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「…………信じられない」


雰囲気的に皆知っていて、

何で俺だけ何も知らないんだよ。



「というか、お前も普通さ、父親になる人の

苗字くらい気にならなかったのか?」


衝撃の昼食の後、促されて

俺の部屋へと近衛に連れて行かれた。


俺は椅子に、ヤツはベッドに腰掛けている。



「俺は苗字変えるつもりなかったかったし」


「何で?」


「一応、杠の名前を継ぐ跡取りだから……」


「へぇ?名前変わって冷やかされるのが

嫌だからって落ちかと思ってたぜ」


う……鋭い。ホントはそっち。


だって母親が再婚したからっていきなり

苗字変わるの恥ずかしいだろう?

変なことで目立ちたくないんだよ、思春期の

心はただでさえガラスの様に繊細なのに。


「せめて、家に入る時に表札くらい

見たらどうだ?」


――全く、ごもっともな意見です。


ええ、今度こういう機会があったら

そうすることにします。


「だけど、お前も母さんも一言くらい

言ってくれてもいいのに」


至極当たり前の事を口にする。


「母親を責めるなよ。

条件を出したんだ、結婚するまで

俺のことは黙っておいてくれって」


「何で?」


今度は俺がそう質問した。


「……そのうち分かるさ」


は?


今、一瞬笑ったか?


言動が意味不明だぞ?近衛。

だから、もう一度

聞き返そうとしたけど、


「で?学校にはどうするんだ?」


話題を別に振られ、しかも

そっちの方が当面の問題だと思っていた

俺は追求するのも忘れ、うーんと唸った。


「後で母さんとも話そうと思うけど、

卒業するまでお前と義兄弟で

同居することになったって事は、

先生とかにも相談して公にしないで

欲しいって頼むようにしようと思ってる」



「…………ふーん」



何か近衛の長い間がちょっと気になるが

これは譲れないモノだった。



「しっかし、お父さん。お前と全然似てないな」


「ああ、母親似らしいから」


確かに顔もだけど、性格も向こうは

穏やかというか、やさしいというか

何か雰囲気がまるで違う。


だってさ……

近衛は掴みどころがよく分からないし。


「母親って……あ、聞いていいのか?」


「10年前に失踪。恐らくは男作って

出て行ったらしい」


「え?……あ、ごめん」


「お前が謝る必要ないだろう。まぁ見て分かる

通り頼りないからな親父。だから逃げられたり

初恋相手に手が出せずに別の奴に、

かっ攫われるんだよ、情けない」


酷い言われようだな、オイ。


にしても、


「初恋って?」


「なんだ、それも聞いてないのか?

お前のお袋さん、親父の初恋相手だぜ」


「ええ!?」


「前はお袋さん、向こうに住んでいて、

親父と高校の同級生だと。

ずっと好きだと言えなくて

大学で彼氏が出来てそのまま結婚して

引越して行ったって聞いてるぞ」


「……初耳だ」


「血が繋がってるとは思えないほどの

不甲斐なさだよ、全く」


「数年前にFBで初恋の相手の所在を知ったって。

だから俺がアタックしろって言ったんだよ」


「お前が?」


「そう」


さっきからずっと引っかかっていた事が一つ。



「お前、俺の事はいつ知ったの?」




「二人共~お風呂よ、どっちでも

いいから入んなさい~」


絶妙なタイミングで母さんの声が

階下からした。


「あ、俺、先入るってくるわ」


「待てよ!」


「何?一緒に入りたいのか?」


「バッっ!!」


冗談だと分かっていても

恐ろしいこと言うなよ。


「違うのか、じゃぁな」


近衛はそれだけ言うとさっさと

部屋を出て行ってしまった。


何か上手く誤魔化された気がしなくもないが。


兎に角、初めて聞くことばかりで

頭の中で整理がつかない。



いつの間にかそんなに考え込んでいたのか

階段を上がってくる音と、隣の部屋が開く

音がした。


「上がったぞ、次お前入れよ」


近衛の声が聞こえた。


「……あ、うん」


本当に一緒に住んでるんだ、近衛と。


生活を共にしてるという

嬉しさと気恥かしさが、今更のようにだけど

一気に改めて込み上げてきた。


これからもっと

アイツの色んな生活してる姿が見れるんだ。


音がする度に、今何をやってるんだろうとか、

その分アイツの事を考える時間も

増えてしまうんだけど。


つい目線が壁にいく。


この壁一枚隔てた向こうに近衛がいる。


…………って、俺は変態か。



確かにこの前、もっと近づきたいって

思ったけど。


神様?仏様?

取り敢えず叶えてくれたのは嬉しいんだけど

極端です、貴女方。


――これから先、ずっとこんな緊張が

続くのか?正直堪らない。

緊張で身体がガチガチだ。


こんな間近で、目と目を付き合わせながらとか

いつ息継ぎしたらいいのか、さっきだって

良く分からなかった。


思わず両手で自分の顔を覆う。


(さっき俺、赤くなってなかったかな)


だって今ですら、こんなに顔が熱いんだ。


「はぁぁぁぁぁ~」



盛大な溜息が思わず出る。


俺、ちゃんとこれから気持ち隠せて

いけんのかよ?



自信ないよ、神様。



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