードメーカーで。
俺がきっと過剰に怒ってるだけ。
中村は多分、悪くない。
それでも今日は話したくなかった。
『海にいけば?彼女なんだろ』
その言葉を近衛から言われたショックを
全部、中村の所為にすり替えて、怒りの
矛先を向けているだけに過ぎないって
どこかでは分かっている。
要は八つ当たりだ。
部屋に帰って自室にこもり、そのまま
ベットの布団に包まった。
暫くしてノックの音がした。
「メシ食わないのか?お袋さん、心配してたぞ」
「……いらない」
「そうか。じゃ適当に言っとくぜ?」
「うん、ごめん」
「それと中村の事、何を怒ってるかは
知らなけど、気にしてた。仲良いんだろ?
明日からは普通に話してやれよ、喜ぶから」
「…………」
アイツの事は気にかけるくせに、
俺のことは理由すらどうでも良いんだな、お前。
「……じゃな、おやすみ」
まんじりともせず、夜が更けていく。
視線は、真正面の壁。
俺がこんな気持ちになってるのは
本当は中村が、ってわけじゃない。
近衛が俺に何の関心も持ってない事が
悔しかったんだ。
同居するようになって、少しづつ話すことも
増えてきて、嬉しかったんだ。
お前も少しは俺の事気にしてくれるように
なってるんじゃないかって勝手に思ってた。
だけど、こういう時、そういうのって
分かるもんだよな。
茶化すとかでもなく、ただ無関心。
義兄弟になった事もアイツにとっては
特にどうでも良かった付録みたいなものだ。
たまたまオマケが俺だっただけ。
「杠、おやすみ」
もう寝ていると思っていた隣から
不意にそう告げる声がした。
同居してわざわざこんな風に言われた事
ないのに、もしかしたら心配してくれて
声をかけたんだろうか?
そう思うと何だかじわっと込み上げてきた。
「近衛……」
口にすると切なくなってくる。
俺は右手をズボンに手をかけて
ボタンを外して中に入れた。
自分のに手を這わせながら、
ゆっくり扱き始めた。
意識は壁の向こうの冷たいアイツ。
「ん、ん……ん」
段々と熱を持つにつれ、息が上がる。
声は洩れないように、シーツの
裾を噛んでいても、熱くなる息だけは
止めようがない。
「……っ……こ、の」
滑りを伴って段々動きが早く、
激しくなっていく。
壁一枚隔てた俺が、自分相手にこんな
事してる知ったらアイツはなんて思うだろう。
眉を潜めて罵倒するかな?
それとも冷ややかな目で俺を見下してくる?
それでも、俺はきっと好きなままだ。
途端、近衛の顔と声が鮮明に思い出して
(ヤバイ……イキそう)
「ぁ……!!あぁ!」
ベットリと手を汚す粘った感触は、
刹那の享楽から、一気に奈落へと叩き堕とす。
「……近衛」
布団の中、くぐもった小さな声で
その名前を口にした。
※毎回書くものアレなんですが……いきなり垢BAN
されていたらスミマセン。




