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「す、好きだ、近衛」
「…………は?」
「だから、そのお前のこと好きなんだ」
「そりゃどうも」
んじゃ、とか言って
行こうとするのを引き止めた。
「ちょちょちょ、待てって」
何で、そこまで聞いて
フツーに行こうとするんだよ。
「は?まだ何かあるのか?」
「いや、だから、その……そうなんだ~とか、
ありがとうとか、いつから好きだったのか?
とか……俺も、とか。
と、兎に角、聞かなきゃいけない事項、
目白押しだろう?」
何で俺、告白してんのにキレてんだ?
いや俺は悪くない。
そうだコイツが反応鈍いのが悪いんだ!
って、言ってるそばから、
「そこ!欠伸してんな!」
「あ?まだ続くのか?
俺、彼女待ってるんだけど?」
「…………彼女と別れて、
俺と付き合って欲しい」
“彼女”って言葉に怯んで声が
小さくなってしまった。
「なに?聞こえなかったんだけど?」
「俺と付き合って下さい!近衛」
「え?そう言う意味?」
緊張で手が汗ばんできた。
「……うん」
「お前、もしかしてホモ?」
違う、好きになったのはお前だけだし。
他の男とか全く興味すらない。
「お前だけ……好きなんだ」
「って、ホモってこと認めるんだな?」
徐に近衛がケータイを取り出した。
「中村か?なぁなぁ、此処にホモいるんだけど
見に来ねぇ?」
「え!?」
「あ。先輩?俺と付き合いたいって変なヤツ
いるんですけど?、いや、男です。
え?見たい?場所は……」
唖然とするとする俺を尻目に、
近衛は次々とケータイを掛けまくっている。
「な……っ」
いくらなんでもあんまりだ、こっちは
決死の思いで告白したのに。
「面倒くさいな。いっそ全館放送すっか」
「やめろ!やめてくれ!
そうじゃない!俺は違うんだぁぁぁぁ!!!!」
ボカッ!
「うるさい」
頭部に衝撃を感じて立ち上がると、真横に
監督兼、古文の担当の紺里が立っていた。
見渡すとそこはシーンとした教室で、
まさに授業の真っ最中。
状況的に俺はどうやら居眠りをしていたようだ。
「お前、静かに居眠り出来んのか?」
途端、クスクスと笑いが教室中に充満する。
俺は結構大きなん声で
うなされながら寝ていたのだと、
隣の席のヤツがコッソリ教えてくれた。
恥ずかしくって穴があったら
入りたいとは、まさにこの事だ。
「じゃ、次、違いの分かると激しく自己主張
してくれた杠に読んでもらおうか」
わざわざのご指名に応えたいところだけど、
………………で、どこのページだ?
「なぁ、ユズ、お前のクラス今日誰か
絶叫してなかった?」
一緒に部活に向かう途中、予想していた通り
中村が聞いてきたが、
すぐ後ろにいる近衛を前にして
“俺です”と言い出せる勇気は
持ち合わせていなかった。
いつもの基礎トレをしながら
ふと近衛に目が行く。
“好き”……か
現実は夢のように、そう易々と
口にできる出来るものじゃない。
自分自身も持て余してる感情を
どう伝えればいいのか……
といか、伝えても良いのかすら分からなかった。
相手は女の子ならまだしも、
男から言われて困るだけで、嬉しいとか
思うヤツなんかいないだろうし。
やっぱり
言うべきじゃない、よな。
絶対、悟られてはいけない。
知られたらきっと気味悪がられて
傍にいることさえ出来なくなってしまう。
それだけは嫌だ。
だから……これは俺だけの秘密。
想うだけなら構わないだろ?
迷惑は絶対、掛けないから。
文字通り、
好きだと自覚して俺の地獄が始まった。
部活が終わる頃、外は雨。
一旦帰りかけた俺は、部室にユニホームを
忘た事に気づき、どうしようかと思ったけど、
汗の染みた服をそのまま置いたまま
というのも気が引けて
仕方なく取りに戻る事にする。
もう誰もいないと思っていた部室から
光が漏れていた。
(良かった、わざわざ校舎に鍵を貰いに行く
手間が省ける!)
「失礼しまーす」
勢いよくドアを開けて俺は凍りついた。
そこには、近衛とその彼女がいたからだ。




