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「スミマセン!

忘れ物しちゃって、すぐ出ます!」


俺は焦りまくってはいたが、なるべく二人を

見ないように自分の荷物をひったくって

逃げるように部室を出た。



「オイ」


が、閉めようとしたその腕を掴まれる。


「待てよ。俺達ももう帰るから」


近衛は俺の腕を掴んだまま、先輩が

出てくるのを待っていた。


「お前、どうせ駅一緒だろ?

カサ無いから入れてくれ」


「え?」



「近衛君、私カサ持ってるから一緒に

使えば良いよ」


「デカイ俺が入ったら、先輩が濡れるでしょう?

コイツに入れてもらうんで。

それに俺達、駅逆だし」


「あ、そっか。うん、分かった」


俺、傘に入れるとも、一緒に帰るとも

言ってないのに。


先輩を濡れさせない為に俺の傘でかよ。

……別に、いいけど。



返事を言う前にさっさと鍵を返しに

ヤツは校舎に消えていった。


先輩はそんな近衛の姿を見送るように

暫くその場に佇んでいたかと思うと、

俺の方に向き直って、ニコッと笑った。


初めてまともに見たけど、本当に美人だ。

近衛が好きになるのも分かる気がする。


「彼、同じ一年の女子からも人気あるでしょ?」


「えと、どうでしょう。ハハハ」


「良いよ、気を使ってくれなくても」


こんな綺麗な人でも、心配するんだな……


確かにアイツは凄いモテる。

俺がここで誤魔化したところで、この人は

それを知っているだろう。


「……でも、先輩の事しか見えて

ないですよ、きっと」


「そうだといいんだけどね」


そういう照れて笑う顔も多分アイツは

好きですよ、きっと。


だって……間違って俺にキスするくらいだから

余程いつも貴方の事、

考えてるんじゃないんですか?


その言葉も意味もその先輩の笑顔も

俺の心を抉る。


こんな時間、部室で二人

一体何をしていたんですか?


俺は悟られないように下を向いて

自嘲気味に笑った。


俺はいつからこんな笑い方ができるように

なったんだろうか?


先輩、そんな風に俺に笑顔を見せないで下さい。

貴方は、俺の恋敵なんですよ?


―――勝手にそう思ってるだけですけど。


自分の荒んでいく気持ちが

膨らんで破裂しそうだ。


「先輩、暗くなりますから、

帰ったほうが良いです。アイツも心配しますし」


「あ。ごめんね、じゃね」


手を振って帰っていくその姿に溜息が出た。


性格悪いな俺。


……スミマセン、本当は近衛を

待ちたいんでしょうが勘弁して貰いたかった。


このまま先輩が此処にいてアイツが戻ってきたら

また、二人でいるところを見せつけられる。

それは今の俺にはキツイんで。


残った俺は一人、

昇降口でヤツが戻ってくるのを待つ。


勝手に決められた事だから、

いっそ帰ろうかとも思ったけど、


「悪い。待っていてくれたんだな」


近衛の滅多に見たことがない優しい顔で

言われたら、何も言えなくなるじゃないか。



ズルイよ、お前。



「朝から、雨降るっていってたろ、

何でカサ忘れてんだよ?」


これくらいの嫌味言っても良いよな。

だって何か話してないと間が持たないし、

何より緊張するんだ。


「カサ面倒臭いんだ、持ってくるの」


「どういう理由だよ、濡れたら

そっちの方が後々面倒じゃんか」


呆れた理由に笑いそうなったが、

やっぱり目が少しでも合うと

笑いが引き攣る。


顔も声も、全てが好きだと感じる感覚。

人を好きになるってこんなだっけ?


ドキドキするんだよ、お前といると。


好きな相手とこんなに近く、話せるとか

片思いをしているヤツにとって

それだけで、嬉しいんだ。


「ていうか、彼女あてにしてたんだろう?

俺なんかと帰って良かったのか?」


「その時は濡れて帰るつもりだった」


「はは。あくまで先輩は

濡らしたくないってことか?のろけるなよ」


「正解」


「……ハハハ」


例えそれが彼女の話だとしても。



今ちゃんと普通に話せてるよな?

だって、俺の気持ちに気付かないだろ?


友達でもいい。

俺を好きになってくれと贅沢は言わないから

もっとお前に近づきたいんだ。



―――それくらいは俺にだって許されるだろ?



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